第6話 トラツグミ

 フラフラと重い足取りの中、ようやく学校から家に辿り着いた。そして僕はすぐさまベッドに倒れ込んだ。


 ユイちゃんの彼氏になった。


 嬉しさはもちろんあるけど、照明を点ける気力さえなかった。


 手で股間を弄ると力無い弾力が返ってきた。そのいろいろと混ざった匂いを嗅いでみて、すぐに思い出すのはついさっきの出来事だった。





 目の前には想像を絶する美があった。「美しい鳥」ベストテンにも載ってないような美しさだった。強いて例えるならシマエナガといったところだろうか。



『ど、どうかな…』


『綺麗だ… シマ…雪の妖精みたいで…』


『そ、そういう感想なんだ……。ね、触って?』


『あ……えっと、その…』



 エッチな事は大人になって結婚してからにしなさいって、父さんと母さんが言ってたんだけど…そう言いたいのに、言葉が出ない。



『…? あっ、しーくん優しいもんね。じゃあ、ユイが先にいい?」


「さ、先に?」



 優しい? 先に? 何の話だろうか…? あぐっ!?



『……しーくん…。えへへ…ナデナデ気持ちいい…?』


『なん、あ、待っ、っぐぅぅッ!!』


『えっ』



 僕は一瞬で果てた。物凄い幸福と背徳で果ててしまった。自慰なんて目じゃないくらいの快感だった。

 


『ご、ごめん……本当ごめん…』



 僕はなんて情け無いんだ。今日は本当に格好悪いところばかりだ。



『っ、え、えへへへ…気にしないで、嬉し〜…から。お掃除してあげるね』


『…お掃除…? いや、自分で──え?! 何を!? あひっ!? そんな汚、やめて! 「ひはなふはいほ」 あ、ああ、あぁぁあああ!! ぼ、僕、さっき、脚立、パンツ見て、しまってぇ! ご、ごめんなさいっ、あっ、ああっ!』


『ぱんふ? ん、ん、ちゅぽっ、ふふ。いいよ。んしょ、ちょっと待って。はい……』


『はえ…? わっ!?』


『色変わってた…恥ずかしい…えへへ…あ、こんなにすぐに…嬉しい。これなら大丈夫だよね。んしょ』


『ちょっと待ってユイちゃん!?』



 ユイちゃんは僕に跨ってきて狙いを定めていた。


 怒涛の展開過ぎて僕は頭が混乱していた。


 こういう時は何だっけ! 何だっけ! ああ! 父さんが言っていた!「迷ったら心で決めなさい」だ!


 でも頭で考える常識も、心が誘おうとする欲求も、全てがユイちゃんしか見えてこない。脳内100%ユイちゃんだ。



『え……? だってもう彼女だし…ダメ…?』


『それは……ん? それ……』



 スミレボウシハチドリのすみれ帽子をずらしたユイちゃんから、ダラリと何かが滴っていた。それと同時に何か言っていたけど、目が離せず僕の耳には届かなかった。



『…女の子は好きな人の前だとこんなに溢れるんだよ…?』


『そ、そうなんだ…知らなかったな…じゃなくて大人になってああっ?!』


『んんんっ』


『ち、たべちああっ!』


『えへへ…ぐす、ひぅ、やっと、えへへ、ぐすっ、わたし達、やっと繋がったね?』


『…ユイちゃん…涙なんて、い、痛いんだよね? 今ハ、ハンカチ出す──』


『……え? え…へへ………う、嬉しいから平気だよ。じゃあ動くね』


『う、動く?』



 その言葉の意味の予想はつかなかったけど、こういう時は普通オスがダンスするものじゃないかな。そう思っていたら下校のチャイムが鳴った。


 ユイちゃんは「残念…」と言って立ち上がり、そのまま下着で蓋をした。


 そしてすみれ帽子は広がった。


 どうやらあれはそういうことだったらしい。



「手を繋いで帰ろ?」


「う、うんっ!」





「ユイちゃん…ユイちゃん…」



 僕はそれを思い出しながら、手のひらに付いた彼女と僕の匂いに何度も何度も鼻を引くつかせて、彼女の名前を呟いた。


 そしてまた硬さを取り戻したそれを照明もつけてない夕闇に何度も何度も解き放った。


「んぐっ!! ──っはぁっ、っはぁ、はぁぁぁ…」


 僕はユイちゃんみたいにドロリと白く垂れた。


 あんなに出したのに、興奮が止まない。


 少し冷静になった僕は、ポーッとしながら、夢のような一日の夢の中に、微睡むようにしてようやく落ちた。

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