第75話 クリパの約束は早めに


 俺と、沙耶が教室に入って行くと矢田さんと遠藤さんが声を掛けて来た。

「ねえ、柏木君。塚野さん。今度の土曜日、午後から皆でクリパしない?イブもクリスマスもウィークディだから二人共都合あるでしょ。他の子達も声掛けているの。どうかな?」

「土曜ですか?」


 俺は隣に座る沙耶の顔を見ると首を横に振っている。

「土曜日は二人共都合悪いんだ」

「えーっ、そんな事言わないで。午前中とか午後早くとか言わないからさ。午後三時位から二時間とか。ねっいいでしょう」

「午後三時からか」


「塚野さんも毎日柏木君と一緒なんだから少し位、皆で話をしましょうよ」

「そうよ。塚野さん。偶には皆で楽しみましょう」


 土曜日の午後は悠斗とあれをするつもりだ。なんとか止めたいけど。悠斗の顔を見ると


「午後三時からか。うーん。沙耶、偶には良いんじゃないか」


 土曜日沙耶とは午後から会うだろうし、午後三時ならいいだろう。それに日曜日も家族いないって言っているんだから。


「悠斗がそう言うなら」

「じゃあ、決まりね。直ぐにクラスのグルチャで連絡するね」


 ふーん。悠斗がクラスのクリパを受けた。土曜日午前中は稽古、午後三時からなら都合いいという訳か。塚野さんとは上手く行っているようで上手く行っていないのかな?



 予鈴が鳴って榊原先生が入って来た。いつもながらブラウスのボタンが可哀そうだ。



 お昼になり大吾と沙耶と三人で…と言っても傍に遠藤さんと矢田さんがいる。ちょっと離れて優子が仲のいい女子達と一緒だ。この状況の内に何とかするか。


「大吾、今度の土曜日の件だけど…」

「悠斗。俺は駄目だ。家の手伝いがある」

 休めなくもないけど、悠斗には悪いがこの面子は俺にはちょっと厳しい。


「なあ、何とかならないか」

「無理」

「矢田さん、男子は俺以外誰か来るの?」

「誘っているけど、今の所いい返事貰えていない」


「えーっ、それって」

「悠斗、ハーレムだな」

「大吾ーっ!」

「モテる男は辛いなーっ。おれちょっと行って来る」


 大吾は、さっさと食べ終わると教室を出て行った。気持ちは分かるけど。



 矢田さんと遠藤さんがニコニコしている。これって最初から仕組んだんじゃないか。こんな話していると教室の後ろのドアに皆の視線が行った。見ると桂さんだ。俺達の傍に来ると


「お食事が終わったら少しお話したいのですが?」

「話し?何?」

「はい、食べ終わった後からで」

 そう言うと一度教室を出て行った。


「悠斗」

 沙耶が心配そうな目で俺を見ている。


「聞いてみないと分からないよ」


 十分程して桂さんが、もう一度教室に入って来た。

「悠斗さん、廊下で宜しいですか?」

「良いけど」


 沙耶が心配そうな顔をしているけど、今更何を言われても何も変らない。



 廊下に出ると何故か桂さん以外に2Bの女子三名と男子三名が寄って来た。

「悠斗さん、この方達とクリパをしようと思っているのですけど、悠斗さんも参加して頂きたいのですが」


 顔だけは知っている男子が、

「柏木、偶には俺達とも話さないか。隣のクラスだけど話した事無いし」

「そうだよ。俺、柏木に憧れているんだ。一緒に話しないか」

「そう言われても」


 もう一人の男子が、

「俺も柏木とは一度話したかったんだ。学校で一番有名な柏木と話せるかも知れないからって、クラスで抽選が有った位なんだ」

「抽選?」


「済みません、悠斗さん。私、どうしてもあなたとクリパをしたいのですけど、私だけだと駄目だと思って、お友達三人を誘ったら、それを聞いた男子が俺も俺もと言い出して…」


「なっ、頼むよ柏木。話をしようぜ」

「俺もだよ」

「俺もだ」


「そんなに言うなら。でもいつ?」

「明後日の金曜日の放課後でどうかな?二時間位のつもりで居るから遅くはならないし」


 金曜日か、一日位良いか。

「分かった。参加させて貰う」

「やったぜ。スーパーヒーローと話が出来る」

「「おう」」


「では悠斗さん、金曜日の放課後で」

「はい」


 そう言うと桂さん達は2Bに戻って行った。


 

 ふふっ、まさかこんなに上手く行くとは。確かに男子が悠斗さんと話したいと言って声を掛けて来たのは良いけどこんなに簡単に彼が参加してくれるなんて。




「美優、チャンスだよ」

「頑張って」

「そうそう、柏木君に一番相応しいのは美優なんだから」

「皆有難う。楽しいクリパにしましょ」

「「「うん」」」



 俺が教室に戻ると何故か沙耶、矢田さん、遠藤さんが怖い顔をしていた。席に戻るには不味そうなのでトイレに行くことにしたのだけど、沙耶が俺を見つけて近寄って来た。


「沙耶、俺ちょっとトイレ」

「駄目!」

「いや、駄目と言われてもとにかく行かせて」

「もう!」



 俺は実際に行きたかったのでトイレに行ってさっさと用事を済ませて出て教室に向かおうとすると


「悠斗」

「優子か」

「ふふっ、どうするの?」

「どうもこうもないよ。早く冬休みになって欲しい」

「ふふっ、悠斗いつでもいいよ。相手がいようがいまいが悠斗がスッキリするなら」

「ふっ、それも有りかなと思う様になったよ」

「えっ?!」


 そこで予鈴が鳴ってしまった。


「早く教室に戻らないと」

「うん」


 優子と一緒に急いで教室に戻ると、沙耶と矢田さんと遠藤さんがさっきよりもっと怖い顔になっていた。



 放課後になり沙耶は図書室に行った。俺も少し遅れて図書室に行く。この時期になると常連さん以外いない。

 

 当然本の貸し借りも無くて沙耶は暇そうにしている。俺も二学期末考査も終わって冬休みももうすぐだ。勉強はせずに好きな本を読んでいる。



 予鈴が鳴って常連さんも図書室から出て行くとPCをシャットダウンして図書室を見回っている沙耶が俺の所に来て抱き着いて来た。


「悠斗、私…」

「心配するな。俺は沙耶以外…」


 ガラガラ。


 ドアの音に振り向くと榊原先生が入って来た。


「あなた達何してるの?もう最終下校時間は過ぎましたよ。塚野さんもPCは落としてあるんでしょう。直ぐに帰りなさい」

「は、はい」


 俺は、本をバッグに入れて入口に向かうと

「柏木君、学年成績順位一位。品行方正。人命救助の表彰もされている。校内でも人気のあるあなたが詰まらない事で信用を落とさない様に。内申を詰まらない事で汚しては駄目よ。でも今回は見逃してあげるわ」


 榊原先生が俺の顔をジッと見るとフッと笑った。


「柏木君、君は来年三年生よね。部活動に関して三年は二学期迄はやる事が出来る。どうかな。図書委員にならない。来年の新入部員が採用出来るまででもいいんだけど」

「考えておきます」


 ふふっ、イケメンで背も高いし成績もいい。黒川温泉で見せたあの勇気と正義は先生方だけでなく生徒達の間でも評判になっている。生徒の憧れと言ってもいい。 

  

 それに何とか図書委員にしないと私が困ってしまう。塚野さん、それに私と彼の二交代でもいいけど。

 

―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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