第43話 プールは後半戦 矢田vs塚野


 まさか、塚野さんがあんな手で来るとは思わなかった。こうなったら


「柏木君、あれしよう」


 矢田さんが指差したのはウォータースライダー。思い切り嫌な予感しかしない。去年優子と来て、どうするか知っているから。


「良いけど、別々に滑るよ」

「うん」

 おかしい。別々を簡単にOKした。


「悠斗良いんじゃないか」


 大吾も賛成したので、四人で行く事にした。


 ふふっ、矢田さん。思ったより早めに手を打って来たわね。私は既に正面から柏木君と抱き合っている。彼女の考えは分かっている。ここはイーブンに持ち込めばいい。



 天気が悪い所為もあるのかほとんど待たずに滑る事が出来た。勿論高い方だ。一人で滑ると気持ちいい。


 俺、大吾、矢田さん、塚野さんの順で滑り降りて来ると

「うわーっ、楽しい。もう一度やろう」

「いいよ」


 俺、矢田さん、大吾、塚野さんの順で階段を上がると

「ねえ、柏木君、一緒に滑ろう」

「えっ、一人ずつで」

「ねえ、良いでしょう」


 係の人が早くしてくれという顔と楽しそうな顔をしている。まだ決めていないのに

「はい、彼氏さんは前ですね。彼女さんは彼氏さんの後ろに座って、手をお腹迄回してギュッと絞めて下さい」


 ほぼ強制的に滑る事になった。

「はい、行きます」


 ふふっ、柏木君のお腹に腕を回して、私の胸や体を彼の背中にくっ付けている。右に左に曲がる度に私の胸が彼の背中に擦り付けられている。どう、柏木君。気持ちいいよね。



 参った。結構背中にプレッシャーがかかる。最後に二回転した時はもうどうしようもない感じになっていた。


 ザブーン!ザブーン!


「うわーっ、気持ちいい。思い切り気持ち良かったよ柏木君」

「そ、そだね」

 まだ背中に感触がある。大吾と塚野さんは別々に滑り降りて来た。


「柏木君、今度は私と」

「駄目、もう止めよう」

「矢田さんだけずるい。柏木君。お願い」


 大吾がニヤニヤしている。こうなったら

「塚野さん、矢田さんが大吾と一緒にやるなら良いよ」

「「えっ!」」


 悠斗の奴、何てこと言いだすんだ。

「悠斗、もう止めないか」

「駄目だ。楽しもうぜ大吾」


 ふふっ、柏木君ありがとう。


 また四人で大きい方のウォータースライダーに昇った。もう三回目だ。係員の人が最初不思議な顔をしたが、


「はい、彼氏さんのお腹に彼女さんの腕を回して手でギュッと掴んで下さいね。彼氏さんの背中に思い切りくっ付いて下さい」

「はーい」

 この人わざと言っている。


「はい、スタートします」


 私は、柏木君のお腹を思い切り掴みながら胸やお腹を彼の背中にくっつけた。何故かとても安心する。右や左に振られる度に私の胸が寄れる。ふふっ、柏木君どうかな?



「はい、次の方」

「あっ、おれ一人で行きます」


 矢田さんが声を掛ける前にスタートした。


 あっ、行っちゃった。でも良いか。



 俺は、思い切り塚野さんの柔らかい肌を背中に感じながら滑り降りた。結構メンタル面がきつくなって来た。直ぐに大吾が降りて来た。あれ?一人だ?


「大吾、矢田さんは?」

「ああ、一人で滑るって」

「そうか?」


 矢田さんが降りて来た。特に不満そうな顔はしていない。大吾の言った通りかな。



 矢田さんが滑り降りて来た所で雨が降り出した。

「シート片付けて浮輪返して中に入ろう」

「そうするか。矢田さん、塚野さんいいよね」

「「うん」」


 目的達成。これで柏木君の前と後ろから思い切り私をアピールする事が出来た。後は最後の仕上げだ。


 俺達が、売店の脇でシートを横長に敷いて買った焼きそばやフランクフルトを食べながら

「悠斗どうする?雨止みそうにないぞ?」

「そうだな。帰るか」

「「えっ。駄目」」

 またハモったよ。この二人仲が良いな。


「でも、雨降っているし」

「体も濡れているし、問題ないですよ。ねえ、矢田さん」

「うん、もっと遊びたいよね塚野さん」


 なんかこの二人グルになっていない?


「大吾どうする?」

「まあ、二人がそう言うなら付き合うよ」

「「ありがとう中山君」」

 またハモった。



 実際、お昼を食べ終わって休んで居ると雨が小降りになって来た。この程度なら問題ない。他のお客も帰る素振りを見せていない。居るしかないか。



 矢田さんと塚野さんの悠斗争奪戦。途中で幕引きじゃあ詰まらない。もう少し見て見たい。二学期が楽しみだ。



 俺達は、その後波の出るプールに行った。波が出ると言っても海の波じゃない。人口の波だ。でも腰位までの深さと波の高さがある。それに結構連続して来る。


 最初四人で、波で遊んでいたけど、塚野さんが

「柏木君、波が来たら一緒に飛んで下さい」

「えっ?」

「良いじゃないか悠斗やってあげなよ」


 何で中山君が塚野さんを推すの。

「それなら私も柏木君と一緒に飛びたい」

「いいね。十回ずつやって貰ったら。悠斗体力あるから問題ない」

「「はい」」

 おい、大吾。後で覚えてろ。



「じゃあ、私が先に」

 塚野さんが何も言わずに俺の手を掴んで来た。波が来る度に同時に飛び上がるのだけど、塚野さんが段々飛ぶごとに俺の体に体重を乗せてくる。そして


 波が来たので飛ぶと

「きゃーっ!」

「うぉ!」


 飛び跳ねて降りる時に思い切り塚野さんが体重を掛けて来てそのまま俺は後ろに倒れた。腰まである水の中に倒れ落ちると、何故か塚野さんの顔が俺の目の前に、な、なに!



 その状態から何とか起き上がると矢田さんが思い切り怖い顔している。

「塚野さん、わざとでしょう」

「な、何の事かな?」

「変わりなさいよ」

「でもまだ二回残って…」

「今ので充分でしょ。柏木君、今度は私と」

「う、うん」


 ふふっ、倒れ込んだ時に水の中とはいえ、私のファーストキスは柏木君にあげられた。もう最高。今日は百点満点です。



 これは面白くなって来た。まさか塚野さんがここ迄行動力のある人とは。これは後が楽しみだ。


 俺は、矢田さんと手を繋いで波が来る度に飛び上がるが、塚野さんとの経験を生かした矢田さんが俺に体重を掛けようとしたところでそれを流す様にしている。


 全然、体がくっ付かない。塚野さんと同じ様にして何とか、水中に持ち込まないと。


 後一回だ。仕方ない。私は飛び上がると同時に柏木君に抱き着いた。


「うわっ!」


 そのまま彼を水の中に押し倒して…という訳には行かなかったけど何とか思い切り私の体を彼にくっつける事が出来た。まだ離さない。


「あの、矢田さん。もう終わったんですけど」

「いいじゃない、塚野さんとあんな事して」

「あれは事故です」


「そうよ、事故だから離れて矢田さん」

 私は矢田さんを柏木君から放そうとしたけど…離れない。


「矢田さん、その辺にしときなよ。悠斗も戸惑っている」

「うん」


 一杯くっ付いている事が出来た。これでいいか。彼女に一歩リードされた感じはあるけど、私だって十分にアピールできたはず。



 俺は、流石に

「もう帰るか。時間だし」

「えっ、まだ午後三時だよ」

「もう三時です」


 悠斗、流石に怒ったか。


 俺と大吾は更衣室に入る前にシャワーを浴びてから中に入ると

「大吾、今日は随分、あの二人をけしかけてくれたな」

「何の事だ?俺は二人の気持ちを尊重しただけだ」

「お前なぁ」


「悠斗、もう覚悟しろ。どっちかを選べ。そうすればあの子の事も忘れられる」

「しかし、今の俺は」

「急でなくてもいいさ。どっちかいや両方でもいい。徐々にどっちかになっても良いんじゃないか。

 矢田さんもだけど塚野さん、あんな事をする程、お前に惚れているんだ。普段あんなに大人しい子をあそこまで必死にさせているんだぞ」

「そんな事言ってもな…。まあ考えるよ」



 それから四人で帰ったのだが、矢田さんと塚野さんが犬猿の仲…にはなっていなくて仲が良くなっている。どうなっているんだ?


 ふふ、私は矢田さんと清々堂々と柏木君を争う事に決めた。ここまで二人の気持ちがはっきりした以上、こそこそするのは止めようという事に彼女と約束した。



 彼女が電車から降りる時

「塚野さん、負けないわよ。じゃあね」

「こっちもよ」


「なあ、大吾。あの二人?」

「さあ?」


 大吾が次に降りて一駅だけど塚野さんと二人だけになった。

「柏木君、後で電話していい?」

「えっ、それは構わないけど。何か有ったっけ?」

「用事無くても声聞きたいの。あっ、着いた。じゃあ後で」


 彼女が手を振りながら電車を降りた。今日の事はどう考えればいいんだ。面倒な事は当分良いんだけど。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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