第41話 プールに行く前には体のケアと心の準備が重要です
夏休みの宿題も終り、俺は三日から五日までの二泊三日で道場の夏合宿という名前の海水浴に参加した。
参加した人数は二十五人。男子が十五人、女子が十人だ。小学校六年から大学四年まで幅広い。
年上が年下の面倒を見るのは、日頃から常なので、両親も安心して送り出してくれる。
それ以外にも師範代や道場主の奥さんとか、面倒を見る人が五人参加するから大人数になる。
今年も行先は外房御宿という白い砂浜が二キロもある有名な海水浴場だ。宿は毎年同じ大野荘とう海に近い大きな旅館。
午前中は、学校の体育館を借りて稽古に励んだ後、宿に帰り午後からは皆で浜辺で鍛錬という名前の海水浴をする。
水泳禁止区域という所が有るので、そこの浜辺を利用して五十メートルを二十五人を五組に分けて上位二人の勝ち抜き戦をやる。更に十人を二組に分けてそれぞれの組の上位二人、計四人で競う。
年長者だから足が速いという訳ではない。中学生が大学生に勝つ場面もある。それに砂の上は走り辛い。人が走った後は更に走り難い。
俺は二回戦で敗れた。真面目に走るというより遊びという要素が強いので、大体中学生が勝つ。俺も中学二年の時に一度勝っただけだ。
一位には後で行うスイカ割を一番最初に行えるという褒美かどうか分からない権利が貰える。
その後は、普通に泳げる浜辺に移動して皆で泳いだり波打ち際で遊んだりする。
そして夜は花火大会。高校生以上は中学生以下の花火をサポートしながら行うという約束になっているのであまり出来ないけど、みんなの笑顔がとても心に沁みる。
そんな素晴らしい日を二日続けた最後の日は、午前中の稽古が終わって、みんなでシャワーを浴びた後、昼食摂って帰るという予定だ。
楽しい事は一瞬で過ぎるというけど本当だ。この前来たと思ったらもう帰る日になっている。
皆で、大野荘でお世話になった方達にお礼を言った後、帰路についた。行きはみんな元気一杯だったけど、帰りは電車の中で良く寝ている。
そして道場まで戻って解散だけど、小学生の親だけはいつも迎えに来て居る。まあ、当然だけど。
俺も家に帰って洗濯物を洗面所に出した後、ダイニングに行くとお母さんだけが居た。
「お母さん一人?」
「梨花は陽子ちゃんと一緒だから」
「そうか」
「どうだった。夏合宿は?」
「今年も滅茶苦茶楽しかったよ」
「そう、良かったわ。少し焼けたわね」
「うん、毎日良い天気だったから」
渡辺さんの娘さんとは、休み前にも色々有ったらしいけど、今の顔を見る限り引き摺っている様子はない。
あの家とはもう縁を切ったつもりで居たら、妹の陽子ちゃんが梨花と仲良くしていて、悠斗とも仲がいい。
子供達が、仲が良いのに私の感情で家と家との間の仲を悪くするわけにはいかない。悠斗が立ち直ってくれるならそれに越したことはない。
でも、どんな理由があろうと悠斗にあんな姿を見せたあの子だけは許したくない。
私、塚野沙耶。十日に柏木君と一緒にプールに行く。矢田さんも来るけど、負けていられない。むしろ矢田さんは中山君に任せたい。
水着も買い替えた。買う前に柏木君はどんな感じの水着が好きなのか、いえどんな水着を着ている女の子に良い印象を持つのか考えた。
勝手な想像だけどあまり露出が多くても嫌われる感じがする。彼はそういうのって好きじゃない気がするから。
だからオレンジの布面積の多いビキニの水着を買った。でもしっかりと胸の谷間位は見える様な形しているけど。えへっ、少しはお色気もアピールしないと。
ラッシュガードは薄水色の控えめな奴を選んだ。お肌のケアも忘れない。彼に見せる肌に染み一つあってもいけないし、日焼けも厳禁。彼と一緒に行ったプールで日焼けしたという肌にしたい。そうすれば彼と夏を過ごしたという事実が私の心の中にもしっかりと残る。
本当は彼と毎日一緒に居たい。傍に居るだけでもいい。でもそれが出来ないからプールに行く日を大切にしたい。そうすれば私の肌に残っている柏木君という日焼けが二学期迄私の心を保ってくれる。
でも、…男の人に水着姿見せるのも、少しとはいえ体を触れ合うかもしれないというのもそれって初めてなんだよね。一杯の不安とちょっとの期待って所かな。やっぱり楽しみ。
私、矢田康子。十日に柏木君とプールに行く。私はスタイルがいい。この体を思い切り彼にアピールして私を意識して貰うんだ。
だからといって露骨なビキニは、彼は好きじゃなさそうに感じる。だから水色チェックの可愛いビキニにした。
私の肌は真っ白って訳じゃない。日差しの強い所に出ると直ぐに日焼けしてしまう。だからプールに行くまでは外では長袖を着ている。顔も日焼け止めをしっかりと塗っている。
そしてプールに行った時に彼と一緒に日焼けして思い出を一杯作るんだ。一緒に水遊びして、一緒にウォータースライダーに乗って、一緒にお昼食べて、彼に抱き着きながらプールに入るんだ。
塚野さんもいるけど絶対に負けない。でもムリムリすると彼は嫌がると思う。だから彼女に譲りつつ優しい女の子を演じて私の方に気を向けさせる。
彼女は中山君に任せればいい。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます