第39話 夏休みが始まります
今日は火曜日。今日と明日が午前授業で木曜日が大掃除。そして金曜日に終業式だから気分が楽だ。
そしてもう一つ気分が楽になった事がある。優子の事だ。この前まではあいつの事を見ると吐き気する位嫌だったのに、昨日の事が有って大分気が楽になった。
優子の事を全面的に許す気には、とても慣れないが、どうしたあんな状況になったのかという事が分かっただけでも随分違う。
まあ、確かにあの時点で三谷を知ったら、両手両足は全て折って、鼻を潰して顎を砕く位はやっていたかもしれない。そんな事したら理由に関わらず百パーセント退学だ。
それを考えると全てが優子の所為にするという訳には行かない。俺は教室に入って、大吾に
「おはよう、大吾。何とかなった」
「そうか、良かったぜ。だからプールは無しに…」
「それは駄目だ。俺が撃沈しそうだ」
「何とかなったって、何の話?」
「撃沈って何?」
「あははっ、おはよう、塚野さん、矢田さん」
「ねえ、柏木君。夏休みの宿題の事なんだけど…」
「あっ、ごめん。ちょっと行かないと」
絶対に一緒にやろうなんて言って来るに決まっている。それだけは避けないと。
時間だけ潰して予鈴が鳴って直ぐに教室に入った。そして直ぐに榊原先生が入って来た。良かった。
中休み、何気なしに優子の方を見ると、いつも悲しそうな顔をしているのに、今日はいつもよりスッキリとした顔になっている。
俺が視線を向けたのが分かったのか少しだけニコッとした。あいつも精神的に楽になったのかな。普通に話すなんてまだ無理だけど。
私、塚野沙耶。柏木君が、渡辺さんの方を見た。するといつも悲しそうな顔をしている彼女が少しだけだけど笑顔を見せた。どう言う事?何故?
私、矢田康子。柏木君が渡辺さんの方を見た時、確かに彼女は少しだけだけど笑顔を見せた。そして柏木君もまんざらでもない顔をした。
どういう事?渡辺さんは柏木君を酷いやり方で振って、彼は、今は絶縁状態どころか、顔を見るのも嫌じゃなかったの。この連休で何が有ったの?
俺は、午前中の授業が終わると、一人でそのまま帰った。図書室は開くけど学校側で色々有るらしい。明日は別の理由らしいけど。
一人で帰っていると
「お兄ちゃん」
後ろを振り返ると梨花と陽子ちゃんがいた。
「家に帰るの?」
「そうだけど」
「じゃあ、私達も一緒に帰ろうか」
「うん」
陽子ちゃんが嬉しそうに返事した。
「お兄ちゃん、夏休みの宿題だけど、一緒にやっていい?」
「それは良いけど、一年生と二年生では、中身が違うぞ。一緒にやる意味有るのか?」
「あるある、思い切りある」
「まあ、梨花が一緒にやりたいならいいけど」
「お兄ちゃん、陽子ちゃんも一緒で良いよね?」
「えっ?!」
梨花の奴、それが目的だったのか。今更やっぱり駄目だと言ったら、陽子ちゃんが私が原因なのとか思って、変に二人の仲を拗らせてしまうかもしれない。
うーん、はめられた感満載だけど仕方ない。
「いいよ」
「やったぁ。良かったね陽子ちゃん」
「うん!」
次の日も終業式の時まで、矢田さんだけでなく、塚野さんまでもが一緒に夏休みの宿題をしたいとか言いだしたけど丁寧?に断った。
一緒に宿題するならプールは無しという理由を付けて。彼女達は、何故かプールに行くのを選んだ。そんなに行きたいのかなプール?
夏休みの初日、午前九時には陽子ちゃんがうちに来た。早い。午前十時から始めると言っているから俺はやっとベッドから起きたばかりだというのに。何でこんなに早く来るんだ?
午前十時にリビングに三人で集まった。俺は夏休みの宿題の全体を見まわして量と難易度を考えて簡単で量が少ない物を先にやり、簡単だけど量が多い物を次にやり、難易度が高い奴を後に回しにする事にした。まあ俯瞰の視点からすれば当然だけど。
三人いるのでリビングでやる事にしている。お母さんが途中、冷たい飲み物とか差し入れてくれるので助かる。
午前十二時を過ぎると
「お兄ちゃん、陽子ちゃんと一緒にお昼作って来る」
「えっ、コンビニ弁当で良いんじゃないか?」
「駄目、せっかく家に居るんだから私達が作る」
「私達?」
「そうだよ。私と陽子ちゃん」
なんか、梨花の作戦にまんまとハマっている感じだ。二人が何故か嬉しそうにキッチンに行く。でも直ぐに戻って来た。
「お兄ちゃん、どうこのエプロン?」
梨花は、いつも見慣れているウサギがおたまを持ったデザイン。陽子ちゃんはクマさんがおたまを持ったデザインだ。
「ああ、二人共良く似合っているよ」
「そ、そうですか」
なぜか、陽子ちゃんの頬がほんのり赤い様な。エプロン見せるとまたキッチンに戻って行った。
陽子ちゃんの気持ちは嬉しいけど、陽子ちゃんは姉の優子によく似ている。もちろんとても可愛い。だから抵抗がある。口に出して言えないけど。
二十分程して、
「お兄ちゃん出来たよ」
「おう、ありがとう」
キッチンに行くとオムライス、野菜サラダそれにシンプルなスープがテーブルの上に三人分出来ていた。
「あれ、お母さんは?」
「うん、お買物に行った。私達の後、食べるから良いって」
「そうか」
お母さん、気を利かせたのか?
俺は、スープを一口飲んでからスプーンでオムレツの真ん中を割くと、フワッっと両側に表面の卵が割れて中から柔らかい卵がとろけ出した。
「うぉ。凄い」
「でしょう。それ陽子ちゃんが作ったんだよ」
「へーっ、陽子ちゃん凄いね」
「ありがとうございます。食べてみてください」
俺はオムレツの端とご飯の部分を丁寧にスプーンですくって、口に運ぶとケチャップライスと卵のマッチングが最高だ。
「美味しい!」
「良かったね。陽子ちゃん」
「はい!」
お世辞抜きでとても美味しかった。優子も料理は上手だったけど、流石姉妹だな。なんで優子の事ばかり頭に浮かぶんだ。やっぱり陽子ちゃんを見ていると思い出してしまうのかな。
ご飯を一粒も残さずに綺麗に食べ終わると梨花が冷たい麦茶をコップに注いでくれた。
「お兄ちゃん、毎日作ってあげるから楽しみにしてて」
「ああ、楽しみにしているよ」
それから二十分位休んだ後、梨花と陽子ちゃんが食器を洗って拭いて片付けてくれた。その時丁度お母さんが帰って来た。
「食べ終わったのね。どうだった陽子ちゃんのオムライス?」
「滅茶苦茶美味しかったよ」
「そう、良かったわね。陽子ちゃん」
「はい!」
うん?もしかして梨花とお母さんはグルか?
その後、午後三時まで宿題して、三十分休んだ後、午後六時までやった。家が近いから何の問題もない。終わると
「お兄ちゃん、駅まで一緒に行って」
「俺が?」
自分の顔を指さして言うと
「良いじゃない」
何故か、梨花が当然でしょという顔をして陽子ちゃんはお願いしますという顔をしている。お昼作って貰ったし、仕方ないか。
俺と梨花で駅まで陽子ちゃんを送って行って、彼女が自分の家の方に歩いて行く後姿を見送った後、俺達は家に戻った。帰り道、
「お兄ちゃん。陽子ちゃん、可愛いし料理上手だし優しいし。良い子でしょう」
「うん、俺も良い子だと思うよ」
「それだけ?」
「ああ、これ以上はな」
梨花に理由を言う訳にはいかない。
お兄ちゃんが陽子ちゃんに線を引いている理由は顔。陽子ちゃんとあの女の顔はよく似ている。何とかならないかな。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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