第38話 俺が決めた事
俺は、優子から話を聞いた後、家に戻って自分の部屋に行った。梨花が声を掛けて来たけど、後にして貰った。正常な精神状態じゃない。頭が混乱の中にいる。
優子は俺を守るためにあいつにされていたという事か。
優子が録画で言っていた事は三谷が書いた文字を読んだだけ。
今も優子は俺が一番大切な人だと言っている。
じゃあ、優子は興奮剤を飲まされてあんな姿になったとはいえ、俺の為に我慢してあいつにされていたというのか。
でも、俺より三谷と会う事を優先していた。それは仕方なくなんかじゃない。優子はしたい為に自分で都合よく言ったんだろう。
しかし、どう理解して良いか全く分からない。言い方は取り繕っているが優子はここまで来て嘘をつくような子じゃない事は俺が一番知っている。
だからと言って元通りになるなんて狭量な俺にはそんな事出来ない。どうすれば。
俺は、スマホを手に取ると大吾に電話した。直ぐに出た。
『悠斗、どうした?』
『大吾、相談に乗って欲しい。出来ればこの三連休』
『分かった。土日はフルで部活だけど、海の日は休みだ。朝から良いぞ』
『悪いな』
『気にするな。何処で会う』
『大吾の家に行くよ』
『じゃあ、午前十時で良いか』
『ああ』
俺は、着替えた後、一階に行くとダイニングでお母さんと梨花が食べていた。お父さんはまだ帰ってきていない。
「悠斗、ご飯食べなさい」
「うん」
俺が食べ始めると
「お兄ちゃん、話出来る?」
「良いけど」
「あのね。私と陽子ちゃんと一緒に遊園地行って欲しいの。本当は海とかプールがいいんだけど」
「どっちでもいいぞ。去年までは一緒に海水浴行っていたしな」
「「えっ?!」」
お母さんと梨花が驚いている。
「お兄ちゃん。大丈夫なの。そんな事言って」
「何が?」
お兄ちゃんが帰って来た時の顔は何かに取りつかれた様な顔をしている。今でもスッキリしていないけど、あの女の事は思い出しても大丈夫なんだろうか?
「どうした、梨花」
「ううん、遊園地でいいよ」
「そうか。いつ行くんだ?」
「出来ればお盆が終わった後辺り八月二十日とか」
「いいけど」
「分かった陽子ちゃんに話しておく」
「そう言えば、今年は皆で海水浴行く?今からならお父さんもお休み取れると思うけど」
「俺はいいや」
「私も」
予定がなかったはずなのに随分入ってしまった。これ以上入れると返って疲れる。
俺は土曜日午前中、道場に稽古に行った後、部屋でもう一度優子の事を考えた。でも優子に対してどうしていいか分からなかった。
海の日の祝日に俺は大吾の家に行った。あいつの家に行くのは久しぶりだ。午前十時少し前に行って玄関でインターフォンを押すと玄関が開いて大吾のお姉さんが出て来た。
「久しぶりね。悠斗君。一段とかっこよくなったわね」
大吾のお姉さんは大学二年生。ここの姉弟は美女、美男だ。後ろから大吾が現れた。
「悠斗、上がってくれ」
「お邪魔します」
「どうぞ。悠斗君」
大吾の部屋に入ると
「ちょっと待ってくれ。冷たい物持って来る」
そう言って大吾が一階に降りようとすると
「大吾、悠斗君。はい、お菓子と冷たい麦茶」
「悪いな、姉貴」
「悠斗君。元気?」
「はい」
「良かったわ。今度私と遊びに行こうか?」
「姉貴、悠斗は大切な話で来たんだ」
「あらそう、じゃあ、また後で悠斗君」
「はい」
「悪かったな」
「そんな事ない。いつもながら凄い美人だな」
「まあ、それは俺も認めるけど。ところで話ってなんだ?」
俺は、優子が俺に言った事を話した。そして、これから優子に対してどう接すればいいか全く分からない事も。
「うーん。また難しい話だな。渡辺さんが言っている事は脚色しているとはいえ、全部本当だという事を前提に話さないとブレるから。話は信用するとしてだ」
大吾も黙った。
「悠斗、お前たとえ時間掛かっても渡辺さんと元に戻る気あるのか?」
「分からない。あんな話を聞いた後では」
「その返事をするという事は、少なくともあの録画を見た時からの感情は収まったという事か」
「直ぐには収まらないよ。今でもあの録画を思い出すと吐き気がする。それに三谷があんな録画を俺に送って来なかったらまだ続いていたかもしれない。
そう思うと簡単に許す事も出来ないし、急にこれまでの事は無しにするなんて事は出来ない」
「当然だよな」
また、黙った。
「悠斗、渡辺さんが傍に居ても大丈夫か?」
「今は無理だ。でも時間が経てば出来る様になるかもしれない」
「じゃあ、時間が経てば、親しいという程でないにしても友達位には戻れるという事か?」
「友達という立場に戻れるかは難しい。でも絶対に出来ないという訳では無いと思う。少なくても今の様な態度は取らない位にはなれると思う」
「それ、そのまま渡辺さんに伝えられるか?」
「…難しいけどやるしかないな。三谷としていた事は許したく無いが、していた理由が俺にも責任が有る事は確かだ。
一方的に優子を責める気にはならない。それにあの言葉は言わされただけだった事も分かったしな」
「じゃあ、決まりだな。渡辺さんに早めに言って、時間を置くのが良いんじゃないか。言えば気も楽になるし、丁度夏休みという時間もある」
「分かった」
俺は、その場で優子のスマホのロックを解除して電話した。
スマホが震えたので直ぐに画面を見ると、えっ!悠斗から入ってる。私は直ぐに出ると
『優子か』
『私』
『優子、今日会えるか?』
『えっ?!会えるの?』
『ああ、今から三十分後に俺達の駅の近くにある、ファミレスで待っていてくれ』
『分かった』
俺はスマホを切ると
「大吾、大きな借りが出来たな」
「じゃあ、俺がプールに行くの止めて良いか?」
「それは勘弁してくれ」
「じゃあ、後でな」
俺が玄関を出る時、大吾が
「悠斗、良かったな」
「ああ、まだ結果は出ていないけどな。今日はありがとう」
「俺の大切な親友の為だ。どうって事ないさ。早く行け。待ってるぞ」
「ああ」
大吾の家の最寄り駅から俺の家の最寄り駅まで五つ。丁度三十分後にファミレスに着いた。優子はもう来ていた。
俺が優子の正面に座ると彼女は不安と期待という言葉がぴったりの顔をしていた。俺が話すまで何も言わない。ドリンクバーだけ頼んだ後
「優子、お前の言った事は全部信じる。でも全く元通りにはなれない。だけど、もう口を利かないとか顔を見たら避けるとかはしない事にする。でも直ぐには無理だ。この夏休みで心を整理するから待ってくれ」
「悠斗…」
私は目から涙が出てくるのを抑える事が出来なかった。直ぐにハンカチを出して声を出さない様にして下に顔を向けて泣いた。
悠斗が許してくれた。元に戻れないけど、夏休みが終われば話す事も出来る。一緒に居る事も出来る。嬉しくて堪らない。どの位下を向いていたのか分からないけど
「優子、俺は戻るけど」
私は顔を上げて涙を拭くと
「悠斗、学校一緒に行ける?」
「夏休みが終わって俺の気持ちがそこまで戻っていたらな」
「うん、ありがとう。お腹空いていない。もう午後一時だよ」
「ごめん。家で食べる」
「そっか、そうだよね。私も家に帰って食べるよ」
「それがいい」
俺は結局何も飲まなかったけど、仕方ない。ファミレスを出ると
「優子、じゃあな」
「うん」
私の心は、この透き通った青い空に思い切り羽を広げて飛んで行けるような気がした。
悠斗とも元に戻れるチャンスが出来た。悠斗はやっぱり私の事を忘れないで居てくれた。
ふふっ、これで楽しい夏休みにする事が出来る。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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