第37話 夏休み直前は決められる事が多い?


 今週末は海の日の祝日と繋がって三連休だ。来週金曜日は終業式。いよいよ夏休みだ。


 でも今は入っている予定は七月中の夏休みの宿題と去年行けなかった俺の道場の夏合宿それにお母さんの実家にだけだ。去年から比べれば全然少ない。


 大吾はいつもの事だし、どうしようかな。塾に行くにはまだ早いし。適当にしているか。

 

 そんな事を考えながら今日も一人で学校に行く。優子とは駅で会っても全く無視。近寄ったら逃げるだけだ。


 教室に着くと大吾も、矢田さんも塚野さんもいる。皆早いな。俺は席に着くと

「おはよう、大吾」

「おう、おはよ悠斗」


「「おはよう柏木君」」

 何故か矢田さんと塚野さんの声がハモった。この二人仲良いのかな。


「おはよう、塚野さん、矢田さん」


「柏木君、朝からだけど、夏休みどこかに遊びに行かない」

「矢田さんと二人は無理」

「じゃあ、中山君と一緒なら」

「俺は、無理だよ。部活と家の手伝い」

「そうなんだ。じゃあ、やっぱり二人で」

「それは出来ないよ」

「じゃあ、…」

「柏木君、私も一緒なら良い」

 私が誘っても二人で行くのが無理。ならば矢田さんの作戦に乗るかしかない。

「「えっ?!」」


 俺も矢田さんも驚いた。しかし、二人と一緒では…。


「いやいや、矢田さんと塚野さんと一緒になんて絶対に無理」

「何が無理なの?」

「そ、それは…。だって女の子二人と俺なんて。そうだ二人が大吾を誘えたら」

「おい、悠斗俺に振るな」


「「中山君」」

「いや俺は、さっき…」

「お願い…」


 ぷぷっ、大吾が塚野さんと矢田さんに言い寄られている。ざまあみろ。偶には味わえ。


 予鈴が鳴った。大吾がホッとした顔しているけど、中休みは何とか逃げ切れ。



 中休み、大吾はトイレに逃げ込んだみたいだ。一度は付き合ったけど。そして昼休み二人で学食にお弁当を持って行ったのは良いのだけど…。何故か矢田さんと塚野さんが付いて来て


「柏木君、中山君、一緒にお昼食べよ」

「食べよ」

「あ、ああ。大吾どうする」

「お前、また俺に振って…」


「中山君」

「いいでしょう」


 完全に塚野さんと矢田さんがタッグしている。


「わ、分かりました。悠斗どうする?」

「し、仕方ない」

 大吾の奴、返してきやがって。



 最初、塚野さんも矢田さんもニコニコしながら持って来たお弁当を食べていたけど、その内


「ねえ、夏休みの件だけど…。一緒にプール行こうか?」

「「えっ?!」」

「プ、プール?!」

「うん、プール」


 参ったな。まさかのプールとは。


 ふふっ、水着姿が一番効果的。あれもやって思い切りアピール出来る。


「大吾…」

 こいつまた振って来やがった。こうなったら


「悠斗良いんじゃないか。プール」

「えっ!大吾…」

 断ると思っていたのに。


「そ、そうだな」

「「やったぁ!」」

「じゃあ、決まりね。何時が良いかな?」

「俺は、部活絶対優先だからそれ以外の日」

「俺は、…」


 仕方なく、俺の夏休みの予定を言った。大吾と一緒に空いている日は、そんなにない。結局、八月十日になった。しかし、なんでこうなった。


「じゃあ、連絡先教えて。グルチャ作ろう」

「うん、いいね」


 この二人グルか。俺と大吾は、塚野さんと矢田さんにスマホの連絡先を知られてしまった。



 放課後は、図書室で最終下校時間まで居るのが習慣になった。考査も終わっているのでのんびりと本を読んだり、寝ている。


 そして、最終下校時間の目覚まし、予鈴が鳴るとそのまま帰る事にしている。塚野さんには悪いけど図書委員にはなっていない。一年生の応募も無い様だ。でも一人は可哀想だ。一年で誰かいないのかな。


 俺は、まだ塚野さんと一緒に下校する程、女性に対する耐性が戻っていない。だから一人で帰っている。



 いつもの様にも家の最寄り駅で改札から出ると、えっ?!優子が待っていた。無視してそのまま通り抜けようとすると、がっしりと腕を掴まれた。

「離せよ!」


 きつい言い方をしたのだけど

「嫌だ!」

「離せ!」

「嫌だ。話を聞いてくれるまで」

「いい加減にしろ!」


 腕を振って放そうとしたけど、優子も必死に両腕で掴んで来る。そんな事をしていると


「君達、ここでそういう事されては困るんだけど」

 駅員に注意されてしまった。仕方なく


「優子、聞くから離せ」

「駄目、離したら悠斗は行ってしまう」

「分かった。逃げないから」

「本当に?」


 駅員がいい加減にしろという顔になって来た。


「ああ、話を聞いてやるから」


 やっと、優子が腕を解放してくれた。流石にこの状況で逃げる訳には行かない。仕方なく駅から俺の家の方向少し行って小さな公園のベンチに座った。もう午後五時半過ぎだが陽は高い。



「話しってなんだ?」

「悠斗、絶対全部聞いてね」

「聞くと言っているだろう」



 私は、悠斗に三谷耕三に

―ドズニーランドで悠斗と一緒にラブホ街を歩いた録画を見せられて一人で会う事を強要された事


―これは悠斗に話したけど、ファミレスで麻酔薬の様なものを飲まされてやられてしまった事。その後もやられて録画を撮られた事。


―悠斗を三谷に会わせば悠斗は絶対にあいつを五体満足な体にしておかない性格を知っているから、悠斗が大事だから三谷の名前を言わなかった事。


―私の録画とか悠斗と一緒の録画を直ぐにSNSにアップするって脅されていた事。


―そして正直に、やる前に興奮剤を飲まされて、異常な精神状態にさせられて体が溺れてしまった事。


―私が裸で言った事は、三谷が書いた文字をただ読んだだけ。三谷の名前も入っていたのに編集された形で流された事。


―三谷が私以外にも他の女子に同じ事をして警察に捕まり今は少年院にいる事。


―そして今でも悠斗が私にとって一番大切な人で有る事。それは恋人で居た時から今でも絶対に揺るがない私の気持ちで有る事。一瞬でも心が三谷に行った事はないと話した。


 悠斗はこれを聞いてからずっと黙っていた。もう夜の帳が降りようとしている。大分暗くなって来た。



「悠斗…」

「優子、これを話した理由はなんだ?」

「悠斗に誤解されたまま、今の状態で居る事に耐えられなかった。例え悠斗と元に戻れなくても、悠斗の心の誤解だけは解いておきたかった」

「そうか」



 悠斗が立ち上がろうとしたので、

「お願い。元通りに戻ってなんて言わない。でもせめて口を利ける関係まで戻りたい。お願い。この通りです」

 優子はコンクリートの上で手を着いて頭を下げた。


「優子、時間をくれ。いきなり色々な事を言われても頭が理解出来ない。どうすればいいなんてここで言えるレベルじゃない」

「お願い。許して。興奮剤を飲まされたとはいえ、あいつに一時でも溺れた私が悪いのは分かっている。でもお願い。許して下さい」

「優子、立ってくれ。言いたい事は分かった。今はとにかく何も言えない」

「うん」


「じゃあ、ここでな」

「うん」



 悠斗に話を聞いて貰う事が出来た。悠斗の性格はよく知っている。別れた時の声はもう私を恨んでいる時の声じゃない。


 それに言えた事で私も心の負担が随分軽くなった。これで一人でも夏休みを過ごす気持ちになれる。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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