第36話 矢田さんはご立腹
七月に入ると直ぐに学期末考査が有った。月曜日から木曜日までだ。そして次の金曜日は模試。
一学期の一番大変な時期だけどこれを乗り越えれば夏休みが始まる。頑張りどころだ。
考査の方は、考査ウィークと土日、それから考査期間中、しっかりと勉強出来たおかげで、手応えは十分。模試も悪くなかった。
私、塚野沙耶。柏木君と土日だけだけど一緒に考査対策の勉強をした。私の考え方の間違いを随分指摘されたけど、お陰で今回の考査は期待できる。もう少し彼の近くに居たい。後は夏休みだ。作戦立てないと。
翌週火曜日に考査結果が発表された。
「悠斗、予定通りか?」
「まあな」
俺は一位だ。塚野さんは、なんと二十位まで上がった。矢田さんはまだ載っていない。
やったぁ。三十五位から二十位に上がった。これも彼のお陰だ。つい浮かれて
「柏木君、ありがとう。君のお陰で二十位まで上がったよ」
「それは、良かったのだけど……」
怖い視線を感じる。横を見ると
「塚野さん。今のはどういう意味?」
「あっ、矢田さん。今言ったのは…。あははっ、何の事かな。あっ、柏木君。私教室に戻るね」
「あっ、俺も」
「ちょ、ちょっと二人と」
俺もその場を逃げようとして
ガシッ。
しっかりと腕を掴まれた。
「柏木君。しっかりと説明して。塚野さんが言っていた事って何?」
「そ、それは…」
仕方なしに塚野さんと大吾、それに妹と陽子ちゃんと一緒に勉強会を開いた事を話した。
「ねえ、それってどういう事?なんで私を誘ってくれないの?」
「いや、その話した時、矢田さん居なくて」
「居る時に話してくれてもいいじゃない。なんで誘ってくれなかったの?」
「そ、それは…」
悠斗が塚野さんと一緒に考査対策の勉強会をしたと言っている。どう言う事。もう悠斗は他の子とそういう事が出来る様になったの。
嫌だよ。悠斗は私のものなんだから。誰にも渡さない。あれだって興奮剤を飲まされてやられたんだから。きちんと話せば分かってくれるはず。
陽子だって、悠斗と仲良く出来ているんだもの。私だって許してくれるに違いない。一度の過ちなんだから。
でも、私は今回も四十位以内に入れなかった。全然勉強にやる気が出ない。悠斗と一緒の時は、思い切りやる気が有ったのに。
そうだ、悠斗と完全に元に戻らなくても話が出来る位になれば、私も勉強する気になるかもしれない。そうだよ。
俺は、矢田さんに捕まったけど、いつまでもそこにいる訳に行かず、とにかく教室に戻る事にした。でも何故か矢田さん、俺の腕を離してくれない。
「あの、矢田さん。腕を離してくれると…」
「駄目、柏木君が悪い」
なんで俺が悪い事になっているんだ?
教室に入って来た俺と矢田さんの姿を見て
―あれってどういう事?
―でも、柏木君、迷惑そうだけど。
―矢田さんは必死の様だけど。
―どうしたのかな?
―さぁ?
ほら見ろ皆の注目を浴びたじゃないか。
予定が鳴って榊原先生が入って来た。流石に矢田さんも俺の腕を離して自分の席に座った。
先生。女神様に見えます。
でも一限目が終わった中休み矢田さんが、
「ねえ、柏木君。勉強会誘い忘れたのは許してあげるから夏休み一緒に遊ぼう。私と二人で」
「そ、それはちょっと…」
「どうして?何か不都合な事があるの?」
「どうしてって言われても。なあ大吾。あれ、いない?」
大吾の奴、他の男子とこっちを見て笑っている。酷い。
悠斗が矢田さんと話し始めたので、絶対に巻き込まれると思い、直ぐに別の仲のいい男子の所に逃げた。案の定、矢田さんから責められている。いい加減に区切り付けろ、悠斗。
昼休みになり、俺は悠斗と一緒に学食でお弁当食べている。
「悠斗、いい加減に矢田さんでも塚野さんでもいいから付き合ってしまえ。そうすれば渡辺さんの亡霊を見なくて済む」
「大吾の言いたい事は分かるけど…」
「悠斗、勉強会の時、塚野さんと一緒でも抵抗なかっただろう。それに陽子ちゃんにもだ。陽子ちゃんの気持ちも分かっているんだろう。でも彼女は渡辺さんの妹だから、付き合うにはハードルが高いけどな」
「陽子ちゃんの件は妹からも言われている。でも大吾の言う通りだ。流石に優子と別れた後、妹の陽子ちゃんと付き合うのは難しすぎる。とってもいい子だけど」
「なら矢田さんか塚野さんかどっちかにしたら?」
「二択なのかよ。別の考えないかな。例えば、二人共付き合わないで良い方法」
「それじゃあ、今と同じじゃないか」
「そう言えば、矢田さんから夏休みの件で責められていたけど?」
「あれか。矢田さんが二人で遊びに行こうなんて言ってたけど流石に断った」
「そうか、それ塚野さんだったらどうした?」
「それは…」
「迷うってことは塚野さんだったら良いって事だ。夏休み一緒に遊びに行けよ。上手く行くかもよ」
「大吾も一緒なら」
「俺は駄目。大会に向けて夏休みの練習もあるし、それ以外は家の手伝いだ」
「大吾には頭が下がるよ」
「物心ついた時から家の手伝いしてれば、誰だって同じだって…」
大吾が話すのを止めた。こいつの視線の先にいたのは、矢田さんだ。
「柏木君、中山君と楽しい話をしていたよね」
「いえ、そんな事は…」
「悠斗、俺先に教室に戻るから」
「おい、待て…」
流石、バスケのレギュラーの動きは素早い。あっという間に逃げやがった。
「柏木君、ゆっくり話そうか」
「もう時間が…」
「まだ、二十分もあるわよ」
「……………」
神は我を見放したか。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます