第33話 体育祭はいつも問題を起こす


 今日は、体育祭だ。天気は曇り。天気予報は、時々雨が降るかも知れないと言っていた。俺は、参加種目決めの時に勝手にリレーと二百メートル走にさせられた。


 大吾は今年も玉入れと綱引き。俺がおかしいと言ったら、去年大吾のお陰で随分玉が入ったからだと言われて…。絶対不公平だ。



 今年は、2Aの集合場所に座ったのだが、大吾が隣なのは分かるけど、反対側に塚野さんと矢田さんがいる。

 午前中は、俺の出番は無い。のんびりと競技を見ている。だけどどうして隣のなのと聞いたら教室でもそうだからと言われた。良く分からん?


 矢田さんや塚野さんが競技に参加する時、必ず『柏木君、行って来るね、見てて』と声を掛けて行く。何でだ?それを聞いた大吾が、


「悠斗、モテ男は辛いな」

「止めてくれ。そもそも何で俺がモテ男なんだ。大吾の方が全然もてるだろう」

「何言ってんだ。これが現実だ」


「知るか。そんなのは当分勘弁してくれ」

「お前の意思を尊重してくれると思うかあの二人が」

「なんで二人なんだ?」

「はははっ、さて悠斗、俺も玉入れ行って来るよ。見てて」


 肘鉄でもしてやろうと思ったけど、笑いながらさっと逃げて行きやがった。流石、男バスレギュラー。



 しかし、大吾の奴、また身長が伸びた所為か、バスケの技術が更に磨きがかかったのか、玉入れをほぼ百パーセントで入れている。凄いな。

 


 次は借り物競争か。この種目は面白いが去年の事を思うとちょっとな。


 そう言えば五反田の奴、今年も借り物競争に出ている。あいつ、何が好きでこれに出ているんだ?


 あっ、スタートした。お題が書いてあるカードを拾うと、あれっ、榊原先生の方に走って行っている。


 五反田が頭を下げているけど、榊原先生が拒否した。ざまぁみろ。何故か隣の先生を連れて行った。なんだ、あいつ。


 どうでもいいと思ってお題を聞くのを無視したけど、何が書いて有ったんだろう?後で誰かに聞いてみるか。



 午前中、最後の競技が始まった。百メートル走だ。でも軽く雨が降り始めている。


 一年から順番にスタートする。一年生が終わると次は二年生だ。優子がスタートラインに立った。


 さっきから降り始めた雨だけど中止する程ではない。電子銃でスタート音が鳴ると一斉にスタートした。


 優子は足が早い。先頭で十メートルを過ぎ二十メートルを過ぎで五十メートルに差し掛かった時だった。


 何かに引っ掛かった様に大きく優子が転倒した。体が一回転する。そして後の走者が走り抜けていく。


 どうせ救護班が駆けつけるだろうと見ていると、誰もあいつに駆け付けない。何でだ?

 そして段々雨脚が強くなり、優子のグループのゴールに到着しても誰も優子の所に行かない。更に雨が強くなった。


 くそっ、なんで誰も行かないんだよ。救護班はどうした?後は勝手に体が動いた。


「悠斗!」

「大吾、我慢出来ない!」

「俺も行く」


 雨が強くなりだしたけど、そんな事関係ない。急いで優子の傍に行き


「大丈夫か優子?」

「足が…」


 俺は、優子が抑えている足首を触ると


 つっ!


「挫いたのか?」

「分からない」

「動けるのか?」

「足が…」


 この行動は自分でもどうしようも納得がいかない。吐き気を催す様な気分になったが、


「優子、抱っこするぞ」

「えっ?!」


 何で悠斗が?



 俺は優子の痛がる足の膝下に腕を入れて、お姫様抱っこすると

「大吾、行くぞ」

「分かった」


 お人好しの悠斗が!だからお前から目が離せないんだよ。



―きゃーっ!

―えーっ!

―な、なんで柏木君が…。

―どういう事よ。


 なんで、柏木君が渡辺さんを…。



 柏木君が、土砂降りの中、渡辺さんをお姫様抱っこして保健室に連れて行った。いったいどういう事なの。あんな目に有った女をなんで…。


 私は、まだ柏木君の事を何も知らないんだろうか。


 お兄ちゃん…。


 悠斗お兄ちゃん…。



 俺は優子をお姫様抱っこしながら優子を保健室に向かいながら

「誤解するなよ」

「分かっている」


 悠斗が私をお姫様抱っこしながら走ってくれている。何ヶ月も忘れていた悠斗の温もり。私は悠斗の首に手を回した。


 お互いにずぶ濡れの体で校舎に入り保健室に入った。


「先生!」

「あら、ずぶ濡れじゃない」

「優子が足を…」

「とにかくその診療台に乗せて」

「はい」


 先生がゆっくりと足を触って行くと足首の所で優子が顔を曇らせだ。


「軽い捻挫ね、痛み止めのスプレーと湿布を張っておいてあげる。十分もしない内に歩けるようになるわ。明日の朝も痛かったら病院に行きなさい」

「先生、ありがとうございます。分かりました」

「どういたしまして」



 先生が即効性のある痛み止めのスプレーを掛けてくれた。そして湿布を張ると

「私、少しだけ外すわね」

「「はい」」



「悠斗、どうして?」

「どうしても、こうしても無い。雨が降り始めてお前を誰も助けに行かなかったから」

「だからって。悠斗が私を…?」


「勘違いするなと言っただろう。俺はお前の裏切りを許さない。だけどお前が怪我をしているのに見捨てるほど、お前を嫌っちゃないない」

「えっ!悠斗…」


 悠斗は言った。私を見捨てるほど嫌ってはいないと。どう言う事なの。私はまだ…。



 おいおい、俺は何の為に付いて来たんだ。



「大吾、帰るぞ」

「いいのか」

「俺には関係ない」

「悠斗待って」


「なんだ?」

「あれは、三谷に薬を飲まされて…」

「薬!…三谷?あの野郎か。もうどうでもいい」

 


 俺は、優子の言葉を無視して保健室を出たけど


「大吾、薬ってどういう事なんだ?」

「俺にも分からない。渡辺さんがお前を裏切ったという事実は変わらないが、薬を盛られていたとしたら…。俺にはどう判断すれば分からない」

「大吾が悩む事はないよ。終わった事だ」



 二人で校舎の外に出てグランドに戻ると雨はあがっていた。何なんだあの雨は?もう百メートル走は終わっていて、お昼休憩になったようだ。

「悠斗、教室に戻ってお昼にするか」

「そうだな」



 お昼休みに、雨の所為で三十分程午後の予定を遅らせると校内放送が有った。


 しかし…。俺は何か判断を誤ったのか。だけどあの録画は事実だ。今更…。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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