第30話 GW後半は静かにしていたいのに


 目が覚めると机の上の目覚ましが、まだ午前七時を指していた。今日は金曜日、GW後半の初日だ。何も予定は入っていない。のんびりと二度寝と決め込んで薄ら薄らしていると


 コンコン。


 無視。


 コンコン。


 無視。


 ガチャ。


「お兄ちゃん」

「なんだよ。寝ているのに」

「まだ寝ていてもいいんだけどさ。午後から付き合ってほしいんだけど」

「事前アポが入っておりません」


 俺は毛布を頭の上にガバッと掛けて妹の声を無視しようとしたけど、


 ググーッ。 毛布が引っ張られている。

「お兄ちゃん、起きて!」


「駄目」


 ググーッ。 毛布が引っ張られている。

「お兄ちゃん、起きて!」


「駄目」


 ググッ。ガバッ。 剥がされた。


「なんだよ。もう」

「ねえ、午後から行きたい所があるの付き合って」

「なんで俺が行く必要がある?」

「行く必要有るの!」

「午後ならまだ寝ててもいいだろう」

「いいけどさ」



 それから俺は意地で目を閉じ


 スーッ、スーッ…なんて出来なかった。妹とのさっきの毛布争奪戦で目が覚めてしまった。


 仕方なく、起きて着替えてから一階の洗面所で顔を洗い、ダイニングに行くと

「あっ、起きて来た」

「梨花が起こしたんだろう」


「悠斗、ご飯食べなさい」

「はーい」



 俺は梨花と一緒に朝食を食べながら

「なあ、午後からどこ行くんだよ」

「来れば分かる」

「来れば分かるって…」

「どうせ暇でしょ」

 言われたくない一言だ。でも現実だ。


 起きてしまった俺は、結局自分の部屋で本を読んでいると


 ガチャ。


「お兄ちゃんちょっと早いけど出かけようか」

「えっ、まだ午前十一時だぞ」

「うん、分かっている」


 梨花に連れ出され家の最寄り駅まで行くと陽子ちゃんが待っていた。

「悠斗お兄ちゃん、久しぶりです」

「久しぶり、陽子ちゃん」

「陽子ちゃん行こうか」

「うん」



 連れて来られたのは、渋山だった。梨花と陽子ちゃんの後を歩きながらスクランブル交差点を渡って、入った所は女の子の洋服だけが一杯売っている丸いビル。


「お兄ちゃん、今日は陽子ちゃんと私の買い物に付き合ってほしいの」

「はぁ、俺がか?俺がいても何の役にも立たないぞ」

「いいの、いいの。ねっ、陽子ちゃん」

「うん、お願いします。悠斗お兄ちゃん」


 二人から頼まれて断れるほど俺の意思は強くない。

「分かった。付いて行くだけで良いよな」

「「うん」」



 二階のフロアから順番に上がっていく。色々なPBショップがあるけど…。男ほとんどいないんだけど。明らかにカップルって男女はいるけどさ。


 ショップを見ながら歩く二人について行くとジロジロ見られる。不審者扱いでもされている様だ。流石に

「梨花、俺…」


「お兄ちゃん、これどうかな?」

 手に持ったのはスカートとTシャツのセットアップだ。似合うのか似合わないのか分からない。


「うーん、似合うと思うけど…」


「じゃあ、こっちは?」


 ハンガーに掛かった二つの色違いのセットアップを比べているけど良く分からん。梨花は何着ても似合うと思うんだけど。


 結局決まらず、更に上の階に行くと今度は陽子ちゃんが

「悠斗お兄ちゃん、これどうかな?」


 手に取ったのは可愛いプリントの入った黄色のTシャツだ。

「うーん、陽子ちゃん可愛いからどれ着ても似合うと思うんだけど」

「お兄ちゃんもっと見てやって」

 マジに梨花が睨んで来る。


「わ、分かったから」


「じゃあ、こっちはどうですか?」


 今度は、ピンクのTシャツだ。これもプリントが付いている。

「うーん、さっきの方が良いかな」

「はい、じゃああれに決めます」



 そこを出て、一度近くのトドールで簡単な昼食を摂った。その時に

「なあ、俺来る必要あったのか?」

 

 何故か、梨花と陽子ちゃんが目を合わせて含み笑いすると梨花が

「うん、とってもある。ねっ、陽子ちゃん」

「うん」


 なんだ、この二人の含み笑いは?



 その後、今度はポルコ迄連れて行かれた。そしてまたPBショップを楽しそうに回る二人の後を俺は付いて行くだけ。本当に今日は買い物に付き合っているだけだ。なんで俺が必要なんだ?


 どうも今度はサンダルを選んでいる。違うデザインが一杯ある。はぁと思いながら、さっき買った二人の買い物袋を持ちながらよそ見していると

「お兄ちゃん、これどうかな?」


 真っ白で可愛いかかと付のサンダルだ。

「いいんじゃないか」


「悠斗お兄ちゃん、私のこれはどうですか?」


 薄いピンクでデザインは梨花と同じ感じだ。

「陽子ちゃんに似合っていると思うよ」

「そうですか」


 安易に言ったけど、この二人ならなんでも似合う様な気がする。


 

 二人共会計が終わると

「お兄ちゃんありがとう。疲れたから喫茶店に入ろうよ。ねっ、陽子ちゃん」

「はい、疲れました。悠斗お兄ちゃんと一緒に喫茶店に入りたいです」


 どう見ても疲れている雰囲気ないんだけど。



 ポルコからの坂を下ってちょうどT字路正面に喫茶店がある。

「あそこ入ろうか」

「「うん」」


 中に入って、テーブルに着くと店員が水を持ってやって来た。俺はコーヒー、二人はオレンジジュースを注文した。


「陽子ちゃん、いい買い物出来たね」

「はい、悠斗お兄ちゃんに選んで貰ったTシャツとサンダルを買う事が出来ました。嬉しいです」

「そ、そうか」


 はて、どういう意味だ?


「お兄ちゃん、明日からは?」

「明日は午前中、道場で稽古。明後日と明々後日は決まっていない。多分、勉強している。休み開ければ中間考査が有るからな」


「そうかぁ、ねぇ、お兄ちゃん。その勉強一緒にやってもいい?」

「えっ、でも梨花頭いいし、俺なんか必要ないだろう?」

「そんなことないよ。それに陽子ちゃんもやりたいよね」

「はい!悠斗お兄ちゃんと一緒に勉強したいです」


 どういう事だ?



 俺は、次の日は、朝から道場に行った。今の季節は、暑くも無く寒くも無く体を動かすには最高だ。

 いつもは空手と棒術、どちらかの稽古をするが、今日は両方をさせて貰う事にした。


「悠斗、随分元気になったな」


 ビシッ!


「はい、体の方は大分動く様になりました」


 ビシッ!


「いいぞ、その調子だ」



 この後も棒術を稽古した。両方共もう八年以上やっている。俺の短槍(たんそう)はもう体の一部になっている。


 小さい頃は本当に短かったけど、今は棒本体は六尺、先頭の刃に当たる部分は一尺ある。勿論刃はダミーだけど。


 普通は刃の部分が無い棒が使われるのだけど、この道場は実戦的な棒術を教えている。


 だから全体として七尺約二百十センチある。体も大きくなって背も百七十七センチ。問題なく使いこなせる。


 棒術と空手を合わせた組手をする時もある。防具を付けているとはいえ、寸止めしていないから結構体にショックが来る。



 一通り稽古が終わると物凄く気持ちいい。


「悠斗、成長したな。そろそろ師範代の試験を受けるつもりは無いか?」

「まだまだです。もっと稽古しないと、師範代の名に相応しくありません」

「はははっ、いつもながら謙虚だな」

「はい」



 道場の最寄り駅まで十分、俺の家の最寄り駅は隣だ。直ぐに着く。胴着を脱いで濡れタオルで体を一度拭いてからTシャツとデニムを履いて外に出た。


 暑い。そういえば、今日稽古が長い分、時間が掛かった。もう午後一時だ。三時間もいた事になる。


 家の最寄り駅に着くと改札の傍に優子が居た。出れないじゃないか。誰かを待っている様だけど。


 仕方なく、俺は彼女を無視して改札を通り抜けた。


「待って、悠斗」


 その声を無視して急ぎ足で家に向かおうとすると

「待って、悠斗」


 俺の腕を掴もうとしたので、それを払いのけると

「俺に近付くな」


 後は、彼女の顔も見ないで、家に走って戻った。また汗かいちゃったよ。



 悠斗が走って行っちゃった。今日は土曜日、午前中は稽古のはず。だからここで待っていれば会えると思っていた。


 いつもなら午前十一時半には帰って来るけど今日は長かった。行かなかったのかと思って家に戻ろうとしたら、悠斗が改札から出て来た。


 直ぐに声を掛けたけど、無視されたので、もう一度声を掛けて腕を掴もうとしたけど叩かれてそのまま走って行ってしまった。


 一度でいい。謝りたかった。ただ、謝りたかった。自分が犯した愚かな事で悠斗を裏切ってしまった事を謝りたかった。


 でも出来なかった。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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