第28話 渡辺優子の憂鬱と矢田康子の事情
もうすぐGWだ。去年だったら悠斗とずっと一緒に居た。でも今年は、何の予定も入っていない。
クラスの人は友達同士で何処に行こうかとか話をしている。でも私に話しかけて来る人なんかいない。
一年の三学期の時の様に蔑む様な目で見られる事は無くなったが、こちらから話しかけても直ぐに会話が終わってしまう。
三谷に悠斗とラブホ街を歩いていた時に撮られた録画を脅しで使われファミレスに誘われた時に、
悠斗に一言言っておけば、二人で強引に会っていれば、その時点で三谷のスマホを抑える事が出来たかも知れない。
SNSにアップされても、入っていない偶々通りかかっただけだと白を切れば、いくらでもいい訳が出来たかも知れない。
あの時、何で悠斗に黙って一人で会いに行ったのか、考えれば考えるほど自分が愚かだったと思った。悠斗の為と思って一人で行ったばかりに。
挙句、三谷は私とする前に薬を飲ませ興奮状態に持って行っていた。だからあんなに興奮したんだ。あの薬は麻薬ではなかったけど、体を興奮させる薬だったらしい。
お陰で後遺症とかは出なかったけど、あいつとしなくなってから少しの間、体が怠かった。
医者に行っても関係ないと言われ精神的な問題だろうと言って精神科も紹介されたけど行く気にはならなかった。
そして三谷との事がバレて以来、家に帰るのが辛い。未だ、お母さんもお父さんも私に冷たい。陽子は未だ、私を汚物でも見る様な目で見ている。
お母さんは今でもあれだけ私の事を思ってくれていた悠斗を何で裏切ったのかと言って来る時がある。
私のした事が、恩人に仇で返す行為だ、人として許せるものではないと厳しく言って来る。
言われている事はその通りだ。何も言い返す事が出来ず、途中で部屋に逃げる時もあった。
悠斗の妹の梨花ちゃんとはよく遊んでいるようだ。私の所為で二人の仲が悪くならなくて良かった。
今更悠斗に謝っても何の意味もないかも知れないけど、謝りたい。謝ってもう一度仲良くなんてなれないかも知れないけど、今の様に私を極端に避ける事は無くなるかもしれない。
でも、そんなチャンスなんて全くない。近付く事も出来ない。どこかでチャンスが有れば。
悠斗の周りには、中山君、塚野さん、そして矢田さんまでもが賑やかに話をしている。悠斗とこうなっていなければ、あの中の中心に私もいたのに。
俺は、GWをどうしようか考えていた。あいつの事なんかなるべく頭に浮かべない様にしている。
チラチラと出て来るけど、そんな事は仕方ない。大吾を誘って遊びに行きたいが、あいつは部活と家の手伝いだ。
一人でいるGW程暇な事はない。本を読むか勉強するか、その位しか思い浮かばない。勿論稽古のある日は道場に行くけどそれも午前中だけ。
偶には映画でも見に行ってみるかな。GW向けに何かやっているだろう。
GW前半の初日は土曜日だ。道場に稽古に行って終わった時、日曜日も来て良いかと聞いたら、構わないと言われたので、次の日曜日も午前中道場に行った。
午後は部屋を気分替えに模様替えをした。あいつと映っている写真、一緒に買ったグッズなんか、まとめて全部ゴミに出した。
優子の家族と一緒に旅行に行った時に撮った二家族の写真だけは、流石に捨てられなかったけど。でもこれで、目に留まる物はほとんどない。
最後の月曜日祝日は、映画を見に行く事にした。この辺では渋山にも映画館はあるが、あの街は優子との苦い思い出を作った場所だから避ける事にした。
ここからは十五分位で行ける大きなデパートのある街だ。改札を出て左に行けばデパートとSCがある。
右に行けばこの路線の会社が作ったモールやPBショップが入ったビルがある。その中に俺の行く映画館が在った。
チケットはネットで購入しているので館内に入る時は、スマホタッチで済む。見たのはアニメ映画。テレビでも有名なアニメの劇場版だ。
結構長くてトイレを我慢するのがきつかった。今度、映画見る時は先にしっかりと行っておいた方が良さそうだ。
映画館を出てビルの下にある〇ックで昼でも食べようとしていると声を掛けられた。
「柏木君」
声の方を振り向くと矢田さんが立っていた。後ろに怖そうなお兄さんが一人いる。
「矢田さん」
「柏木君も映画見ていたの?」
「ああそうだけど」
「何見ていたの?」
「アニメ」
「ああ、あれね。私も見ていたんだけど気付かなかったな」
「まあ、あれだけ広い所で真っ暗なんだから仕方ないよ」
「ねえ、お昼食べた?」
「まだだけど」
「一緒に食べない?勿論、まだ女の子と一緒に食べるのきついと思うけど話したい事も有るしさ」
「話したい事?」
「うん、中に入ってから話す。この下の〇ックで良いかな?」
「いいよ。俺もそこに入ろうと思っていた所だから」
断られるの覚悟で言ったのにOKしてくれた。大分良くなったのかな?
俺は優子の事を自分で忘れようとしても中々頭から消えない。だから写真もグッズも捨てたけど、他の人とも話して、俺の頭からあいつの居場所を消せばいいと思っていた。
だから矢田さんという俺にとっては未知数であまり印象が良くないけど、話したい事も有るというので誘いに乗った。
「お嬢様、私は外で」
「うん、それでお願いね」
矢田さんってお嬢様なの?
〇ックは十分位並んで中に入る事が出来た。受付で注文をした後、二階で席を取って貰う為、矢田さんに先に行って貰った。
俺はダブル〇ックのセット、彼女はエビ〇ィレオのセットだ。受付でそれを受け取って二階に上がっていくと彼女は窓際の席で手を振って待っていた。
彼女の前にトレイを置いて俺の分だけペーパーの上に乗せると
「柏木君って優しいんだね」
「自分では良く分からないけど」
「なるほどなぁ。クラスの女の子が君に注目するの分かるわ。頭いいし、イケメンだし、優しいし。妹さんも優秀だし、文句の付けようがないわね」
「過大評価のし過ぎだって。イケメンだったら大吾の方が全然いいし、俺なんかフツメンだろう」
「それは自分を過小評価しているのよ」
学校の話をしながら食べていると、矢田さんは俺が想像していた人と違う気がした。
普通に会話できるし、変にタカピーな所も無いし、マウントを取ろうなんて全然していない。むしろ俺の話に相槌を打ってくれる。女子ってやっぱり難しい。
ポテトと飲み物だけになった所で
「矢田さん、さっきお嬢様って言われていたけど?」
「ああ、あれは私のボディガード。私の父親が過保護でね。前に怖い事が有ってそれ以来、学校以外で外に行く時は必ず付いて来る様になったの」
「ふーん。大変だな」
えっ、普通もっと突っ込まない?どんな恐い事が会ったのとか、大丈夫だったのとか?
「後さ、話って何?」
「ねえ、本当に私の事覚えていない」
俺はじーっと彼女を顔を見たけど
「会った事有った?」
「じゃあこれは」
私は、肩より少し長い髪を全部アップして普段は使わなくてもいい眼鏡を掛けた。彼はジーッと私を見ている。
その内、段々目が大きくなって
「あーっ、あの時の女の子。渋山で襲われそうになっていた」
「やっと思い出してくれたんだ。あの時は髪の毛も短いし眼鏡だったからね」
「じゃあ、さっき恐い事が有ったって言ったのは?」
「その通りよ。あの時、君は何も言わずに立ち去って行っちゃったから。あの時は君ももう少し髪の毛長かったし、背も低かったから私も最初は気付かなかったわ。
でも渡辺さんの彼、つまり君ね。君を見ている内に段々思い出したの。私のヒーローがこんなに傍に居たんだって。
でも君は彼女と付き合っていたから何も言う事が出来なかった…」
「矢田さん、悪いけどあいつの事話に出すのは止めてくれ、今必死に忘れようとしているんだ」
「あっ、ごめん。気が利かなかった」
「いいんだけど」
それからも話をして、午後三時位に別れた。ボディーガードの人に悪かったかな。
まさか矢田さんが、中学一年時、渋山でチャラ男二人にナンパされて嫌がっている所を俺が見つけてチャラ男から守った時の女の子だったとは。飛んだ偶然だな。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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