第26話 入学式と図書委員
俺は、塚野さんに声を掛けられたけど、まだ女子と一緒に帰るとか親しく口を利くとかはとても出来ない。だから昇降口に行くまでに
「塚野さん。申し訳ないんだけど君とは一緒に帰れない」
「えっ?」
「あっ、君が嫌いとかそういう事じゃなくて…」
そうか。まだ渡辺さんの後遺症から立ち直っていないんだ。
「ごめん、気が付かなくて。お願いがあるの」
「お願い?」
「図書委員になってくれない?」
「俺が?…図書委員?」
「うん」
「ごめん、全然不向きだし、そういうのやる気ないんだ」
「そうなんだ。分かった。一応気には留めておいて。じゃあね」
塚野さんには悪いけど、まだ精神的に立ち直っていない。
翌日は入学式だ。朝から梨花が
「お兄ちゃんどう?」
「とっても似合っているよ」
梨花は学校指定服を着ている。学校行事以外では服装自由だけど、俺も今日は二年生の制服を着ている。
一年の女子は赤がベースに金糸と紺のラインが入ったリボン。紺のジャケットの左胸には校章。白いブラウスにプリーツの入った赤のチェックのスカートだ。
俺は緑に金糸の入ったネクタイと白シャツと紺のジャケットそれに青のチェックのズボンだ。
梨花の顔は俺と全く似ていない。兄の俺が見てもとても可愛いと思う。身長も高校一年生になったばかりなのに百六十センチもある。胸はちょっと控えめだけど。
今日は俺と一緒に最寄り駅まで行く予定だ。その後は陽子ちゃんと合流して一緒に行くと言っている。
俺と優子の事でこの二人が別れなくて良かった。
俺は、先に学校に着くと予鈴が鳴って直ぐに榊原先生が
「入学式が始まります。廊下に出て体育館に行って下さい」
ガタガタと皆で体育館に行く。昨日の内に用意したパイプ椅子の2Aの所に座って、他のクラスの生徒や三年生が入って来るのを待った。
生徒が入るとほとんど同時に来賓の方も来賓席に座りだした。生徒の後ろには新入生の親も座っている。うちの両親も来ている。そして入学式の開会が告げられ新入生の入場が始まった。
体育館の正面から入って来る。俺も拍手をしながら見ていると梨花が緊張した面持ちで入って来た。陽子ちゃんも緊張している。
入学式は粛々と進み、来賓の方のお祝いの言葉とか先生達の紹介が終わって、生徒会長から在校生代表挨拶がありその後、新入生代表の挨拶…。えっ、梨花やるの?聞いてなかった。
緊張した声で梨花の挨拶が終わると大きな拍手。俺も一杯拍手した。その後は校歌を歌って、俺達は教室に戻った。新入生は写真撮影とか有るのだろう。
教室に戻ると大吾が
「梨花ちゃん、新入生代表挨拶してたな。凄いじゃないか」
「いや俺は代表やるとは聞いてなかった」
そうしたら隣に座る塚野さんが
「姓が同じだからもしかしてと思ったら、やっぱり柏木君の妹さんだったんだ。めちゃくちゃ可愛かったね」
「あ、ありがとう」
妹の事褒められてもな。
悠斗の妹、梨花ちゃんが新入生代表の挨拶をしていた。あの子は中学時代からとても頭が良かったから入学試験の結果も良かったんだろう。
悠斗と別れていなければ、彼の傍に居て、楽しく話を出来ていたのに。自分が悪いのは分かっている。でも…。悠斗は今でも私の一番大切な人。
妹の事で盛り上がってしまったけど、そんな話をしているうちに担任の榊原先生が教室に入って来た。入学式が終わったんだろう。
「今日はこれで、終わりますが、明日は午後から新入生向けのオリエンテーションが有ります。明後日は図書オリです。オリを頼まれている人は新入生にしっかりとアピールして下さい。以上です」
大吾はオリに出ると言っていたな。こいつイケメンだから先輩から呼ばれたか。そんな事を思いながら帰ろうとすると
「柏木君」
「なに?」
「昨日もお願いしたんだけど、図書委員の件、考えてくれたかな。先生も言っていたけど明後日の図書オリ、私一人なんだ」
「えっ、三年生は?」
「去年、辞めちゃって。図書担当の先生と私だけで」
「でも、俺は…」
「お願い」
顔の目の前に手を合わせてジッと俺を見てくる。参ったな。
ふふっ、柏木君が塚野さんに図書委員を頼まれている。どう出るかな。場合によっては…。
「でも、俺、図書の事なんて全然知らないし」
「じゃあ、今から図書室に行って説明してあげる」
「いや、俺は」
「悠斗。良いんじゃないか。気を向ける事が出来る」
中山君が柏木君を推した。面白い。
「じゃあ、見るだけだよ」
「うん!」
さて、どうなるかな?柏木君が塚野さんの誘いに乗れば自然と私達とも話す機会も多く出来る。
渡辺さんは駄目になったけど、柏木君なら成績優秀だし、顔だって悪くない。その上、妹さんは新入生代表。文句なしだ。がんばれ塚野さん。
でも、あいつ、私の事全然覚えていないのかな?
確かに私も別のクラスだったし、最初分からなかったけど。渡辺優子の事で彼を見ている内に思い出したんだけど。
俺は、三階にある図書室に連れて行かれた。中に入ると、あれっ?なんで榊原先生がいるの?
「あっ、塚野さん。今明後日の図書オリの説明資料見直していた所。あなたのパートも見直しておいて」
「はい」
「ところでなんで柏木君がここに?」
「柏木君に図書委員になって貰おうと思って」
「そう、それはいいわ。柏木君宜しくね」
先生ウィンクしたよ。
「いや、俺は見に来ただけで」
「いいじゃない。図書委員面白いわよ」
どうみてもそんな要素無さそうなんだけど。
結局俺は、塚野さんのパートの予行演習に付き合わされた。
でも図書委員になるのは保留にして貰った。帰りも別々にして貰った。まだ一緒に帰るなんて無理だ。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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