第25話 束の間の春休みと新学期


 春休みに入った。去年までは優子と思い切り楽しく遊んでいた。…なんでまた優子の事を思い出すんだよ。あんな奴忘れたいのに。


 春休みは宿題も無い。遊ぶ時間は一杯有るのに…。部屋で一人で本を読んでいると


 コンコン。


「なに?」


 ガチャ。


「お兄ちゃんちょっと良いかな?」

「構わないけど」

「じゃあ、リビングに来てくれない」

「いいけど」


 俺は梨花に言われて一緒に一階に降りるとリビングに陽子ちゃんがいた。俺を見るなりいきなり土下座して


「ごめんなさい、ごめんなさい。姉が飛んでもない事をしてしまいました。命の恩人くらい大切な悠斗お兄ちゃんにあだで返すような事をして本当にごめんなさい」


「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで陽子ちゃんが俺に謝るの?」

「お兄ちゃん、私はあの人がお兄ちゃんを裏切ったからって陽子ちゃんにはなんの責任も無い。

 妹だからって同じ目で見ないから友達でいようって言ったら、陽子ちゃんが、どうしてもお兄ちゃんには謝りたいって言って…」


「そうか、陽子ちゃん、俺を悠斗お兄ちゃんと呼んでくれてありがとう。君のお姉さんには裏切られたけど、陽子ちゃんには、なんの責任もないよ。だから謝らないで」

「でも、でも…」


「もう良いからさ。梨花のいい友達になってくれてありがとう」

「お兄ちゃん…」


 私は本音言えばお兄ちゃんが陽子ちゃんの顔なんか見たくもないっていう程、怒っているとばかり思っていた。


 でもお兄ちゃんは陽子ちゃんにとても優しい言葉を掛けてくれた。これで陽子ちゃんとは今まで通り友達でいられる。ふふっ、流石私のお兄ちゃんだ。だからこそあの女許せない。


「梨花どうしたんだ、嬉しそうな顔したり怖い顔したりして」

「えっ、何でもないよ。お兄ちゃんありがとう。流石私のお兄ちゃんだね」

「そ、そうか」


「陽子ちゃん、外に遊びに行こう」

「うん」


 それでも陽子ちゃんは俺に申し訳なさそうな顔をして梨花と一緒に外に出て行った。姉の犯した事で妹が責を負う事なんて絶対にない。


 なんか、稽古行きたくなったな。師範に言って明日から春休みの間、毎日行くか。早く忘れたいし、夢中で稽古すれば大丈夫だろう。




 始業式が入学式の前の日四月八日に有った。俺は新しい上履きを持って学校に行き昇降口で履き替えると直ぐに中央階段横の掲示板に張り出されているクラス分けを見た。


「悠斗、また一緒だな」

「ああ、大吾と一緒で嬉しいよ。でもな…」

「そうだな。俺達が決めれる訳じゃないからな」


 そう、優子も同じクラスだ。そしてなんと塚野沙耶さん、矢田康子さんも一緒だ。内山が居ないのが残念だ。しかし何とも言えない編成だな。



 大吾と一緒に2Aのクラスに行くと、知った顔や知らない顔が混ざり合っていた。なんかシャッフルでもしたのかって感じだ。


 取敢えず出席番号順で座るけど、見たくもない顔が傍にいる。早く席替えをして欲しい。


 予鈴が鳴って、新しい担任が入って来た。


「おおっ」

 男子が騒いでいる。榊原結衣(さかきばらゆい)先生だ。この学校の美人教師No1だ。艶やかな髪の毛を肩まで流してはっきりとした切れ長の目、スッとした鼻に可愛い唇、それを引き立たせる輪郭。


 それにだ…。お胸さんが馬鹿にならない位大きい。スイカでも淹れているのって感じ。

 今日はその素敵なお体を白いスーツできっちりと…ジャケットのボタンはじけそうだけど…着ている。

 白いスカートからは、すらっとしたをおみ足を見せている。俺も見惚れてしまった。


「私が一年間皆さんの担当になる榊原結衣です。自己紹介は始業式が終わってからにしましょう。皆廊下に出て下さい」



 体育館に行って、校長先生や他の先生からのお話や生徒指導の先生からの注意事項を聞くと教室に戻った。


 少しして榊原先生が教室に入ってくると白い箱を教卓の上に置いた後、

「改めて、私が一年間君達を担当する榊原結衣です」


 と言って黒板の方を向いて自分の名前を書いた。後ろから見ても素敵な先生だ。


「さて、自己紹介の前に席替えにしましょうか。この白い箱の中に席位置の番号が書いてあるカードが入っています。廊下側一番先頭から一枚ずつ引いて下さい」


 そう言うと先生は窓際のパイプ椅子に座って足を組んだ。先生魅力的すぎます。



 直ぐに俺の番が来た。俺は頼むぞ窓側一番後ろだ。頼むって心の中で念じながら白い箱の中に手を入れて手に触れたカードを一枚取った。


 ゆっくりと番号を見ると…天は我に味方した。ちょっとだけ。


 その後、大吾とか、塚野さんが引いて行った。最後の人が終わると


「はい、引き終わりましたね。決まった席に異動して下さい」


 ガタガタと皆が一斉に動き出した。


 俺は窓側一番後ろから二番目。悪くない。そして大吾が右斜め前だ。良かった。

「悠斗、また近くになったな」

「ああ、嬉しいよ」


 そんな事を言っていると、なんと隣に来たのは塚野沙耶さんだ。

「柏木君、隣になったね。宜しくね」

「はい」

「悠斗、知っているの?」

「まあ、ちょっと図書室で」

「ふーん。おれ中山大吾。悠斗と同中で親友だ」

「はい、塚野沙耶です。宜しく」


「盛り上がっている所悪いんだけど…柏木君、私は君の後ろだから宜しくね」

「えっ?!」


 振り向くと矢田さんが座っていた。

「驚く事ないでしょう。これから仲良くしようね柏木君」

「あっ、はい」


 運悪いかも。でも優子は廊下側の前から三番目だ。全く離れている。これでは気にする必要もなさそうだ。



「皆さん、全員移動しましたか。顔ぶれからすると半分知っている、半分知らないってところか。

 じゃあ、簡単に自己紹介しようか。自分の席でいいからね。今度は窓側一番先頭から始めようか」


 俺の順番になり

「柏木悠斗です。趣味無しです。宜しく」


 簡単に終わらせた。次の矢田さんは、

「矢田康子です。皆と楽しい一年間を過ごしたいと思っています。宜しくね」


 とても普通の自己紹介だ。この後も大吾や塚野さんの自己紹介が有った。優子の時は耳に指を入れて聞かなかった。



 放課後になり、帰ろうとすると塚野さんが

「柏木君、ちょっといいかな?」

「なに?」


 塚野さんが柏木君に声を掛けて一緒に教室を出て行った。どういう関係なんだろう。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る