第24話 君面白いね

ここから第二章に入ります。お楽しみ下さい。


―――――


 優子に振られてもう一ヶ月が過ぎた。もうすぐ学期末考査だというのに気分が乗らない。稽古にも隔週でしか行っていない。はぁ、でも、勉強しないと。


 俺は学校から帰って来てスクールバッグを開くと

 あれっ、数学のノートが無い。おかしいな?あれを教室でバッグから出した後は…。あっ、図書室だ。


 でも寝ちゃって、起こされて、急いで帰ったからか。でもテーブルの上には無かったしな。一応明日確かめに行くか。



 少し前までは、とてもご飯が口に入らなかった。優子に振られた事がこんなにダメージが大きいとは思わなかった。教室に居ても大吾が


「悠斗、ご飯食べているのか?なんかげっそりしている感じだぞ」


 なんて言われている。ご飯食べないと脳が動かないし、気力も無くなる。お母さんに言われ妹に心配されて、やっと食べる様になった。


 今日は金曜日だ。駅に行く時間も段々前と同じようになって来た。改札で優子の姿を見ると俺は逃げる様に車両を変えたりしている。

 あいつの姿を見るだけで吐き気がする。あの録画が蘇るからだ。


 そんな時は学校の最寄り駅に着くと、急いで学校に行った。教室に入ると、直ぐに大吾が話しかけてくれる。

「おはよう悠斗。少しは良くなったみたいだな」

「ああ、ご飯だけは食べる様にしている」

「そうか。今日も昼は一緒に食べようぜ」

「勿論だ」



 俺はバッグから教科書とノートを出して机の中に入れてバッグを机の横のフックに掛けると視線を感じる。顔を起こすと、右斜め前に座る女子が、


「柏木君、頑張って。困った事有ったらいつでも相談に乗るから」

「私もよ」

「私も」


「あ、ありがとう皆。大丈夫だから」


 あれから少し経って、女子が何故か優しく声を掛けてくれる様になった。優子に振られた話が広まったのかな。それでも声を掛けて貰える覚えはないんだけど?



 放課後、図書室に行くと、あれっ?あの人がいない。俺は受付の子に

「あのう、昨日ここに座っていた人って?」


 何故か、受付に座る女子が、いきなり眼鏡を外して

「酷いなぁ。分からなかったの?」

「す、すみません」


 だって今日は髪の毛をお団子みたいにして眼鏡かけているんだもの、分からないよ。


「ところで何か?」

「昨日、ここにノートの忘れ物有りませんでした?」

「どの様なノートですか?」

「えーっ。普通のノート」

「ノートは皆普通です。何か目印は無いのですか?」

「うーん、あっ、名前書いてあった」

「なんと?」

「柏木悠斗」


「せいかーい。はいこれ」

 この人、遊んでんの?


「ありがとうございます」

 俺がノートを受け取ろうとすると


「君、ノートを探して保管しておいてあげた、私の名前聞かないの?」

「あっ、えーと。名前は何でしょう」

「ぷははっ、人の名前聞くのに、名前なんでしょうか。君面白いね。私は塚野沙耶(つかのさや)。覚えておいて柏木悠斗君」

「は、はあ」


 俺は、ノートを返してもらうだけで、随分とエネルギーを使った感じがした。疲れた。いつも座る場所に行って、振返って塚野さんを見ると


 えっ、眼鏡のレンズ部分に指を入れてクルクル回している。伊達メガネかよ。こっち見て笑っている。なんだよ、全く。


 


 予鈴が鳴ったので、今日はノートを忘れない様にバッグに入れて、肩にバッグを担いで図書室のドアから出ようとすると

「柏木君、一緒に帰らない?」

「…止めておきます」

 とても女子と一緒に帰る気になれない。


「そっかぁ。じゃあまたね」


 変な子だな。ノート返してもらうだけで俺を弄るし、初対面なのに…いや違うか、でも話をしたの初めてだよな。そんな俺に一緒に帰ろうとか、訳分からない。



 でも翌日は道場に稽古に行く気になった。稽古場で先輩達に

「悠斗、少しは元気出たか?理由は知らんが、凹んでたからな」

「まだです」

「じゃあ、今日は俺と組手するか」

「お願いします」


 少しだけ気が軽くなった様な気がした。



 三月一日から学年末考査が始まった。土日を挟んで翌水曜までだけど、やはり勉強不足は否めず、解答に自信のない所がいくつかあった。


 翌日は卒業式の予行演習。授業は短いというか、この時期は消化授業の様なものだ。教科書のやり残した部分を流しているだけ。先生やる気あるの?


 翌日の卒業式は、元生徒会長だった月見冴子さんが涙を抑えて読む卒業生代表の言葉に皆涙をこぼしていた。美人は何をしても絵になるよな。まだ一年生の俺には良く分からないけど。



 土日挟んで翌火曜日に学年末考査の成績発表が有った。俺は五位だ。仕方ないか。

「悠斗、頑張ったじゃないか。あの状況でこの位置は凄いよ」

「全然出来なかったからな」

「来年は二年生だ。気持ちきり変えて行こうぜ」

「そうだな」


 成績表を見ると優子は四十位以内に載っていなかった。どうでもいいや。あれっ、塚野さんが三十五位だ。へぇー。


 ふふっ、柏木君流石だ。一学期、二学期と一位を維持して、あんな事が有った三学期でも五位か。友達になれないかな?


 私、矢田康子。柏木君、あんな事が有っても五位か流石だな。二年生になったら同じクラスになれないかな。


 私、渡辺優子。三学期は全く勉強どころではなかった。クラスの皆からは無視され、家に帰っても妹の陽子は、私をまるで汚れ物を見る様に蔑んだ目で見ている。


 この前、話をしようとしたら、同じ空気吸うなとまで言われてしまった。耕三は退学どころか、少年院に入ると弁護士から聞いた。


 悠斗と駅で会っても直ぐに逃げる様に別の車両に行く。精神的にボロボロで勉強が手に付かなかった結果がこれだ。いつまでこんな事続くんだろう。


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次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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