第22話 モノクロな日々の始まり

話の時間が前後します。ご了承下さい。


―――――


 俺はずっと玄関で泣いていた。涙ってどの位出るのか分からないけどずっと出ている。


 後ろでお父さんの声が聞こえた様な気がしたけど立ち上がる気力もない。ただそこで下を向いて涙を流していた。



 どの位経ったか分からない。やっとお母さんの声が聞こえた。

「悠斗」


 俺がゆっくりと顔を上げて振り向くとお母さんは俺の顔を抱き寄せて

「悠斗、何かが有ったか分からないけどとにかくここは寒いわ。リビングに来なさい」

「うん」


 リビングに行っても頭の中は何も考えられなかった。その内、眠ってしまった。




 気が付いた時は、体に毛布が掛けられていた。そしてお母さんと梨花が傍に居てくれた。

「気が付いたの?」

「……………」



「ゆっくりとでいいから何が有ったかお母さんに教えて」

「……優子に裏切られた」

「「えっ?!」」


「お兄ちゃんどういう事」

「これ見て」

俺はスマホの画像をお母さんに見せた。


 お母さんは手を口に当てて目を見開いて何も言えない様子だった。梨花も同じだ。


 そしたらまた涙が出て来た。毛布を頭から被って声を殺して泣いた。



「許せない。絶対に許せない。命の恩人のお兄ちゃんをこんな形で裏切る女なんて絶対に許せない」



 その時、我家の固定電話が鳴った。

「はい、柏木です」

「……………」

「もう二度とうちの悠斗に近付かない様に言って下さい。お宅とも縁を切らせて頂きます」


「お母さん誰?」

 梨花が聞いて来た。


「…あの女の母親」




 仕方ないわ。娘のした事は私も許せない。悠斗君が居なければ今頃どうなっていたか。どんな理由が有ろうとも悠斗君をこんな形で裏切るなんて。



 目の前で泣いている娘を見ながらこれからどうすればいいか分からなかった。




 俺は、リビングから自分の部屋戻ってベッドの中で毛布に包まっていた。思い出せば去年の九月の初め辺りから優子の行動はおかしかった。


 土曜日に待ち合わせしても来なかった。土曜日の稽古を休んで会いたいと言っているのに稽古に出ろと言っていた。いつボディーシャンプーの匂いがした。クリパは二次会に出ると言っていた。


 全てが男と会った後だったんだ。だから昨日も俺の匂いじゃない汗の匂いだったんだ。


 何でなんだ。優子の言った通り、あの辺りから二股を掛けて俺とその男を天秤にかけて昨日やっと俺と別れる踏ん切りがついたという訳か。


 それでも男に抱かれた後、裸であんな事言うなんて。




「悠斗、もう夕飯の時間よ。朝も昼も食べていないわ。少しでもいいからお腹に入れなさい」

「分かった」


 夕飯は少ししか口に運べなかった。日曜日はお父さんも居て楽しい夕飯の時間なのに。お父さんはお母さんから話を聞いているのか何も言わなかった。


「悠斗、明日は学校に行ける?先生に電話してあげるから休んでもいいのよ」

「行く。あいつとは別のクラスだ。でも少し早く行く」

「分かったわ」




 私は、昼過ぎになって頭が段々冷静になって来ると、幸三が私と悠斗を別れさせるために仕組んだ罠だと分かった。


 でも、去年の九月から耕三に抱かれ、夢中になったのは確か。


 謝りたい。謝りたい。謝りたい。謝りたい。


 謝って悠斗ともう一度やり直したい。でも耕三は私達がラブホ街を歩いている録画を持っている。どうすれば。



 午後三時位になって私が落着いて来るとお母さんが、何が有ったのか聞いて来た。最初は言い辛かったけど、正直に全て話した。ここで親に嘘をついてもどうにも出来ない。


 私は、お母さんに思い切り頬を殴られた。物凄く怒られた。陽子やお父さんにも知れてしまった。


 お母さんが私の話を聞いた後、直ぐに悠斗の家に電話して謝ったけど、縁を切られた。私にも悠斗には絶対に近付かない様に言われたと言っていた。


 陽子からの言葉もきつかった。

「お姉ちゃんと呼ぶのは、ここ迄よ。汚らしい女よ、あんたは!

 二度と私に声を掛けないで。これでせっかく出来た梨花ちゃんとの友情もみんな消えてしまう。皆あんたの所為よ。汚らわしい汚物!」



 お母さんがお父さんと相談して弁護士に相談すると言っている。もうどうでもよくなった。退学になろうがどうでもいい。




 俺は、翌月曜日、あいつと改札で待ち合わせする時間より早く家を出て登校した。教室に着くと朝練を終えたのか、大吾がいた。


「悠斗、おは…。おい、どうしたんだ」


 大吾は、俺の手を引いて廊下の隅の方に連れ出した。まだ登校している生徒は少ない。

「悠斗、何が有ったんだ?顔が死んでいるぞ」

「大吾、これを見てくれ」

 もう優子の裸を誰が見ようと関係ない。見終わると


「こ、これって…」

「優子が言っている通りだ。この録画見た後、翌朝急いで優子の家に行って確認したけど、あいつはただ黙っているだけだった。本当だと認めたんだろう」


「信じられない。悠斗は彼女の恩人じゃないか。あの子がお前を裏切るなんて…」

「でもこれが事実だ。多分去年の九月の初旬から二股を掛けられていたらしい。そしてその男を選んだ」

「去年の九月からだって!それって…。悠斗、これ1Bの女子に教えて良いか」

「勝手にしてくれ。もうあいつの事はどうでもいい」


 悠斗は中学時代からの大切な友人だ。そして悠斗は渡辺さんにとって命の恩人にも等しい人。

 その悠斗をこんな形で裏切る渡辺さんに俺は心底頭に来ていた。


 馬鹿にしやがって。ふざけんるんじゃない。悠斗をこんな目にあわしやがって。

 


 俺は、直ぐに1Bでさっき朝練を終わった女子に悠斗から聞いた事を話した。

「分かった。直ぐに皆に教える。でもあの渡辺さんが、柏木君と他の男と二股掛けていたなんて」

「だから許せないだよ。可愛い顔して俺の大切な友達を裏切るなんて」

「相手は分からないの?」

「悠斗は心当たりが無い様だ。渡辺さんも相手の名前を言わないらしい」

「私達も注意して見ている」




 私は、家の最寄り駅に改札にいつもの時間に行ったけど、悠斗はいなかった。当たり前だ。


 一人で学校に行って教室に入って自分の席に座ったけど、いつもと様子が違う。来生さんも声を掛けてくれない。


「来生さん、おはよう」

「…渡辺さん、声掛けないで。あなたにはがっかりしたわ」

「えっ?!」


 周りを見ると皆私をさげすむ様な目で見ている。どうして?まさかあの事がばれたの?


 直ぐに耕三の方を見ると全く私の方を見ていない。




 私、矢田康子。女バスの子から渡辺さんの事を聞いた。相手は間違いなく三谷幸三。あの男やり過ぎた。


 仲良くなって欲しいとは頼んだけど、セフレにしろとは頼んでいない。これで渡辺さんは全く無価値な女子に成り下がった。


 どちらにしろ、三谷には、これ以上調子に乗らない様にさせないと。


 お昼休みになり、私は三谷に声を掛けた。

「三谷君。ちょっと話が有るんだけど」

「丁度良かった。俺も話をしたかった」

「じゃあ、ついて来て」



 連れて来たのは音楽教室。ここは勝手に入れないけど、音楽好きの女子に声を掛けて音楽の先生から鍵を借りている。

「入って」


「話ってなんだ?」

「あんたに頼んだのは渡辺さんと仲良くして私のグループに居れる事。みんなと普通に話が出来る様にしたかっただけ。なんで渡辺さんに手を出したの?」

「あの子が俺に抱かれたいと言って来たんだよ」

「誰が、そんな事信じるの。大方何か強請れる録画でも見せたんでしょう。もうあの子には近づかないで。あんたの為にもね」

「何偉そうな事言っているんだよ。俺が優子をどうしようが勝手だろう。それより優子のスマホに面白い映像が残っていたぜ」

「面白い映像?」

「お前が男と一緒にラブホに入って行く映像だよ」

「それがどうかしたの?」

「何言っているんだ。これを流せばお前は間違いなく退学になるぞ」

「やってみれば。その代りアップされた日の夜にはあんたは首なし死体として東京湾に浮いている」

「そんな脅しに誰が乗る」

「やってみれば。私の知合いって結構怖いのよ。その筋にも知合いが多くてね。それにSNSにアップしたって、今はプロバイダーに削除依頼すればその手の録画は直ぐに消してくれるし、AIはそんな画像探し出して消すのに何秒かかると思っているの?」

「ちっ。やれるもんならやってみろ。精々恥をかくんだな」

「馬鹿な男ね」


 私は、三谷が音楽室を出て行くと直ぐに知合いに連絡した。ちょっと脅して貰う為に。これであんな男ビビるでしょ。その上であの録画を流してやる。私を脅した罰だ。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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