第21話 嘘だろ


覚悟でお読みを


―――――


 正月元旦は優子と一緒に近くの神社に初詣に行った。


「並んでいるねぇ」

「そうだな」

「今年も始まったね」

「ああ、いい年にしたいよ」

「私も」


 参道を三十分位並んで境内に入った。お賽銭を投げて今年一年のお願い事を心の中で言うと横にずれた。


「悠斗、おみくじ」

「勿論だ」


 お金を入れて六角の箱をジャラジャラとして棒を抜き、その棒に書かれている番号に棚からおみくじを一枚取り出す。

「えっ、そんなぁ」

「どうしたの?」

「凶だって。願望叶わず。恋愛別れ有り、でも学業は努力すれば報われる。なにこれ?」

「私は、私も凶…なんで?悠斗、これ中身見ないであの枝に括りつけてお焚き上げして貰おう。こんなの見ちゃ駄目だよ」

「そ、そうだな」


 私は、このおみくじが現実ならない事を心で思い切り祈りながらおみくじを木に結び付けた。




 優子を家まで送って行って、着物を洋服に着替えてから俺の家に来た。


「悠斗、おみくじなんかで私達の仲は壊れないよ」

「当たり前だ」

「私は悠斗だけ」

「俺もだ」

「明日は福袋行こうよ」

「うん、行くか」


 元旦から始業式の日までは優子とずっと一緒に居た。その週の土曜日


「優子、明日の稽古は初稽古だ。いつもより短いと思う」

「うん、分かった連絡して」



 おみくじの事はもう忘れていた。



 翌日、私は耕三と会う為に渋山の駅に来ていた。


「耕三、今日はいつもより短くしたい」

「どうしたんだ。ははぁ、柏木か。いいぞ」


 一回終わると

「なあ、柏木と別れて俺と付き合えよ」

「駄目に決まっているでしょう。悠斗は私の大切な人。あなたとは違うわ」

「じゃあ、ここだけでいい。柏木より俺が好きだと言ってくれ」

「駄目に決まっている」

「いいだろう。頼むよ。これ読んで。今日はこれで終わりにするから」

「ほんと」


「ほんと、嘘つかない」


 私は、この言葉を信じていた。これだけ体を合せると嘘も信じる様になってしまう。

 だから、まだ裸のまま耕三に向って彼が紙に書いた文字を読んだ。録画されているとも知らずに。


― 悠斗、私好きな人が出来たの。三谷耕三君。あなたよりずっと好きになったの。もう別れて。


「なにこれ。吐き気がするわ。でもこれだけよ」

「ああ、分かっている。今年も宜しくな。じゃあ帰るか」

「うん」



 俺は、家に帰りさっきスマホで撮った画像を編集した。俺に抱かれている画像と優子の裸のままの声。俺の名前は消した。これであの二人も終りだ。



 俺は初稽古が終わると直ぐに優子に連絡した。

『優子か、終わったぞ』

『もう駅にいるよ。待ってる』

『すぐ行く』



 今日は、俺の家には誰もいない。だからコンビニで買ったお弁当を食べて俺の部屋で二人で楽しい事をした。でもいつものボディーシャンプーの匂いはしなかった。


 俺が汗臭い所為か、優子もいつもと違う匂いがした。俺の汗が移ったのかな。梨花が帰ってくるまでしてから、優子を家まで送って行った。


 お母さんと梨花と一緒に夕飯を食べてお風呂に入って部屋でゴロゴロしているとスマホが震えた。


 知らない番号だ。フォルダが付いている。絶対見て下さいと書いてあるけど、もしかしたらウィルスかもしれないと思って見なかったけど、三十分位してやはり気になって中身を見た。


「なんだこれ」


 そのフォルダの中身は優子が誰かに抱かれている。間違いなく優子だ。凄い声を上げて顔が溶けている様だ。

 俺としている時でも見せた事の無い顔だ。そして終わった後に優子が裸で


『悠斗、私好きな人が出来たの。あなたよりずっと好きになったの。もう別れて』


「何だよこれ?」


 もう一度見た。間違いなく優子だ。見ていると思い切り胃から何かが上がって来る。急いでトイレに行って、胃の中のものをすべて出した。そしてその場で座り込んでしまった。



 何だよあれ、嘘だろ、嘘だよな。優子が俺を裏切る訳ない。誰かの悪戯だ。明日朝一番で優子の家に行って確かめればいい。知らないって言ったらそれでいいから。



 俺は次の日曜日。午前七時に優子の家に行った。ほとんど寝ていない。朝早いとは思ったけどインターフォンを鳴らすと直ぐに優子のお母さんが出てくれた。


「おはよう、悠斗君。優子まだ部屋だけど行って」

「はい」

 どうしたの悠斗君?顔が白くてとても疲れた顔をしている。



 玄関を上がらせて貰って優子の部屋に行った。ノックもしないでドアを開けると優子はまだ寝ていた。


 彼女の顔を見ながら、俺を裏切るなんて無いよな。心の中で願いながら眠っている優子を起こした。


「優子、…優子」

「うーん。あっ、悠斗。もうそんな時間」

「まだ午前七時過ぎたばかり」

「どうしたの?」

「これを見てくれ」


 俺は送られて来たフォルダを開けて録画を見せた。


「えっ、なんで?!」

「優子どういう意味だ?」

「え、だってこれは…」



 私は寝起きの頭という事も有るけど、昨日の午前中に耕三からここだけと言われて彼が書いた紙を読んだだけだ。なぜ悠斗のスマホに。


「……………」

「なんで黙っている。本当なのか。これは?」


「……………」

「本当なんだな。…本当なんだな。

 なんで…なんでなんだ。

 なんで俺より好きな人が出来たって裸で言っているんだ。

 なんでなんだ。

 優子、 お前を抱いた奴は誰だーっ?!」

「……………」


「なんで黙っているよぉ。優子ぉー!」

 俺が優子の肩を掴んで揺さぶっても何も言ってくれない。



 私は益々混乱していた。まるで悠斗の声が厚いガラスの向こうから聞こえてくる音にしか聞こえなかった。


 なんで、これを撮ったのは耕三に違いない。その時は彼しかいなかった。



 俺が何を言っても答えない。優子の無言を本当だという答えだと思った。


 バーン。


 思い切り、ドアを開けると

「優子の馬鹿野郎ー!」


 一気に階段を降りて靴を履いて優子の家の外に出だ。寒い。急に冷静になって来た。


 優子が俺を裏切った。去年、いや九月の中頃からおかしかった。その頃からなのか。相手はいったい誰なんだ。なんで教えないんだ。


 何故なんだ。何で優子が俺を裏切るんだ。あれだけ好きだったのに。なんでなんだ。なんでなんだよう。



 俺は家に着くと玄関に座り込んだ。そして段々涙が溢れ出て来た。


 優子が俺を裏切った。俺を裏切った。

 

 知らない男に抱かれて悲鳴に近い声をあげている。何故なんだー!


 最初声を我慢したけど、我慢出来なくて大声で泣いてしまった。





 ドアが物凄い音で開かれると、悠斗君が物凄い声で、『優子の馬鹿野郎ー!』と言って出て行った。何が有ったの?


 私は急いで優子の部屋に行くと陽子も起きていた。そして優子は部屋の中で大泣きしていた。


「何が有ったの優子?」

 大きな声で泣くばかりだ。陽子も呆れて見ているだけだ。


「陽子、知っている?」

「悠斗お兄ちゃんがお姉ちゃんの部屋にいきなり入って来て…」

 私は悠斗お兄ちゃんが大声で言っていた事をお母さんに話した。


『本当なんだな。…本当なんだな。

 なんで…なんでなんだ。

 なんで俺より好きな人が出来たって裸で言っているんだ。

 なんでなんだ。

 優子、 お前を抱いた奴は誰だーっ?!』

『なんで黙っている優子ぉー!』


 私は陽子の話を聞いても何が起こったのか理解出来なかった。

「どういう事なの?」


 娘は何も言わず、ただ泣いているだけだった。




 私、柏木梨花、朝早くお兄ちゃんが出て行ったと思ったら、今度は帰って来て玄関で大声で泣いている。


 お母さんが背中をさすりながらなだめているけど全然収まらない。お兄ちゃんが話せる様になるまで待つしかない。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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