第19話 揺れ動く気持ち


  あいつは、悠斗が道場で稽古の日、土曜日の午前中を狙って私を誘って来た。前にファミレスに行った時が土曜の午前中だった事がヒントになってしまったらしい。


 行きたくない、行きたくない。


 どんなに都合を言って断ろうとしてもSNSへ今直ぐアップするという脅し文句で私を誘い出した。


 悠斗に連絡しても今は稽古中。連絡がつかない。連絡がつくまで待ってくれるわけがない。仕方なくあいつの指定した場所に行く事にした。


 だから、次の日曜日は、思い切り悠斗にして貰った。土曜日はあいつの汚さが付いている様な気がして堪らなかった。


 日曜日、悠斗に会った時、昨日の事を言おうとしたけど彼の顔を見ると言えなかった。





 そんな日が十月半ばまで続いた。もう一ヶ月半続いている。夏休み最後の土曜日を入れればもっと長い。


 そしてこの長い時間が私の気持ちを変えてしまった。




「優子、もう二学期の中間考査だな」

「うん」


 前だったら一緒に勉強しようと言ってくれたのに。


「考査ウィークに入ったら一緒に勉強しよう」

「うん」

「どうしたんだ。体調でも悪いのか?」

「そんな事ない。でも今度の中間考査は自分だけで勉強して自分の実力を確かめてそれでまた悠斗と一緒に勉強しようと考えているんだ」


「なんで?そんなの必要ないじゃないか。一緒にした方が良いって」

「私もそう思うけど」


「まあ、いいや。今度の土曜日は、考査ウィーク直前だけど会おうな。稽古も早く切り上げるし」

「悠斗、だめだよ。しっかりと稽古して、しっかりと勉強しよう。昼には改札でいつもの様に待っているから」

「そうか、そうだな」

 どうしたんだ?



 私は、脅しより別の理由で自分から三谷に会い始めていた。考査ウィークも勉強なんかしないで三谷と会っていた。


 目的はあっち。自分がいけない事をしているのは頭で分かっている。でも体が言う事を聞いてくれない。


 考査直前の土曜日も

「朝早くごめん」

「ううん、仕方ないよ」

「じゃあ、行こうか」

「うん」


 どうしてこうなったなんて分からない。でも三谷君、いえ耕三とこうして居ると私の体の全てが開放される。気持ちいいなんて世界じゃない。


 悠斗としてもいいけど…今では全く物足りない。だから日曜日は簡単に終わらせている。


 でも耕三としていると全く違う世界に私を連れて行ってくれる。分からない。悠斗は私の一番大切な人。でも耕三は、私の体が一番欲している人。いけないって分かっているのに。



「優子」

「耕三、もっと」


 ふふっ、やっぱりだった。でも優子は最高だ。相性が合うっていうんだろうな。高校一杯だけでもいい。

 最高に楽しませてくれるだろう。柏木の平和ボケした顔が目に浮かぶ。


 もう、優子は俺から離れられない筈。愚かな女だ。そろそろ矢田と約束した事を実行するか。



 優子とは毎日登下校するし、中休みも昼休みも一緒だ。でも何かここ一ヶ月半で違和感を感じている。理由は分からない。


 優子が一人で勉強するという二学期の中間考査が終わった。結果は翌週火曜日に張り出された。


「悠斗、相変わらずだな」

「ああ」

「なあ、渡辺さんとは一緒に勉強したんだよな。何で渡辺さん三十位なんだ?」

「……………」

 優子どうしたんだ。


「あははっ、悠斗ごめん。やっぱり一人だと無理だった。学期末は一緒に勉強しよう」

「そうだな。それがいい」

 おかしい。自分だけでやってもここまで落ちる事は無いのに。



 渡辺さんが三十位。どういう事?夏に女子だけで遊びに行って以来、渡辺さんは何かが変わった。…まさか三谷。聞くしかない。花の価値がない人間は必要ないから。



 私は自分の順位に驚いていた。二学期とは言え、まだ中間考査。甘く見ていた。まさかの三十位。前回の学期末考査は五位。自分ではしっかりと勉強していたつもりなのに。

 理解出来ない。

 

 やっぱりな。地頭が悪いんだ。基本的な事をしていれば、ここまで急激に落ちない。でもいいさ。



 俺は昼休み、矢田さんに声を掛けた。

「矢田さん」

「なに、三谷君」

「渡辺さんの事なんだけど」

「彼女がどうかしたの?」

「グループにそろそろ入ってもいいかなと思ってさ。今なら言う事聞くと思うよ」


「…やっぱりね。渡辺さんの最近のおかしな行動や考査の結果はあんたが理由か。私は彼女が私達と一緒に遊んでくれればいいと考えていた。だからあんたに口利きを頼んだのに」

「何の事かな。俺は頼まれた事をしただけだ」

「そっ、分かったわ。でも彼女はもう必要ない。あんたの好きにすれば。でも調子に乗らない様にね。分かっているわよね」

「……………」


 矢田康子。面倒だな。



 

 優子とは毎日の登下校、中休み、昼休みいつも一緒だ。でも前の様に積極的に俺にくっ付いて来る事は無くなった。


 特に土曜日の午後は必ずと言っていいほどしていたのに、日曜にしようと言って避けられている。体調が悪いのかと聞いたら、そんな事ないけどという。


 日曜日も、前だったら、随分長くしていたのに、今は一回だけだ。本当に体調が悪いんだろうか。でもこんな事他の誰にも聞く訳にもいかないし。


 それから更に一ヶ月が経った。


「優子、後二週間で学期末考査だ。一緒に勉強するか」

「うん、今度はしないとね。中間の二の舞はしたくないから」

「そうだな」



 二学期末考査も二週間前になった。俺は土曜日午前中の稽古を休んで優子と勉強しようとしたが


「悠斗、駄目だよ。稽古に行って。私、家で勉強しているから」

「そうか、じゃあ終わったらスマホで連絡する」

「いいよ。いつも改札午前十二時半でしょ」

「そうだな」


 おかしい、全くおかしい。こんな事言うなんてなかったのに。でも夏休みの終りに優子を襲った奴の影は見えない。


 まさか、毎週土曜の午前中会っているって事無いだろうな。でも確かめる方法がない。



 俺は、土曜日、稽古に行った後、お互いの最寄り駅の改札で待っていた。いつもなら先にいる優子が今日はいない。スマホで連絡すると


『ごめん、今すぐ家を出るから』

『そっか。待っている』

 勉強中だったのかな。今いるんだから、午前中会っているという事も無いか。



 五分もしない内に来た。

「待ったぁ」

「そんなことないけど」

 何でんボディーシャンプーの匂いがするんだ?


「優子、朝風呂でも入ったのか」

「うん、昨日悠斗別れた後、勉強してたら寝ちゃってさ。汗臭い体で会うの嫌だから」

「そうか、俺は構わなかったけど」


 学期末考査の準備は二人でした。考査ウィークに入ったら、毎日俺の部屋でした。でも最近、ちょっと欲求不満な時が有って、優子を誘っても勉強に差し支えるとからと断られた。



 学期末考査が終わって結果が出た。俺は変わらずの一位だ。優子も七位に戻している。

「優子、頑張ったな」

「うん、悠斗と一緒に勉強したからね」


 ちっ、柏木のやつ調子に乗って。



 それから終業式までの間、優子と毎日一緒だったけど、土曜日だけは俺が稽古を休んで会いたいと言っても稽古に行ってと言われて会う事が出来なかった。

 

 まさかな。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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