第9話 いつもと同じなのが一番いい
体育祭が終わった次の日は土曜日。悠斗は午前中、道場に行っている。その間私は家でのんびりする。
悠斗の稽古が終わるとスマホが鳴って
『優子、終わったよ。迎えに行く』
『うん』
道場は、学校と反対方向の隣駅にある。歩いて五分。だから私は部屋着から外出着に着替えると直ぐに家を出た。
改札で待っていると悠斗が出て来た。
「家でご飯食べるか。それともそこのファミレス行く?」
「悠斗の家がいい。コンビニで買っていこう」
「そうだな」
俺はコンビニでお弁当とおにぎり一つ、それにカップスープを買った。優子は菓子パンとカップスープだ。
二人で手を繋ぎながら俺の家に行くとお母さんも梨花も居ない。出かけたのかな?玄関を上がってコンビニの袋をテーブルに置くと胴着を洗面所の横にある洗濯機の洗い物籠の中に入れた。この時期になると結構汗をかく。
手を洗ってからダイニングに行くと優子がお湯を沸かしていてくれた。
「今月末は、学期末考査だね。来週あたりから一緒に勉強する」
「そうだな。二週間位は欲しいからな」
そんな会話をしながらコンビニで買ったお弁当を食べた。プラスチック容器を片付けた後は、何も言わずに俺の部屋に入る。
「今日は、何する?」
「うーん、そうだな。…する?」
「いいけど。気を付けてね」
「大丈夫だよ」
私もしたかったけど、女の子からそんな事を言うのは恥ずかしい。悠斗から言って欲しい。
ふふっ、お互い馴れて来た所為か、結構恥ずかしい事もされるし、私もする。でもそれが気持ちいい。
そして二人で一つになると最近、気が遠くなる時が多くなった。何でか分からないけどとっても気持ちいい。あっ、また…。
ガチャ。
「誰か帰って来たみたい」
「ちょっと中途半端、だから最後まで」
「もう知らないんだから」
二階に上がってこないからお母さんみたいだ。買い物でも行って来たのかな。一通り終わると
「洋服着ちゃう?」
「もう少しこのままで」
俺は優子を思い切り抱きしめた。彼女の柔らかい肌が気持ちいい。
タンタンタン。
「あっ、上がって来た。洋服着るか?」
「うん」
お互い、反対向きになり洋服を着て、ベッドの座っていると
コンコン。
「優子さんいるの?」
「いるよ」
「もう終わった?」
げっ、バレてる。優子と顔を合わせてニマッと笑うと
「何の事。今二人で本読んでいるだけだよ」
ガチャ。
いきなりドアを開けられて俺達をジッと見ると
「本読んでいるだけなら、部屋がこんな匂いしない。お兄ちゃん達のエッチ」
バタン。
「あははっ、バレてた」
「そだね」
机の上の目覚ましを見るとまだ午後四時だ。
「どうしようか」
「いいんじゃない。このままで」
洋服を着たままでベッドで横になってイチャイチャしているといつの間にか寝てしまった。
「お兄ちゃん、もう午後六時だよ」
「えっ?!」
目覚ましを見ると本当に午後六時だ。二時間も寝てしまった。
「優子、起きて」
「うん?」
片目だけ開けると
「あっ、寝ちゃった」
「そろそろ、送るよ。明日も会えるし」
「うん」
二人で一階に降りるとお母さんも帰っていた。
「送って来る」
「お邪魔しました」
「気を付けてね」
「うん」
手を繋ぎながら優子の家まで送る。
「悠斗、明日どうする?うちに来る?」
「そうだな。そうするか。その後で出かけても良いし」
「じゃあ、午前十時でいいかな」
「うん、その位が良い」
次の週からは、放課後は俺の部屋で学期末考査の勉強をした。中間考査と違って範囲が広い。毎日、優子と一緒に勉強した。土日はいつもと同じ。
次の週からは考査ウィークに入って、午前中だけの授業。前週と同じ様に優子と一緒に勉強した。何も無いのが一番いい。こうして優子と一緒に居れる。
そして木曜からは学期末考査が始まった。土日を挟んで火曜までだ。直ぐ次の水曜日は模試があった。
模試が終わったのは午後三時半。私は、直ぐに帰ろうとすると矢田さんが
「渡辺さん、考査も終わったし、打ち上げしない?」
「いきなりは無理です」
「柏木君に言って来れば大丈夫じゃない」
「でも…」
「来生さんも来るわよね?」
何となく圧を感じる言い方だ。
「えっ、私は…」
「来るわよね」
来生さんが頭をコクンとした。
「ねっ、来生さんも来るって。それに十和田さんも来るから」
「ちょっと、待って」
なんか、嫌らしい圧だけど、逆らわない方が良い感じだ。私は1Aの悠斗の所に行って
「悠斗、矢田さんから考査の打ち上げしようって誘われて。来生さんや十和田さんもくるから来てって」
「強引な人だな。でもその雰囲気だと行かないと不味そうだな」
隣に座る大吾が
「矢田さん、結構仕切り好きだから、逆らわない方が良いよ」
「それじゃあ、仕方ないな」
「ごめん、悠斗」
「終わったら連絡してくれ。また同じ場所だろ?」
「聞いてないけど、終わったらすぐに連絡する」
私は、教室に戻ると、行く人はもう帰る準備をしていた。
「どうだった?」
「うん、行ける」
「そっか、じゃあ、行こうか」
打ち上げに参加したのは、この前中間考査で集まったメンバだ。顔が慣れているからまあいいか。
やっぱり駅前のカラオケ店だった。受付でこの前と同じように自分の食べる食事を注文してカウンタ近くのドリンクサーバーから好きな飲み物を持って部屋に入った。
「さっ、考査も模試も終わったし、気を抜いて楽しもうか」
「「「おーっ!」」」
男子乗りがいい。私の隣には来生さんと十和田さんが座った。これならいいや。でも私カラオケなんか全然知らない。この前も何も歌わなかったし。
食事が来るまで、他の人が歌っている。みんな上手いな。五反田も歌っているけど、こいつは下手だ。
そう言えば中山君、バスケの練習に行ったけど、この人なんで行かないんだろう?
「渡辺さん、何か歌う?」
「私、全然知らない」
「じゃあ、俺が教えてあげるよ」
「結構です」
今日も五反田には塩対応で行こう。
私の対応が気に入らないのか矢田さんが
「渡辺さん、五反田君も同じクラスなんだから、もう少し柔らかく言いなよ。五反田君が可哀そうだよ」
「……………」
嫌な物は嫌だ。あっ、食事が来た。良かった。
それぞれが注文した食事を来生さんや十和田さんと一緒におしゃべりしながら食べた。食べ終わってから
「私、ドリンクお代わり取って来る」
「あっ、俺も行く」
来るなよ五反田。
ドアを開けてドリンクサーバーの方に向かうと
「渡辺さん、なんか俺、物凄く嫌われているけど、俺なんかした?」
「別に。ただ、私は付き合っている人が居るから他の男子と馴れ馴れしくしたくないの」
「それは分かるけど、もう少し柔らかく話してくれないかな。これでも結構傷ついているんだ」
その図体で良く言うわ。
「分かったわ。でもべたべたしないでね」
「うん」
ドリンクのお代わりを持って部屋に入ると、何故か来生さんと十和田さんはくっ付いて一つずれている。どう見ても私と五反田が座る形になっている。
俺は、矢田さんに目配せして、上手く話したと伝えると
「じゃあ、歌だけだとつまらないからフリートークにしようか」
「「「おーっ!」」」
この前と違い、前や斜めの男子は話しかけて来ない。五反田だけがペラペラ話をしている。適当に相槌を打っていると矢田さんが、
「渡辺さん、五反田に何か話しかけてよ。見ていて可哀想だから」
はぁ、何でこんな嫌な思いしなくちゃいけないのよ。仕方なく少しだけ話してやった。
終わったのは午後六時。入ったのが午後四時だから二時間居た事になる。私はカラオケを出ると直ぐに悠斗に電話した。
『悠斗、終わった』
『分かった。駅で待っている』
『うん』
それが終わって直ぐに駅に向おうとすると矢田さんが声を掛けて来た。
「渡辺さん、柏木君と付き合っているのは分かるけど、私も五反田君も来生さんや十和田さんと同じクラスメイトだよ。もう少し優しくしてあげてくれないかな。
あんまりあなたが五反田君に塩対応だと場が白けちゃうよ。ねっ、この通りお願いだから」
手を顔の目の前で合わせている。
「分かった」
「教室の中でも同じだよ。じゃあね。彼氏君に宜しく」
矢田さんが駅に向かった。何か釈然としない。悠斗に会って気分直そう。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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