第6話 親睦会


 私は、考査が終わった金曜日、来生さんや他のクラスメイトと一緒に駅前のカラオケに行った。


 矢田さんが親睦を兼ねてと言うから一杯いるのかと思ったら、私を入れて女子五人、男子七人だ。全然話が違う。それに五反田も居る。


 受付で参加者が、食べ物を注文してお金を払うという仕組みは安心した。まだ知らない人から割勘なんて言われるのは嫌だからだ。


 受付の傍にあるドリンクコーナーで好きな飲み物をコップに入れると大きな部屋に皆で入った。


 どこの場所に座ろうかと思っていると矢田さんが

「後で、座る場所のシャッフルもするから取敢えずみんな適当な所に座って」


 と言われたので、来生さんと顔は知っているけど名前を忘れた女の子と一緒に座った。やっぱり参加した意味有ったかな。


 座ると早速仕切り好きな矢田さんが、

「みんな、今日は楽しくやろうね」

「「「「「おーっ!」」」」」

 男子の元気がいい。


「入学した時、自己紹介は終わっているけど名前って直ぐに覚えられないでしょう。もう一度、自己紹介しようか」


 中々いい事言うな矢田さん。私の来生さんと反対の場所に座った女子は、十和田紀子(とわだのりこ)さん。ショートカットに目がぱっちりの可愛い女の子。そして私の番になった。

「渡辺優子です。区立太子中学校から来ました。趣味は特に無いです」

「質問。渡辺さんは彼がいますか?」

「えっ?!」

「こら、いきなりプライベートな事聞くな」

 矢田さんに怒られている。


「でもこの会って、やっぱりそう言うの聞くチャンスだし、渡辺さん可愛いから、なあ皆」

「そうだなぁ」


「あははっ、困ったな。彼氏は想像に任せます。それと彼氏は募集しておりません」

「やっぱりかぁ」

「渡辺さんみたいに可愛い子が彼氏いない訳ないだろう」

「でも、友達なら?」

 しつこいなぁ。仕方ない。


「クラス内だけならいいですよ」

「それで我慢かぁ」

「話せるだけありがたく思え」


 来生さんは彼氏いないけど募集はしていないと言っている。可愛いのにな。本当に居ないのかな。


五反田の番になった。

「俺は、彼女絶賛募集中です」


 今度は女子から

「五反田君、もてるんじゃないの?」

「全然、駄目です。こんなに初心で素直な男なんですけど」

「あははっ、可愛い。私立候補しようかな?」

「まあ、そういう話はまた後で」

「えーっ、やっぱりいるんじゃん」

「ほんと居ないですよ」

 テーマパークの時連れていった子がいるじゃないか。


 それぞれが注文したお昼を食べながら、一時間位過ぎた後、

「では、ここで座る場所シャッフルしますよー。好きな席にと言っても重なった時はじゃんけんねぇ」

「「「「おーっ!」」」」


 また男子が盛り上がっている。なぜか、私の隣の場所がじゃんけん対象だ。でも私も選ぶ権利がある。来生さんの所に行こうとしたら


「渡辺さん、同じ人の隣は駄目ですよ。今日は懇親会なんだから」

「えーっ」


「やったぁ、じゃんけん勝ったぁ」

 私の隣に座ったのは、もっとも座って欲しくない五反田と名前さっきなんて言っていたっけ位に記憶にない男子だ。早速五反田が話しかけて来た。


「渡辺さん、話したかったです」

「そうですか」

 塩対応で行こう。


「渡辺さん、さっき趣味無いって言っていたけど、ほんとになにも無いんですか?」

「はい、ないです」

「俺も無いんで、一緒に何か趣味にするもの作りませんか?」

「結構です」


 そうすると五反田の反対側の男子が声を掛けて来た。

「さっき、クラス内なら話しても良いって言ってましたよね。じゃあ、俺、中休み声掛けていいんですよね」

「ええ、その位なら」


 そしたら前に座る男子が

「じゃあ、俺も声掛けさせて貰おう」

「い、いや、そんなには…」

「ぶ、ぶう。そこの男子三人。渡辺さんに話し過ぎ。反対側の人とも話す様に」

 矢田さん、ナイスフォローです。この人、最初ちょっと圧有ったけど、結構いい人かも。


 そんな感じで、二時間が過ぎた。

「じゃあ、みんな、今日はこれで終わり。親睦深められたかな?」

「「「「おーっ!」」」」

 参加した男子は乗りが良いな。


「じゃあ、解散」

 私が帰ろうとすると矢田さんが、


「渡辺さん、これからも宜しくね」

「はい」

 今日来た甲斐が有ったか。



 私は、駅のホームに入ると直ぐに悠斗に連絡した。




「矢田さん。全然話できなかったけど」

「五反田君、焦らない。少し時間かかるって言ったでしょ。渡辺さんと二人で話せる日が来るからちょっと待って」

「分かった」


 自分じゃ、どうにもならないからこの子の事信じるしかないか。あっ、スマホが震えた。画面を見ると、またかよ。もう別れたいんだけど。俺は渡辺さんと友達になりたいんだ。




 私は、悠斗にホームで連絡したら彼は家の最寄り駅の改札の外で待っていてくれた。

「お疲れ、優子」

「うん、疲れた。悠斗の部屋でいい」

「いいよ。どうだった。親睦会は?」

「行ってよかった。嫌な奴も居たけど」

「嫌な奴?」

「五反田の事。話しかけて来たけど、思い切り塩対応してやった。でも今回親睦会セットした矢田康子さんって人、仕切り好きなのか知らないけど、みんなを上手くまとめていてさ、私の事も凄く気を使っていてくれた。

 これから仲良くなれそう。後ね。来生さんの他に十和田紀子さんて女子もいて、この子とも仲良くなった」

「へーっ、良かったじゃないか。クラス別れて優子が一人だったから気にしていたんだ」

「うん、私も来週から教室に入るのが憂鬱じゃなくなる」


 俺はこの時、親睦会に参加した優子がとても嬉しそうに見えたので、こういうのも良いのかと思っていた。

 

―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る