第3話 テーマパークは朝早く夜が遅い


「悠斗、起きて」


 俺に声を掛けてくる奴がいる。隣の温もりが気持ちいい。目を瞑ったまま抱き締めると


「悠斗、起きないと」

「うーん。もう少し」

「駄目!」

「じゃあ、目覚めのキス」

「もう、仕方ないんだから」


 キスをされたまま、もう一度優子を抱きしめると唇を離してから

「おはよ、優子」

「うん、おはよ。もう午前五時過ぎたよ」

「まだ、早いじゃないか」

「何を言っているの。早く出かけないと入るのが遅くなる。早く行かないと」


 ネットでチケットを買ってはあるが、それは誰でもする事。それでもゲートまでは結構並ぶ。



「分かった。起きるか」

思い切り背伸びしてから毛布を剥がした。


「きゃっ!」

「えっ!」

 見慣れているとはいえ、優子の素敵なお胸が。


「いきなり、毛布取らないでよ」

 毛布でもう一度隠すと


「後ろ向いていて」

 まあ、親しき仲にも礼儀ありで、仕方なく優子と反対側を向いていると


「もう良いわよ」


 可愛い、白のブラウスに茶のワイドパンツだ。俺もと言っても簡単で、紺のTシャツとデニムだ。


 俺が先に顔を洗って洗面所から出ると次に優子が入った。まあ、年頃ですから色々有るの。


 一階は、流石に起きていないと思ったら…。いた。お母さんがダイニングに居る。俺達が、ダイニングに行くと、


「簡単にサンドイッチ作ってあるからこれ食べて行きなさい。何もお腹に入っていないと良くないわ」

「ありがとうございます」

「いいのよ。優子ちゃん。悠斗の事宜しくね」

「はい」

 とても可愛い笑顔で優子がお母さんに返事した。



 駅に向かいながら

「悠斗のお母さんに無理させちゃったね」

「俺もまさか起きてサンドイッチ作っていたなんて。驚いたよ」

「悠斗はお母さんに愛されているのね」

「ははっ、そうだな」



 家の最寄り駅から二回乗換え入れてテーマパークまで約二時間弱。まだ、朝早い所為か電車はゆっくりと座れた。


 テーマパークのある駅に着くと、まだ午前八時前だと言うのに一杯人がいる。待合せをしている様だ。


「凄いなぁ。この時間でもうこんなにいるのか」

「当たり前よ。ゲートに早く並ぼう」

「うん」


 テーマパークの近くに行くと人が急に多くなった。ゲート前では三つの列が出ている。何となく一番早そうな列に並ぶと


「入ったら、ホラー系、コースター系、それともお子様系のどれにする。走らないと」

「そうだな。取敢えず、コースター系に行ってからホラー系にするか」

「そうね。そうしようか」


 午前八時四十五分。入場の開始だ。ゲートをくぐってから、優子の手を握ると

「行くぞ」

「うん」


 俺も優子も足は速い。それでも先に並んでいた人が先に着いていた。

「これなら二十分位で乗れるね」


 二十分と少しで順番が来た。優子を先に乗せてから俺が乗る。ベルトを絞めると上から安全バーが降りて来た。


 係のお兄さんが元気よく

「行ってらっしゃーい」



 ガタンガタンと前に進み、やがて上に昇っていく。

「ねえ、こんなんだったっけ?」

「変わらないと思うけど」


 やがて頂点に達すると物凄い速度で下り始めた。俺はこの程度なら気持ちいい位だけど優子の可愛い顔が引き攣っている様な。


 右に左に回りながら何回もトンネルと抜けると最後にグルグルと三回位回転しながらやっとスタート地点に着いた。


「優子?」

「……………」

 返事がない。


「優子?」

「あっ」

 もう安全バーが上がって、他のお客さんがどんどん降りている。


 ベルトを外してゆっくりと起き上がると乗る時とは反対側の通路に降りた。


「はーっ、あんなんだったけ?」

「前来た時、あれ乗っていないし。両親一緒だったから。優子あういうの弱かった?」

「ううん、そんな事ないけど」

 ほんとは怖かった。


 その後はホラー系に行ったけど、もう四十分待ち、仕方なく並んだ。


 これは実際には座っている椅子はその場に有るのだけど椅子が動くのと目の前に有る映像が真っ逆さまに落ちたり、3Dで化け物が襲ってきたり、ギロチンの刃が向ってきたりと、精神的に結構ハードだ。優子が俺の手を握りながら激しく泣き叫んでいる。俺もこういうの苦手。


 やっと終って、外に出ると優子は足元がおぼつかない様で

「悠斗、私もう駄目ー」

「えっ、まだ二つしかアトラクション乗っていないよ」

「じゃあ、少し休んでから」


 近くのベンチで休んでいると結構な人がパークの中に居るのが分かった。凄い人数だ。



 優子が俺の腕に絡みついて寄りかかっている。

「悠斗、今度はお子様系のアトラクションで」

「そうだな」


 十五分位休んでからお子様系に行くと、ここは十五分位待ちで乗れた。このパークの主人公のヒストリーレビューで連結された船がゆっくりと進んでいく。


「やっぱりいいわぁ。こういうの」

「そ、そうか」

 前も後ろも子供とその親。俺達の様なカップルはほとんどいない。ちょっと恥ずかしい。


 それも終わると午前十二時を少し過ぎた所だ。

「お昼にするか」

「うん」


 ここでも十五分位並んだ。こういうパークは何処に行っても並ぶ、並ぶ。



 俺達が中に入って、チケットを買って、案内されたテーブルに座っていると


「渡辺さん、来ていたんですか」

「「えっ?!」」


 二人で声の方を向くと俺の知らないイケメンが立っていた。背が高い。優子が

「五反田さん?」

「誰?」

「私のクラスの人」


「俺、五反田信夫って言います。君は確か…」

「1Aの柏木だ」

「そう、柏木君。こんなに素敵な彼女連れて羨ましいな。じゃあ、また」


 五反田とか言う奴の歩いて行く方を見ると女の子が一人座っているテーブルに着いた。こっちを見て何か話をしている。


「悠斗と二人でいるんだから、もっと気を利かせればいいのに」

「まあ、偶然会ったから礼儀で掛けたんじゃないの。むこうも彼女と一緒みたいだし」

「でも、あいつ、教室でも目立っててさ。あまりいい印象無いんだ。大体彼女と一緒に来てるなら、私に声を掛けるなんて向こうの彼女にも悪いでしょう」


 なんで優子こんなに怒っているんだ?


 俺、五反田信夫、都立大島高校に入学して、同じクラスに滅茶苦茶可愛い子がいた。自己紹介の時、名前を渡辺優子って言っていた。周りの男子も注目していたけど、何とか友達になりたいと思っている。


 でも、お昼休みは1Aの男子二人と一緒だし、下校は今一緒に座っている柏木とか言う奴と一緒だ。


 声を掛けるチャンスがない。今日は偶然ここで会ったので、印象を付ける為にも声を掛けた。最初はこんなものだろう。



 昼食と休憩で一時間位過ごしてから、舞台でやっているイベントなどを見た。それからもあちこち見て午後六時前には、通路の端に座った。


他の人も一杯通路の端に座っている。目的は光のショーだ。このテーマパークのマスコットたちが、色々な船の形をした乗り物に乗って目の前をゆっくりと動いて行くアトラクションだ。

 この季節は陽が長いのでまだこの時間だと、真っ暗にはならない。


「悠斗始まったわよ」


 賑やかな音楽と共に行列が近付いて来る。とても綺麗だ。優子が俺の腕に自分の腕を回して来て


「悠斗綺麗だね。また来たいね」

「ああ、とっても。また来ような」

「うん」

 優子が頭を俺の肩に傾けて来た。彼女の胸が思い切り気持ち良く俺の腕に当たっている。


 その後、午後七時半。大分暗くなった所で最後のイベント花火だ。空に打ちあがり綺麗に花咲く花火を見ていると目が離せな…。優子が俺を見ている。


 俺も右と左を見て、もう一度右を見て。よしノーマーク。優子の唇にゆっくりと自分の唇を当てた。



 優子の家に着いたのはもう午後十時を回っていた。優子のお母さんに遅い事を謝ってから自分の家に戻った。


 とても楽しかったけど、五反田とか言う奴の優子の態度が気になる。何であんなに怒ったのか。俺から見ると単なる挨拶だった様にしか見えなかったけど。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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