第37話 最強の4人

 俺が創り出した鋼鉄のドラゴンを前にして、元クラスメート連中は明らかにビビった。

 そりゃそうだ、坂崎の魔物の倍近いバケモノが現れて、しかも火を吹いてるんだから、いくらスキル持ちでも怖いだろうな。


「なんだよ、なんだよあれ!?」

「やばいやばい、勝てっこねえって!」

「ビビってんじゃねえよ、カス共が! 俺のポイズンコンダが、あんな魔物のパチモンに負けるわけが……」


 それでも坂崎は強気な態度を崩さなかったが、まあ、今だけだな。


『ガルガアアアアァァッ!』


 カラミティドラゴンはポイズンコンダに飛び掛かり、瞬く間に爪と牙で引き裂いた。


『シャ、シャガアアアアッ!?』


 毒を持ってるとか、巨大な魔物だとか、鋼の竜の前じゃ何の意味もない。

 たちまち蛇はぐちゃぐちゃになった上に、口を無理矢理広げられ、火を注ぎ込まれて動かなくなった。

 炎のゲロをぶち込まれちゃ、もうあの魔物は動けないだろうな。


「爪で裂いて、尻尾で潰して、炎でこんがり丸焼きにして……かば焼きの完成だ」


 俺が呟くと、いよいよ坂崎も子分も絶句した。

 このままビビッて、さっさとどこかに逃げるなら、俺も(坂崎以外は)深追いしない。


「……お、お前ら、ぼさっと突っ立ってんじゃねえ、戦わねえなら俺がブチ殺すぞコラァ!」

「「う、うわああああっ!」」


 まあ、金魚のフンに自我があるわけがないよな。

 ボスに脅された子分達は、半ば我を忘れたみたいに突進してきた。

 もちろん、坂崎が操る魔物のダブルヘッドホークとビームリリィ、マッコイにせっつかされた護衛の連中も一緒にだ。


『キョオォー!』


 先陣を切って攻撃を仕掛けてきたのは、花弁を開き、中心を輝かせるビームリリィ。


「あいつ、口から何かを発射するつもりだ!」

「カノンに任せて! どんな攻撃も、ぜーんぶ炎で燃やし尽くしちゃうんだから!」


 間違いなく何かを撃ち出そうとする魔物の前に、カノンがおどり出る。


「【蒼炎魔法】――『バーンリング・インフェルノ』!」


 ビームリリィが文字通り光線を撃つよりも早く、カノンの魔法が炸裂した。

 彼女の両手から放たれた炎は巨大な輪っかの形になり、百合の花をがんじがらめにして縛り上げる。

 当然、炎で拘束された魔物は燃え盛りながら絶叫するしかない。


「カノンはイオリ君と違って、優しくないから。悲鳴も上げさせないよ」


 青いインナーカラーの髪から炎を解き放ち、殺意を瞳にたたえるカノン。

 恐らく、今のカノンは俺が止めても炎を消さないだろうな……超コワいんだが。


「お、俺達もやるぞ!」

「つーか、やらなきゃ坂崎に殺されちまう!」


 さて、転移者の半分は、グラント親子に狙いを定めてた。

 特にブランドンさんを狙った坂崎の部下(確か玉見だったか)は、光を宿した拳で、巨体に拘束ラッシュパンチを叩き込んでる。


「スキル【拳撃】! 岩も砕くパンチだ、いくら体がデカくても耐えられねえだろ!」


 玉見のやつはああ言ってるけど、早めに気づいた方が本人のためだ。

 俺もカノンもブランドンさんに助力しない理由があると、知っておくべきだったな。


「オラオラオラオラ……オラ……あれ?」


 当たり前だろ。

 お前がどれだけ殴っても、ブランドンさんはノーダメージなんだから。

 ボコボコと殴る音が、次第にポコポコになり、ぺちぺちへと変わってゆく。


「なんだ、ずっと俺っちを殴ってたのか? てっきり撫でてるのかと思ったぜ」


 とうとう殴ることすらやめてしまった玉見の顔には、「調子に乗ってすみません」と書いてあるんだが、ブランドンさんが許すわけがないよな。

 震える玉見の肩に手を乗せ、巨体の猛牛はぐっと拳を握り、にっこりと笑った。


「いいかガキんちょ、殴るってのはな――こうやるんだッ!」


 そして思い切り、玉見の顔面を殴り抜いた。


「ぶっぎゃあああああああー……」


 玉見の顔が一瞬だけ歪み、洞窟の遥か奥まで転がっていき、何も見えなくなる。

 あいつがどうなったかは知らないが、きっと顔の骨はぐちゃぐちゃだろうな。


「俺達はあっちの女をやるぞ!」

「さっきからビビッて動きやしねえ、スキルで痛めつけて人質にでもしてやれ!」


 こんなさまを見せられた転移者連中は、びっくりするくらい分かりやすく、標的をブランドンさんからキャロルに変えた。

 魔法を使うスキルの持ち主――友田、五十嵐、伊藤の3人が狙っているキャロルは、確かに槍を構えたまま何もしていないように見える。

 もっとも、そんなわけがないのは百も承知だ。


「フーッ……フーッ……」


 なぜならキャロルは、力を溜めているだけだ。

 猛牛がひづめを鳴らすように地面を踏みつけ、目を見開いて鼻息を噴き出してる。


「【土魔法】『地盤砕き』!」

「【雷魔法】『雷撃』!」

「【水魔法】『ウォーターガン』!」


 転移者連中が揃って魔法を放った瞬間、ついにキャロルが動いた。


「――とっかんッ!」


 力を溜めて、溜めて、限界まで溜めたキャロルの突進は、地面を揺るがした。

 洞窟の入り口に衝撃でひびが入るほどの破壊力を前に、3つの魔法は紙をビリビリに破くよりも簡単にはじけ飛んで、霧散むさんする。


「「おんぎゃあああああ!?」」


 魔法と同じように、いや、もっと簡単に転移者達はキャロルに激突して吹っ飛ばされた。

 ブランドンさんにやられたやつよりも無残な目に遭ってるのは、言うまでもない。


「ひ、ひいい! 【土魔法】『ビッグウォール』、これなら……」


 怯えた他の転移者、名前も覚えてない元クラスメートが土の壁を生み出しても、はっきり言ってキャロルの前じゃ焼け石に水だな。


「こんな壁で、『ブルズランス』と猛牛の突進を止められると思いましたかッ!」

「ぎゃぼあああああッ!」


 土くれの壁を粉々に砕くキャロルは、もう誰にも止められない。

 女だからって調子に乗ってた坂崎の子分達は、暴走特急に変貌した彼女に追いかけ回されて、槍で突き飛ばされるまで永遠に逃げる羽目になったな。

 そんなキャロルとブランドンさん、カノンの奮闘ぶりに、俺もあてられたみたいだ。

 だってこんなに――敵を、自分のスキルでぶっ飛ばしたくなってるからな!


「うわあああ!?」

「ドラゴンなんて、戦ったこと……ぎゃあああ!」


 クラスメートがスキルを使おうが、マッコイの護衛が武器を振り回そうが関係ない。

 俺が乗ってるのは、全身が鋼で固められた本物の怪物モンスターだ。

 尻尾で薙ぎ払い、翼で叩き、火を吹くだけで敵は恐れをなして逃げていくんだ。


「悪いがお前らに、クラスメートとしての情けはかけてやらねえ! マッコイの護衛なんてなおさらだ、死にたくないならさっさと逃げるんだな!」

『ゴオオオオアアアアアアァァーッ!』


 こうして雑魚を蹂躙じゅうりんした俺とドラゴンの視線は、すでに坂崎とマッコイを捉えていた。

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