第38話 現実を見せてやる

「どうなってんだ、マッコイ! あのEランクの雑魚が、なんであんなに強ええんだ!」

「だ、だから言ったじゃないですかぁ! あの転移者がめちゃくちゃに強いスキルを持ってるって……ひいぃーっ!」


 坂崎のやつ、まだ俺のスキルがEランクのままだと思ってたのか。

 炎を吐いて、マッコイの少ない髪を燃やすドラゴンを操る俺のスキルが、どこをどう見たらEランクだと錯覚するんだ?

 というか、マッコイみたいにうずくまって逃げてる方が、まだ利口だってのに。


「こうなりゃ……来い、ダブルヘッドホーク!」

『キーッ!』


 なんて同情していると、坂崎が巨大な鷹に乗り、空を舞った。


「空で決着をつけてやるぜ! 来やがれ、天羽イオリイィッ!」

「上等だ……今まで散々痛めつけてくれた分、100倍返しにしてやるよ!」


 俺もドラゴンをはばたかせ、はるか上空まで敵を追いかける。

 翼がぶつかり合い、くちばしと牙が鍔迫つばぜり合う。


「火を吐け、ダブルヘッドホーク!」

「カートリッジ装填! カラミティドラゴン、ぶっ放せッ!」


 俺と坂崎の命令で、ほぼ同時に魔物同士が炎を吐いた。


『キキィーッ!』

『ゴオオオァァッ!』


 鷹に火を吹く力があるのは驚きだが、それはそれとして、勢いはこっちの方が上だ。

 ドラゴンの爆炎に、次第に鷹の火が抑え込まれていくさまを見て、坂崎の顔が余裕から恐れに変わってゆく。


「ありえねえ! ダブルヘッドホークはマッコイに用意させた、イグリスでもトップクラスに凶暴な魔物だぞ!? 鉄を溶かす炎を吐くってのに、なんでピンピンしてんだ!?」


 そりゃ、【生命付与】する時に耐火性のポーションを塗布したからな。

 しかも火を吹く器官として搭載した松明は、ブランドンさん特製のアイテムだ。

 要するに、超危険なアイテムってわけだな!


「言っとくが、こっちの炎はカートリッジを差し込むだけでパワーアップするぞ! 火力なら、絶対に負けないっての!」


 赤い轟炎が空を切り裂き、ダブルヘッドホークと坂崎に届く。


『ゴオオオオオッ!』

「丸焦げにしてやれ、カラミティドラゴンッ!」


 そしてついに、鷹は炎に呑み込まれた。

 いくら巨大な魔物といっても、全身を焼かれればただじゃすまない。


『ギキィー……』

「ちょ、おま、落ちるな、落ち……あああぁッ!?」


 ダブルヘッドホークはもはや飛ぶ力もなく、坂崎の怒号と共に地面に堕ちた。

 あの炎で死んだかどうかは分からないが、少なくとも坂崎は落下の衝撃の中、運よく生きていたみたいだ。

 まあ、生きてるからって、無傷ってわけじゃない。


「ひぎゃああああああ! 折れた、足、折れたああああああッ!」


 坂崎の右足は魔物と地面に挟まれたのか、本来なら絶対曲がらない方向に折れていた。

 流石の悪党も骨折の激痛には耐えられないみたいで、涙と鼻水をまき散らしてる。


「誰か助けろ、俺を助けろよ! さっさとしろ、ノロマ、グズ、ゴミカス共……」


 そんな男の必死の叫びが、果たして子分達に届いてるか?

 残念ながら、答えはノーだ。

 なんでってそりゃあ、他の連中も酷い目に遭ってるからな。


「イオリ君とカノンの合体技! 【蒼炎魔法】――『ファイアキャット・ワークス』!」


 カノンがビームリリィに向かって解き放ったのは、数匹の蒼い炎の猫。

 俺があらかじめスキルで【生命付与】しておいた猫だ。


『マーオ……』

『ナーオ……マーオ……!』

『『ギャフベロハギャベバブジョハバッ!』』


 猫は敵意剥き出しでビームリリィに突撃して、爪と牙でめちゃくちゃに花びらを引っかき、根を噛み千切り、葉を燃やす。

 ものの数秒もしないうちに、百合の花は黒焦げの雑草と化した。


『ギョオオォ……ウギャア……』

「へへーん♪ 恋する乙女の炎は、なんでも焼き尽くしちゃうんだぞっ♪」


 俺に向かってVサインを見せて笑うカノンは、やっぱりかわいい。

 一方でブランドンさんをひたすら殴り続けてる元クラスメート達は、なんとも醜い。


「はあ、はあ、はひ……」

「なんで倒れねえんだよ、このおっさん……!」

「そりゃそうだろ、俺っちは毎日鍛えてきたからな! おめーらみたいに、スキルを手に入れたからってあぐらかいてるちびっ子が、勝てるわけねえだろうがッ!」


 スキル【拳撃】とかの強化スキルを使った攻撃も、ブランドンさんには通用しない。

 逆に牛角族でもトップクラスのマッチョが敵をぶん殴ると、1発で鼻が折れ、額の骨が砕け、空中で1回転して地面に激突して卒倒する。


「「ぎゃばぎゃあああああ!?」」


 いくら骨がバキバキに破壊されるとはいえ、悲鳴が上げられるほどのダメージで済ませてるのは、ある意味ブランドンさんなりの優しさなのかもな。

 娘のキャロルの方が、ある意味では容赦ないと思う。


「あが、ぎ……」

「痛てえ、痛てえよぉ……!」

「どうしたんですか? 自慢のスキルで、私を捕えるんじゃないんですか?」


 無慈悲な表情で仁王立ちするキャロルは、鉄騎槍を地面に突き刺して、すっかりボロボロになった敵が立つのを待ってるみたいだ。

 どう考えても立ち上がれるような状態じゃない、3人のうちふたりはぴくりともしないのに、キャロルがそう言ったのは、恐らく絶望させるため。


「抵抗しないなら、一撃で叩き潰します。『ブルズランス』――」

「ちょ、待って、やめて、まだ死にたくない……!」


 もう逃げられないと、振り上げた槍に潰される未来を想像させるためだ。

 坂崎の第一の子分、友田の悲鳴なんて、キャロルはまったく耳を貸さなかった。


「――『潰撃かいげき』」


 キャロルが叩きつけた槍は、牛角族の怪力をって、転移者を破壊した。

 正確に言うと――友田の右腕の骨を、だけどな。

 友田は骨を粉々にされた激痛のあまり、泡を吹いて気絶したけども、死んでないだけましってとこだろ。

 ちなみに俺は、最初からキャロルが人殺しなんてしないって知ってたけどな。


「安心してください。骨は砕きましたが、お兄さんの名誉のために、殺しはしません」


 ふん、と鼻息を蒸気のように吹くキャロル。

 炎の猫を操るカノン。

 筋肉モリモリマッチョマンのブランドン。

 この3人を目の当たりにして、坂崎はただただ、茫然ぼうぜんとするばかり。


「……ゆ、夢だ……こんなの、悪い夢だ……」

「何言ってんだ、今まで散々楽しい夢を見てきただろ」


 そんな雑魚野郎の前に俺が立つと、やつはびくりと震えた。

 マッコイも坂崎のそばにいるし、そろそろ悪党にまとめてお仕置きする時間が来たな。


「現実に引き戻してやるよ、坂崎コウスケ」


 俺の後ろで、ドラゴンが敵を睨んだ。

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