第3話ビジネス百合ップルはじめました
そしていよいよ始まった私たちのチャンネル【ゆるゆる百合ップルけもみみラバーズの日々コレコレ】。
カリスマ人気絵師北条院とら丸が前日に投下した一枚のイラスト、文字は月浦うさぴょ子と柴咲にゃみ美というキャラ名だけで詳しい説明は何一つ書かれていない。
それは熱狂的なとら丸信者以外にも大きな話題を呼び、真相を探るべくネット探偵団が暗躍した。
そして、いよいよ動画配信初日、チャンネル登録者数はフリーの新人にしては異例の三十万人、再生数100万回突破という華々しいデビューを飾ったのだ。
内容は城ケ崎の提案通りだった。
基本設定で一人称が私のうさぴょ子はぴょんち、七海のにゃみ美がにゃおであると決められていた以外は、お互いのアドリブで日常を語るだけのとんだゆるゆるゆりっぷりで、新作のコンビニスイーツや好きなアニメについてとろとろのんびりゆったり語る……だけじゃなくて……
城ケ崎、いや、にゃみ美によるうさぴょ子への度を越えたスキンシップも含まれていた。
「いやー、にゃみ美さん今日も始まったぴょん、日々コレコレ」
「そうですねー、うさぴょ子さん、とーこーろーでータイトル略しちゃったにゃんね」
「あー、まー、通じるんだからいいんぴょん」
「いえいえいえ、そこが一番のキモなんですから、さぁ言うにゃん! 言ってにゃにゃー」
「ゆるゆる百合ップルのー」
「よくできましたー、ごほうびにゃん」
からのこちょこちょハグ。
「ちょっと、にゃみ美、手つきがいやらしい! 尻をなでるな! それにくすぐったいぴょーん」
「うっふふふー、くねくねしたってからに、よ・いくせににゃん!」
「無理無理無理、ここは全年齢向けだからR指定はNGだから! やめるぴょん!」
「はーい、皆さん、続きは想像してにゃん!」
「ちょ!」
まぁこんな感じで、数回に一度私は城ケ崎に体をまさぐられるというドッキリにかけられていた。
城ケ崎は「ぐうぇっへっへ、その身もだえる姿が実にたまらーんにゃん」とかおっさんみたいなセリフを吐きながら笑い声で素が出てしまい、録音をし直したことも度々ある。
セクハラで素が出るとかどないやねんとは思ったが、服の上から軽く触る程度だったし、さして気にも留めてはいなかった。
台本なしでキャラになりきってアドリブでいちゃいちゃベタベタするのはちょっと恥ずかしくはあったけど、これも勉強だし。
それに、こういう回は視聴者の評判も良かったんだ。
初日こそとら丸効果で好意的に観に来てくれた人も、回を重ねると辛口コメントを残すようになっていた。
(なんなんコイツ等、また声優崩れかなんかかーお前らの日常なんか興味ねーし。)
(北条院とら丸もよー、はした金目当てでプライド捨てたな。)
(やめろやめろやめろ、もう消えろ。)
とか厳しいコメントの中に。
(とら丸っちの萌え絵が動いてるだけでも涙ちょちょ切れモンなのに、二人の会話がめちゃかわ。いちゃいちゃ回もサイコー。ワクテカでテレビの上に正座して待ってまーす。)
(北条院とら丸さんってのは有名なんかな、知らなかったけど、俺っち百合大好物だからお二人さんには毎回癒されてるー。)
(いやがりつつも可愛い声出すうさぴょ子に萌え死ぬ。普段クールなハスキーなのに、やめてーの声がきゃわわなの。クーデレうさぴょ子は至高!)
(社畜としてズタボロになるまで酷使され、泥のように眠る寸前にベッドで動画見てると、胸がぽわんとあったかくなる。心が安らぐよー。いつまでもこの二人のゆるゆるな日常会話を見続けていたい。恥じらいのあるスキンシップもめちゃめちゃいい!)
とか胸の温まるコメントを見つけてしまうと、やっぱりめっちゃうれしかったんだ。
いや、ぺたぺた触られるのは別に好きじゃないし、にゃみ美になりきってるとはいえわざわざリアルに触る必要あんのか? 触られた体でしゃべるだけでいいんじゃないかとも思ったけど。
「リアルな百合ップルのイキイキしたシズル感を、大事にしようではないか!」
とかわけわかんないけどなんとなくわかるような気がすることを言われちゃうと、なんか拒めなかったんだよね。
初日ボーナスポイント、おひねり応援的な感じからガクッと一気に減った視聴回数が、じりじりと伸びていくのも楽しみでしかたがなかった。
好意にしろ、悪意にしろ、興味は持ってわざわざ観に来てくれてるのは確かなんだから。
今までは何の意味もなかったエゴサも、しょっちゅうしてしまうようにもなった。
例え(くだらない、観るだけ無駄)(時間泥棒の極致、これ見るくらいなら鼻くそほじってた方がよっぽど有意義な時間の使い方)というコメントだったとしても、その人たちの意識に留まったのが、話題になっているということがただただうれしかった。
だって、こんなに注目を浴びたのなんて人生で初のことだし。
それから北条院とら丸ファン以外にもSNSで広げてもらった視聴者の輪はじりじりどころか一気にどーんと広がり、倍数倍数でウチらというかにゃみ美とうさぴょ子はバズりにバズりまくった。
長寿アニメ雑誌アニオタファンファンの読者投票により百合アワードのキャラ部門に、VTuberとして唯一ノミネートされベスト百合ップル受賞。←(授賞式はキャラがAR出演、生身で出たわけじゃないけどめっちゃドキドキした。)
人気青年漫画誌ホットイマジンの巻頭ページにカラーグラビア掲載←(まぁゆーても北条院とら丸のイラストなんだけど、一応モデルとしてポーズ画像は提供したんだよね。)
月間視聴回数1111万回。←(まさかのぞろ目!)
そして、チームけもみみラバーズの月浦うさぴょ子と柴咲にゃみ美を主演に据えたアニメの話も進行中。←(生身のウチらではなくキャラとはいえウチら主演だよ、主演、すごすぎる。)
とんとん拍子に次ぐ、とんとん拍子。
主人公のたいして出番のない部活仲間のオーディションにすら落ちていた声優の卵ですらなかったウチらがだよ。
まるで、夢の中で夢でも見ている気分だった。
くらくらと眩暈がしそうなくらい。
私はそんなポジティブ思考な人間っていうわけでもないのに、目の前に光り輝く道が見えてくるような気までしてきていたんだ。
ウチら二人の行く先に何が待っているのか、どこまで行けるのか、少しの不安もあったけど、それよりもワクワク感の方が勝っていた。
にゃみ美は、城ケ崎は、私にとって最高の相棒かもしれない、誘ってくれて本当にありがとうって感謝の念も持っていたんだよ。
城ケ崎の方だってさ、同じ気持ちだと思ってた。
「いやー、みな葉、君とボクの相性はバッチリだね。けもみみラバーズは最高の百合ップルだよ」
って言葉も、仕事のことだと思うじゃんね、普通。
「ボクと君は永遠にいつまでも一緒だよ。きっと出会うべきして出会った運命の二人なんだ」
これもさ、いつまでもこのコンビで長いことがんばっていこうね。 組むことによって相乗効果が得られるいい相棒に出会えてよかったね。ってことだと思うじゃん。
だからさ、毎回「うんうん、私も城ケ崎と組めてよかったよ。今後もどうぞよろしくねー」ってにこやかに愛想よく応えてはいたさ。
そういうもんでしょ、だってウチら大人だもん。
なんか私間違った?
いや、何も間違ってないよね。
仕事の相棒を大事にして、相手に調子を合わせてただけなんだもん。
そして、初配信から一年後の現在……
アニメ企画についての今後の打ち合わせという名目のもとに最寄りの公園に呼び出された私は、ビジネス百合ップルけもみみラバーズの相棒であるはずの目の前のコイツに、愛を告白されかかっている。
どうしてこうなった!?
ウチら、完全にビジネスだったはずでしょ?
お互い承知の上のWinWinの関係の割り切ったエセ百合ップルでしょ!
あのスキンシップも、ラブラブ全開モードのセリフたちも、全部演技だったんだ、よ、ね?
そうだよね!?
一体全体、この私にどうしろっていうのさ!
ねぇ、どうすればこの状況を打破できるの?
いやいや、この難関ステージ攻略不可能でしょ。
いきなりこんな無理ゲー展開ありえないってば!
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