第24話 学園の七不思議


 お昼の給食の時間が終わり、サーシャはシャルと共にノートンに報告に来ていた。

 場所は臨時講師に与えられる教室という事なので、今度は生徒達も来ないはずだ。


「え~と、まず記憶を怪盗に盗まれた被害者についてだけど、面白いことがわかったよ。被害者はあたしを含めて3人だけど、最初の一人は怪盗エロスの犯行カードが無かったの。怪盗エロスのカードが犯行カードが発見されたのは、二人目以降ね」


 シャルが新たに提供した情報は、サーシャにとっても初めて聞く興味深いものだった。


「マスター、どういうことでしょう?」


「一人目はカードの作成が間に合わなかったのかな?」


「だとしたら少し変ニャ。セキュリティが厳重なマホジョに潜入するのに、それなりに準備が必要なはずだニャ。カードの作成が間に合わないはずがないニャ」


「最初は突発的な犯行だったとか?」


「う~ん……シャル、怪盗エロス事件より前に、生徒の記憶を喪失した事が過去になかったか、調べてほしいニャ」


「わかったわノートン先生。先輩に聞いてみるよ」


 笑顔で快く引き受けてくれるシャル。


「サーシャは、何か気づいたことはあるかニャ?」


「そうですね、給食はとてもおいしかったです。たくさんの果物と薬草が入ってて、とても美容と健康によさそうでした」


「あ~、それはわかる。ウチの給食を食べると美人になるって、噂があるよ」


「……ネギっぽい野菜が多くて大変だったニャ


 他には何かあるかニャ?」


「廃止になったウチのクラスのブルマは、悪用されることを避けるため、回収して処分するそうだよ」


「悪用って、どんな使い方でしょうか?」


「う~ん、変態達の考えることはよくわからないから、考えても無駄だニャ。


 ほかに気になる噂とかはなかったかニャ?」


「怪盗とは関係ないかもだけど、学校の7つの怪談とかならあるよ」


「ほほう、聞かせてほしいニャ」


 サーシャにとっては意外だったが、ノートンは怪談に興味を示した様だ。


「どこの学校でも怪談や不思議な噂があるものだが、ひょっとしたら何かヒントになるかもしれないニャ」


「え~とね、一番が美術室のヴィーナスの人形。なんとウエストがどんどん細くなっているらしいの」


「そ、それは怪談なのかニャ?」


「噂によると、女子の理想とされるウエストサイズが小さくなってて、ヴィーナスの像のウエストはそれに合わせて細くなっているとか」


「なにそれ怖い!」


 怪談の予想外の怖さに、サーシャは思わず叫び声をあげる。


「そんなに怖いかニャ?」


 ノートンにはいまいち怖さがわからないらしい。


「2番は、校舎のどこかに謎の部屋があって、〝神隠し〟にあって失踪した生徒が石像になって保管されているとか」


「それはちょっと怖いです。でも生徒の失踪なんて、ありえるんですか?」


「う~ん、急に来なくなるコはいるよ。ただ家の事情による、突然の転校とかだと思うよ」


 シャルが言いにくそうに答える。貴族の令嬢とはいえ、いろいろとあるのだろう。サーシャは少し気になったが、深く追求することは止めておくことにする。


「3番が入ると不幸になる教室。旧棟の使われていない部屋に入ると不幸になるとか、呪われるとか言う噂があるよ」


「それはちょっと気になるニャ」


「4番が謎の菜園の存在。禁断の薬草を育てていて、ウチの給食の材料になっているとか」


「給食はおいしかったから、怖くないです」


「5番は、生徒の幽霊の噂。髪の長い小柄な生徒が、夜な夜な学園内を徘徊しているとか。昔事故で無くなった生徒だって噂よ」


「ゆ、幽霊ですか」


「そう。アタシもぜひ会ってみたいんだけどね、なかなか会えなくて、やっぱり夜来ないとだめなのかな~」


「会えなくてよかったですよ~」


「6番は、呪いの鏡の噂。この学校のどこかに謎の鏡があって、それに写ると不幸になるとか」


「不幸になる噂が多いニャ」


「なんか効果があいまいですよね」


「7番は空番みたい」


「空番なんですか」


「7つも無い上に、そもそも怪談でもない気がするニャ」


「どちらかというと、怪談というより七不思議って感じですね」


 まあ学校の怪談や七不思議など、そんなものかもしれない。


「最後にシャル、頼んでいたコンパクトの出どころはわかりそうかニャ?」


「ごめんなさい、あのコンパクトについては、出どころはまだつかめないよ。どうも卒業した先輩から引き継いだ魔法具みたい。先輩達に聞いてるとこだから、もうちょっと待っててね」


「こちらこそ、いろいろと頼んですまないニャ。キツかったら、別に無理しなくてもいいニャ」


「うん、大丈夫。友達とおしゃべりするだけだし、探偵みたいで楽しいしね。それに、あたしがどんな記憶を盗まれてか、知りたいし」


「恥ずかしい秘密らしいがニャ」


「だからこそ、他人より先に回収しなくちゃだよ。怪盗エロスをとっちめてね」


「そうか……だが、もし犯人が、先生や生徒の中にいた場合は、どうするニャ?」


「ウチの生徒や先生に、犯人なんているわけないよ」


 シャルはノートンの言葉を、きっぱりと否定する。


「だがこの学園のセキュリティは相当なものだ。外部からの侵入は難しい。となると怪盗エロスは内部の誰かである可能性はあるニャ」


「え~、ないよ。だって先生も生徒もみんな女性だし、あたしたちの恥ずかしい記憶を盗んでも仕方ないだろうし……」


「例えば、金持ちの娘の恥ずかしい記憶を、お金で買い取らせるとか?」


「き、脅迫ですか!? 自分でも忘れている恥ずかしい記憶で脅迫とか、いや~!!」


「あくまでも可能性の話だニャ。シャル、誰か経済的に困っている人はいないかニャ?」


「う~ん、みんな貴族のコだから、お金はあると思うけど、家の中の事まではわからないかな」


「わかった、生徒の経済状況と先生については、オレが調べるニャ。まあ生徒が犯人である可能性は、低いと思うけど、念の為だにゃ」


「あ、先生ここにいたんだ」「ノートン先生発見!」


 また生徒達に見つかってしまった。せっかく見つからないために、臨時の講師室を借りていたのに。


「先生はシャワー浴びましたか?」


 体育の授業で汗を流した生徒たちは、シャワー室で汗を流したらしい。


「ウチの女子シャワー室は、すごく豪華で、ジャグジーもサウナもついてるよ」


「オレは運動してないから、シャワーは不要だニャ」


「え~、入っていないの? じゃあウチらが一緒に入って、洗ってあげるよ」


「いろいろとお世話してあげちゃうね」


「そんな……」


 その言葉には、流石にサーシャもとまどう。


「嫁入り前の女の子がはしたないこと言っちゃだめだニャ」


「え~猫ちゃんとお風呂に入るのが、何がダメなのかわかんな~い」


「わかんな~い」


 ノートンを取り囲むように包囲する女学生達。シャワーを浴びた後の彼女たちの体からは、シャンプーのいい匂いがした。


「午後は講師の選択授業のはずだニャ。そろそろ時間だから、さっさと行くニャ」


 ノートンが教師らしく仕切ると「は~い」「また後でね~」と嬉しそうに去っていく女学生達。


「ふう、教師はやっぱり大変だニャ」


 困った言葉に反して、少し嬉しそうに見えるのはサーシャの気のせいだろうか?


「もうマスター、生徒達にデレデレしないでください」


「してないニャ」


「してたよね、シャルちゃん?」


「まあ、先生もオスだしね。一皮むけば野獣なんだよ、仕方ないね」


「野獣じゃないニャ」


「ところで午後はどんな感じでカリキュラムが組まれているの、シャルちゃん?」


「ウチの学校の名物の選択授業だよ。ウチは少人数制で、一学年はAクラスとBクラスの各20人の合計40人しかいなんだけど、それぞれのクラスの正副担任の4人の先生が選択授業をしてくれるんだ」


「へ~、どんな内容の授業なの?」


「Aクラスの担任であるポロン先生は美術全般、美容、ドレスの着付け、今はお化粧の仕方を教えてくれるよ」


「それは面白そう」


「Aクラスの副担であるマリサ先生は実践型の魔法を、Bクラスの担任であるネイ先生はスポーツと護身術、Bクラス副担であるアネット先生は社交界でのダンスやマナーを教えてくれるよ」


「へ~、どれを取ろうか迷っちゃうね」


「生徒たちは自分に必要だと思う知識を学ぶんだよ」


「資金に余裕のあるお嬢様学園でしかできない、この少人数制の選択授業こそマホジョの最大の売りだそうだニャ」


「でも、生徒がどこかの授業に集中したりしないの?」


「大体10人ずつに分散するから、大丈夫だよ。よっぽど特徴的な先生でない限り、一人のクラスに集中することはないかな」


「そっかぁ

 ところでマスターも何か授業を担当するんですか?」


「うん、〝鑑定〟の授業をするつもりだニャ


「ノートン先生の専門は鑑定士だもんね」


「まあ臨時講師であるオレのところには生徒は集まらないだろうから、授業中に学校の施設の調査を行うつもりだニャ」


「私はどうしたらいいですか?」


「そうだニャ。美術室で行われるポロン先生の授業にでてみてはどうかニャ? ついでにビーナスのくびれについて確認してきてくれ」


「サーシャもビーナスのクビレが気になる?」


「女性の理想のウエストがどのくらいか、見てみたいです」


「じゃああたしと一緒にいこっか」


「うん」


 サーシャはウキウキした気分でシャルと共にノートンと別れ、部屋の外に出ていき、

 そのまま、大慌てで部屋の中に舞い戻った。


「マスター大変です。受講を希望する生徒たちが押し寄せています」


「そうなのか、モノ好きな生徒もいるもんだニャ。それで、何人くらいかニャ? どうせ少人数だろうから、適当に課題を与えてずらかるかニャ」


「そ、それが……」


 サーシャは言いにくそうに、


「40名です」


 と答えた。


「AクラスとBクラスの全員かニャ!?」


 ノートンは驚きの声をあげる。なんとシャルの学年の生徒の全員が、ノートンのクラスの受講を申請してきたのだ。


「加えて、AクラスとBクラスの教師方が聴講を希望しています」


「先生たちもかニャ」


 生徒がいないなら授業をしてもしかたがない、という事なのだろう。


「どうしますか? マスター。この部屋だと40人は無理ですよ」


「講堂の方なら入れるよ。先生方も、そちらに移って授業してください、って言ってた」


「仕方がない。講堂で授業をするか」

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