2日目ー理想のマイルームー

前回のあらすじ

――出会った日に荷ほどきを手伝い合うことが決まった三人であった――


 新学期まであと一週間となった今日、ぼくとヤマはハナの家の最寄り駅まで来ていた。ここで判明したことだが、ヤマはなんと自分の車を持っていた。親が使っていたもののうち、一台を譲り受けたらしい。

 遠くから明るい服の人物が、手を振りながら近づいてくる。ハナだ。そういえば私服で会うのは今日が初めてだ。昨日出会ったのだから当たり前だが。


ハナ:「いやー、今日はありがとね!」

ヤマ:「お前、結構町の中心近くに住んでんのな」

ハナ:「まあね!その分部屋は狭めだけど」

カイ:「ぼくたち今日車で来てるんだけど、ハナん家の近くに駐車場ある?」

ハナ:「あるある!1時間300円のコイパがあるよ!」

ヤマ:「コイパってコインパーキングの略か?」

カイ:「ハナって時間対効果のことタイパっていうタイプだろ」

ハナ:「どーでもいいでしょそんなこと!たしかに略語好きだけど」

カイ:「まあ、見逃してやるよ。行こうか、今日の戦場へ」


 三人で車に乗り込み、ハナの案内でコインパーキングへと向かう。ヤマの体軀に似合わず車は軽自動車なので、三人のるとちょうどいい密度になる。そんなことを考えているうちに目的地周辺らしい。1分もかかってないぞ。


ハナ:「ここここ!」

ヤマ:「了解」

カイ:「運転ありがとうございます!」

ハナ:「ありがとうございます!」

ヤマ:「気持ちがいいね」


 車を降り、ハナの部屋へ向かう。


ハナ:「家電の設置とかは終わってるから、今日は棚とかベッドとか、家具の設置を終わらせたい!」

カイ:「任せてよ。ぼく家具の組み立てとか超得意。前世が大工なのではないかと思うほどに」

ヤマ:「力仕事は任せてほしい。俺の前世は多分ストロングマン」

ハナ:「頼もしいけど、信憑性の希薄さはかなりのもんだね」


 鍵を開けて中に入ると、玄関先にダンボールに入った家具が散乱していた。とりあえずすべての段ボールを開封し、片付けていく。


カイ:「家具の配置は決まってるの?」

ハナ:「うん、俺そう言うの得意だから!前世はインテリアデザイナー!」

ヤマ:「そんな横文字職業、前世の時代にあるわけないだろ」

ハナ:「いや、家具があれば、その時代にはインテリアデザイナーがいるはずだ!」

カイ:「まあ、インテリアデザイナーって名前はないけど、似たような職業はあったかもね」

ハナ:「じゃあ、どんな名前だったんだ?」

カイ:「まあ、家具屋かなぁ」

ヤマ:「地味だな」

ハナ:「不服だけどしょうがないか」

カイ:「よし、開封は大体終わったかな」

ヤマ:「じゃあ、組み立ては任せた。ストロングマンは段ボールをまとめる」

ハナ:「おっけー、こっちは大工と家具屋に任せて」

カイ:「字面の頼もしさったらないな」

ハナ:「まずはベッドだね。これ運ぼう!」


 ぼくとハナはメインルームで、ヤマは廊下で、それぞれ作業が始まった。部屋の中は玄関の方と変わってものはほとんどなく、ベージュのカーペットだけが敷いてある綺麗な状態だった。ぼくが説明書を読み、ハナに指示を出して組み立てていく。


ハナ:「ベッドはこの辺かな」

カイ:「家具の配置もう頭にあるの?」

ハナ:「うん、部屋の間取り図決めて、それ見ながら家具買ったからね」

カイ:「センスあんだね」

ハナ:「こーゆーの昔から得意なんだよ」

カイ:「俺らの家の家具も配置決めてよ」

ヤマ:「俺からも頼むー!」

カイ:「聞いてたんかい」

ヤマ:「俺はその辺のセンス皆無だからな」

カイ:「ぼくもそうだな」

ハナ:「もちろんいいよ。手伝ってくれてるし」

カイ:「ありがテンキュー」

ヤマ:「ありがたき候」

ハナ:「よし、ベッドだいたいできたかな」

カイ:「マットレスはどっかにあるの?」

ハナ:「うん、そこのクローゼットに入ってる」

カイ:「了解、ってかクローゼットでかいな!?」

ハナ:「当店のこだわりポイントでございますからして」


 クローゼットを開けると、大量の服がハンガーに掛かっていた。その服達の大半はオレンジ、黄色、水色など、彩度の高いものだった。


カイ:「服の量がすごい!」

ハナ:「あー、服結構好きなんだよね。これでも実家から厳選して持ってきてるんだけど」

ヤマ:「俺にも見せてくれ!あ、段ボールの整理終わった」

カイ:「サンキュー、ほら見てすごくない?」

ヤマ:「これはかなりのオシャレさんですな」

カイ:「こっちのタンスには何が入ってるんだ?おー!ズボンもいっぱいある!」

ハナ:「ちょ!勝手にみんなし!」

ヤマ:「大雑把な雰囲気のくせして、服の整理はきっちりしてるのな」

ハナ:「恥ずかしいからおわりね!はいこれマットレス!」


 そんなこんなでベッド、棚、テレビ台…と設置が終わっていき、日が暮れる頃には、ハナの部屋はインスタに出てくるようなオシャ部屋へと変わっていった。


ハナ:「結構いい感じじゃない!?いい感じの部屋に仕上がってきた!」

ヤマ:「指示に従っていただけなのにこんなにしゃれた部屋になるとは」

カイ:「大分片付いてきたし、晩飯食べようぜ!」

ハナ:「晩飯って、うちの冷蔵庫まだ何にもないよ?」

ヤマ:「ここ来る前に二人で買ってきたんだよ、引越祝いもな」

ハナ:「マジ!?ありがとう!」


 ぼくとヤマ二人で車に食材と引越祝いを取りに行き、戻ってくると、ハナはキッチン用品を開封して待っていた。


ハナ:「おかえりー、って、それが引越祝い!?」

ヤマ:「そうだよ?」

ハナ:「中くらいのヨギボー2つって、どう使えばいいんだよ…」

カイ:「ヨギボーはあればあるだけいいんだよ。ぼくの引越祝いもよろしくね」


 それからみんなで肉をやいて食べ、夜に解散した。後日、他二人の部屋作りを行ったが、二人とも計画性なく家具を買ってしまったため、ハナのセンスを持ってしても、ぼくの部屋は普通止まり、ヤマの部屋に至ってはちょいブス部屋になってしまった。

 ちなみに引越祝いは、ヤマの部屋にはクイックルワイパー2本、ぼくの部屋にはエアマットレス2枚だった。ぼくの部屋が一番広かったことと、マットレスが合計3枚になってしまったことから、今度から誰かの部屋に集まることになったら高確率でぼくの部屋になることが決まった。



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