幕間

第12話 契り

 父様。

 母様。


 あれからずいぶんと時が経ちました。

 お二方と過ごしたあの温かい日々が只懐かしく思います。


 わたくしが鳴りを潜め、ひとりの人として耐え忍び早数年。今では幾分その苦行にも馴染みが生じました。


 これもひとえに神のご加護かと。


 されどここ最近、人が集うかの都において、何分そこらの様子が多々慌ただしく、かつての華やかさがめたように感じられます。


 かくして私の足も自然と人里から遠ざかりました。

 この若い女子おなごの身では、何かと物騒な世の中かと。


 このような世とはいえ、私はむやみに人を殺めたくはありませんから。


 只、己においては少々難儀な感情が芽生えました。

 察するに巷の流行り言葉を借りるところ、


 恋心と、


 呼ばれるものかと。


 それゆえ、かってかたきとした同族に、そのような感情を抱いた所存。


 今は極楽浄土ごくらくじょうどへと召された、父様、母様にとってさぞ愚かな娘と非難されることでしょう。


 されど私はあの方と出会い、初めて人の優しさというものを知りました。


 己も傷心の身にもかかわらず、仮初かりそめな私の心身を温かく包み込んでくれたのです。


 ゆえに、たとえお二方に非難されようと、私はあの方と未来永劫、添い遂げたいと思いを募らせるばかり。


 罪深き娘をどうぞお許しください。


 それでも今生こんじょうが、私とあの方の縁を裂こうとするやとも限りません。


 それも己のごうがゆえの運命さだめ


 されどそのとき、たとえこの身が業火に焼かれ朽ち果てようと、


 あの方への想いを色褪いろあせせることは。


 たとえ神でも叶わぬことでしょう──

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