ひまわり鉄道

くーくー

第1話

「此処には鉄道が走るはずだったんだよ」

 足の悪い大叔父は、少しよろけながら持っていた杖でひょいと前方を指した。

「鉄道って、電車のこと?」

「いいや、都ちゃん、機関車だよ。SLって分かるかい?」

「ううん……わかんないや」

 何のことはないつまらないただの砂利道を前にして目を細めている大叔父、祖父の兄だとは言うがまだまだ元気で髪も黒々としてあちこち遊びに連れて行ってくれる祖父よりずいぶんと年上に見える。

 小学四年の都にとって、彼の相手をするのは少々骨の折れることであった。

 しかも興味のない鉄道のことを延々と聞かされ、今にも欠伸が出てきそうだ。

 けれど、愛おしそうに遠くを見つめる大叔父を前にしていたら、子供心にもそんな態度は失礼なように思えて、都は必死で欠伸を呑みこむ。

「この鉄道が走るのを、弟はとても楽しみにしていたんだよ。でも事情があって結局中止になってしまった」

「弟ってお爺ちゃんのこと?」

「いいや、敏郎ではなくて……うん、洋二と言ってね……」

 大叔父は少し口ごもってガーゼのハンカチでたらりたらりと流れ落ちる汗をぬぐう素振りで目じりをそっと押さえた。

 この大叔父の他に祖父に兄弟がいたことを、都はその時まで知らなかった。

「洋二は機関車が大好きでね。ここに鉄道が走ったら機関士さんになるんだってよくここを見に来ていたんだ。でも肺を悪くしてしまってね」

 そこまで言うと大叔父はまた口ごもり、その後何も話さなかった。

 遠方の港町に居を構える大叔父は久しぶりの遠出で体調を崩し、そのまま帰宅することになった。

 大叔父の話を聞いた後も都は特に鉄道や機関車に興味を持つということもなかったのだが、大叔父に連れていかれた砂利道のことはやけに気になって、夏休みの終わりにふらりとその場所を訪れてみた。

「うーん、やっぱりただの砂利道だ」

 どんなにじっと眺めてみても、そこに鉄道が走っている様子を思い描くことは出来ない。

 何しろ線路すらないのだから。

 一頻り辺りをぐるぐると歩き回った後、都は家の庭のひまわりからむしってキュロットのポケットにありったけ突っ込んできた種をぱらぱらと砂利の上に蒔いてみた。

 ヘンゼルとグレーテルがパンくずを撒いたように帰り道を知りたいからでもなく、ここにひまわりを咲かせたいと思ったわけでもない。

 ここに蒔いたところで砂利の上に咲くのかもわからないし、掃除されてしまうかもしれないし、通りすがりのリスが食べてしまうかもしれない。

 何の意味もないのかもしれない。

 けれど、ただ何となく蒔かなければならないような心持ちになってしまったのだ。

 それからすぐに学校が始まり、いつもの日常が舞い戻り都は蒔いた種のことも砂利道のこともすっかり忘れてしまっていた。

 そしてまた季節は廻り、新しい夏がやって来た。

 ここ数年の流行り病のせいで休業していた市内の大プールが数年ぶりに子供達に解放されるということになり、仕事が忙しい両親の代わりに祖父に連れて行ってもらう約束を取り付けていた都はワクワクしてその朝を待っていた。

 バナナボートに使わないうちに小さくなった水着の代わりに買ってもらった新しい水玉模様の可愛い水着、うきうきしながら出かけるのを待っていた都の元にバツの悪そうな顔をした祖父がやって来た。

「都ごめんな、爺ちゃんちょっと遠くまで行かないといけない用事ができてしまったんだ。帰ってきたら絶対に連れて行ってあげるからな。今日は洋子おばちゃんのおうちでお留守番してくれるか?」

「何よ!お爺ちゃんの嘘つき!」

 楽しみにしていただけに怒りが収まり切らない都は、真っすぐ洋子おばさんの家に行かずにふくれっ面で小石を蹴飛ばしながらあてどなくほっつき歩いた。

 すると、いつの間にかどこか見たことのある道にたどり着いていた。大叔父と来たあの砂利道だ。

 けれど様子があの時と違う。

 砂利は大輪のひまわりで覆いつくされていた。

「わー、あのひまわり咲いたんだ」

 すっかり忘れていたひまわりの種のことを思い出し、目の前の鮮やかなひまわりの道に目を奪われていると、「シュポーシュッポッポー」聞きなれない音が耳に飛び込んできて、それを合図にするようにひまわりは数珠繋がりになり黄金色のレールが出来上がった。

 そしてその向こう側から、おひさま色をした機関車がもうもうと煙を吹き出しながらこちらへ勢いよく向かってくる。

「ひゃっ、危ないっ!」

 目を閉じてうずくまった都の体は、ひゅんと伸びて来た腕のような物に掴まれてふわりと宙に舞い上がり、気付くとそのおひさま色の機関車の中、機関室へと引き入れられていた。

「やぁ、いらっしゃい。君はこの機関車の乗客第一号だね」

 ハンドルを握っているのは黒い帽子と制服を身に着けた都と同じ年頃に見える男の子、ごうごうと燃える火室には石炭ならぬ星のかけらのような黄色い石がどこからともなく飛び込んでいく。

「えっ、えっ、これどういうこと!?」

 戸惑う都をよそに、男の子はにこにことハンドルを操作し、あれやこれや話し始めた。

「あぁ、僕はずっとこの日を待ちわびていたんだよ。この機関室で一人で。だって線路がないと走れやしないんだもの」

「あっ、線路!何で私の蒔いたひまわりの種が、ひまわりがあんな風に」

「やぁ、君が線路を作ってくれたのだね!ありがとう、ありがとう!」

 男の子は右手でハンドルを巧みに操作しながら、左手でひょいと帽子を脱いでちょこんと会釈をした。

「お礼にすてきな汽車の旅をプレゼントしよう。もうすぐパーラーにつくよ。あそこのアイスクリンは最高に素敵さ」

「あ、あいすくりん?アイスのことかな」

 戸惑いつつも少しワクワクしてきてしまう、都にとってもアイスクリームは大好物なのだ。

「はい、つきましたよ」

 機関室の窓から見える景色は、都の知っているそれとはまるで違っていた。

 駅前の大通り、それは分かるのだが、まるで社会の教科書に載っているセピア色の写真のようにどうにも古びて見えるのだ。

「なにこれ、めっちゃレトロ……テーマ、パーク?じゃないんだよね」

 充分不思議な体験をしている最中なのに、新たな不思議体験にはやはり驚いてしまう。

 しかし男の子は都が口をあんぐり開けていることにもやはり全く動じない。

「さぁさぁ、風鈴堂パーラーはすごそこだよ、ここにはニ十分しかいられないからね。急ごう急ごう!」

 急き立てられるようにして慌ててむかったパーラー、フリルのついた可愛らしい制服に身を包んだお姉さんにすっと手をあげて男の子は慣れた様子で注文を告げる。

「フルーツポンチを二つください」

「えっ、アイスじゃないの?」

 面食らっている都の前に運ばれてきたフルーツポンチはそんな不満を吹っ飛ばすような素敵なものだった。

 涼やかな薄い青の硝子の容器の中のサイダーの湖そこに浮かぶスイカやオレンジやメロン、シュワシュワと甘酸っぱさが口の中で弾けてじわじわと湧いてくる汗を一気に吹っ飛ばしてくれる。

「それと、お持ち帰りであいすくりんもくださいな」

 男の子はお金ではなく、火室にくべられた黄色い星のようなものと似た欠片をお姉さんに差し出した。

(やだ、あんなもの渡しちゃってお姉さんに叱られないかな)

 都は内心冷や冷やして、吹っ飛んだはずの汗がまたじわりとこめかみからにじみそうになったがそれは杞憂だったようで、お姉さんはにっこりとその黄色い欠片をエプロンのポケットにしまい込んで小さな風呂敷包みを渡してくれた。

「溶けてしまいますからね、お早いお召し上がりを」

 機関車に戻ってから、心待ちにしていたアイス、少しシャリシャリとしたミルク味のさっぱりしたそれをちびりちびり舌で溶かしつつ都は首をひねり続けた。

 一体ここは何なんだろう。不思議な機関車に乗せられてタイムスリップでもしてしまったのだろうか?

 けれどいくら昔だとしても、黄色い欠片がお金の代わりになるのはちょっと変だ。

 あれやこれや聞いてみたいことは山ほどあるのだけれど、戻るや否や真剣な表情で再びハンドルを握り前を真っすぐに見つめて機関車を運転している男の子に声を掛けるのは少々気が引けた。

 それにいつの間にやらひまわりのレールを外れて普通の線路を走っている。

 すなわち、他にも汽車が走っていて下手に声を掛けて気をそらしてしまい事故にでもなったらと思うと余計に気が引けてしまうのだ。

(うーん、すれ違う運転士さんも全然不思議な顔してないし、子供が運転しているのにびっくりしないのかな。やっぱこれって夢なのかなー)

 しかし、車窓に流れるレトロな風景、都のしっている静かな電車とは違うシュッポシュッポガタゴトゴトンという忙しくて豪快な音たち、これらはすべて体験したことのないことだ。

(知らないことも夢に見られるのかな、うーん、次に停車した時にいろいろ聞いてみよう)

 都がそう決意してから時を置かずして、汽車はギイイと止まり男の子はにっこりと微笑んだ。

「僕は汽車の点検をするから、君はしばらく辺りを見ておいでよ」

「あっ、ちょっと待ってよ。聞きたいことが……」

 まるで都の心を読んだかのように、男の子は質問を受け付けずさっさと都を降ろすと機関車と共に車両基地へと去ってしまった。

「あー、一人でどうしろっていうの!」

 頬を膨らませながら見回すと、どうやらここは都の暮らす町から三駅先のターミナル駅のようだ。

 けれど、やっぱり見慣れた場所とは違う。六年前、都がまだ幼稚園生だったころに老朽化で閉店してしまった駅前デパートが、ピカピカの真新しい姿ででーんと鎮座している。

 そして、その手前にあるこちらは一度も見かけたことのないけれど何やら懐かしいパン屋さん。

 ほんの少し前にフルーツポンチとアイスを平らげたばかりだというのに、香ばしい香りに誘われてついふらふらと店の前に足が勝手に向かってしまう。

「わー、コッペパン、給食のとはちょっと違うな。何かもっと大きい気がする。へーコロッケやメンチカツが挟めるんだ」

 ぎゅるぎゅるる、あげ物の匂いに鼻の奥をくすぐられたせいか、お腹がなってしまった。

「うー、だって今日は怒っていて朝ごはんも昼ごはんも食べてないんだもん!」

 デパートに向かう和装のお姉さん二人連れのくすくす笑いが自分に向けられたように思えてしまって、誰に聞かれたわけでもないのに、言い訳をしてしまう。

「うーん、あの男の子、運転があるからってアイス食べなかったし、あの子にもお土産で勝っていってあげようかな。ポケットに五百円玉があったはず。これで足りるよね。あっと、コッペパン二つ、コロッケとメンチカツはさんで」

「はいよー、すぐ出来るよ」

 元気のよいおじさんの声に頷きながらごそごそと短パンのポケットを探りつつ都ははたと大事なことに気付く。

 五百円玉は果たしてこの場所で使えるのだろうか。

「あの、これ、ちゃんとしたお金なんです。あの、おもちゃのお金とかじゃないんです」

 びくびくしながらポケットから掴んだものを差し出しておずおずと顔をあげると、おじさんは怪訝そうな顔をして都の差し出したものをしげしげと眺めていた。

「うん、おもちゃじゃないじゃないか。ちゃんとこれで足りているよ」

 いつの間にかポケットの五百円玉はあの星のお金に姿を変えていたのだ。

「あっ、あっ、そうですね!ではー」

 都は何だか無性に恥ずかしくなって、コッペパンの紙袋を掴んでさっき機関車から降ろされた場所へと息せき切って走り戻った。

「やぁ、随分早かったんだね。まだゆっくり街を見てきてもいいのだよ」

 男の子の言葉に都はブンブン勢いよく首を振り、コッペパンの袋を差し出した。

「わぁ、これは後藤屋のコッペパンじゃないか、しかもコロッケとメンチカツ両方挟むなんて豪勢だなぁ」

「お、お土産、さっきご馳走になったから」

「ちょうどお腹が空いていたんだよ。こっちは君が食べるのだろう?」

「いいよ、さっきたくさん食べたから」

 お腹を鳴らして吸い寄せられて買ったパンを都は受け取らず、男の子から離れて窓の外をただじっと見ていた。

 ソースの匂いがふんわりと漂ってきたときは思わずまたお腹が鳴りそうになって、(もう一度勧めてくれたら食べるのに)などと思いもしたが男の子はゆっくりとコッペパンを食べ終えてからもう一つは大事そうに肩から下げた鞄にしまい、都に差し出そうとはしなかった。

(ふんだふんだ、いいよー私そんなに食い意地張ってないし)当てが外れてがっかりしつつも、都は物欲しげに鞄を見つめたりはせず窓の外をただぼんやりと眺める。

 良く知っているはずのでも見たことのない風景が、くるくると変わっていく。

 ぼんやりと見える人々の表情は、一様に見えてそれぞれに違った笑みを浮かべていてとても楽しそうに見える。

 しかし、そんな人たちが急に顔をしかめて鞄や手拭いを頭に乗せてばらばらに走り出した。

 ぽつぽつぽつ……

 黒い雨雲が空を覆い、雨が降り出したのだ。

「あ、雨だね」

 男の子に話しかけようとして、声が止まり目を奪われる機関室の窓についた丸いものがぐるぐるぐるぐる回りだしたのだ。

 ぶわわわーん。

「わっ、何それっ。めっちゃ回ってるし!」

 思わず大きな声を出してしまうと、男の子はふっと笑った。

「これは旋回窓だよ」

「せんかい?」

「そう、雨を吹き飛ばしてくれるんだ」

「へーっ、そんなものがついているんだ」

「そうだよ、機関車って本当によくできているんだ。面白いだろう」

 その楽し気な声色に釣られるように、都はうんうんと何度も頷いた。

 適当に合わせたわけではない。男の子とこの不思議な機関車の旅をしているうちに、いつの間にかガタゴトと揺れる機関室も、しゅぽしゅぽと吹き出す蒸気、窓から見えるそのもわもわした煙も、かたかた回る扇風機の風でも吹き飛ばせないくらいのもわっとした火室の熱気ですら今の都にとっては心地よいと感じる魅力に思えてきてしまっているのだ。

「私乗り物酔いがひどくてね、電車もバス車も全部苦手だったの。遠足でもいつもエチケット袋持たされて先生の横に座らされるし。みんなみたいにお菓子を分けっこして食べるなんて絶対に無理、でもこの機関車は何でだか平気なんだ。さっきのアイス、乗り物の中で食べたのなんて初めてでうれしかった」

「へへへ、それは良かったね。僕も機関車で食べ物を食べたのはさっき君に貰ったコッペパンが初めてなのさ」

「へっ、それはめっちゃ意外」

 都は本当に驚いて前のめりになって男の子の顔をしげしげと見つめる。

 すると男の子は照れくさそうにふんっと鼻息を漏らして「だって僕は機関車に乗ったのも実はこれが初めてなのだよ」ともっと意外過ぎる言葉を発した。

「小さい時からずっと体が弱くてね、でも機関車が走っているのを見るのは大好きだった。うちの窓からは小さく、豆粒くらいの大きさにしか見えなかったけれど、いつか近くで見てそして乗ってどこまでも遠くまで旅をしたい、いっそ機関士になって運転してみたいってずっと思っていたんだ」

「へぇ、じゃあ夢がかなったんだね」

「うん」

 そのはにかんだ、心からうれしそうな表情を見ていると、この機関車は何なのか、この男の子は何者なのか、そんなことはもうどうでもいいようなことに思えてくる。

 このままこの機関車に乗って、自分もずっとずっと遠くまで行ってみたい。

 都はワクワクをこらえきれず次は何処へ行くのか男の子に聞こうとした。

 すると、機関車の窓の外はいきなり真っ暗になりランプの薄明かりだけが機関室の中をうっすらと照らす。

 都はさっきまでの胸の高鳴りはどこへやら急に心細くなってしまい、ほのかに照らされた男の子のさっきと少しも変わらないはずの表情もどこか不気味に見え始め、機関車ががたんと大きく揺れたときには、目の端からじわりと生暖かい雫があふれ出してきてしまった。

(どうしようどうしよう、私たち、私一体これからどこに連れて行かれちゃうの、怖い、怖いよう、お爺ちゃん……)家に帰りたいよう、もうわがまま言わないから迎えに来て)

 両手をぎゅっと握って胸の内で願っていると、ぶわっと目の前が開け雨上がりの明るい空と大きな二本の虹が見えた。

「さぁ、トンネルを抜けたよ」

 男の子の表情も明るく輝いている。

(なーんだ。ただのトンネルだったんだ!怖がって損しちゃったよ)

「わーっ、虹が綺麗だね。二重の虹なんて初めて見たよ」

 現金な都の両の目は、すっかりからからに乾いている。

「うん、虹の麓についたら止まるよ」

 次は何処へ行くのか、どんな体験ができるのか、きらきらとした都の視線の先にいたのは、杖をつき腰が曲がったどこか見覚えのあるお爺さんだった。

「あれっ、大叔父さん!何でこんなところに」

 ぽかーんとしている都の横をすり抜け、お大叔父さんはぽいっと杖を投げ捨てしゃんと腰が伸び、みるみる若返っていってついには少年の姿になって機関士の男の子にばっととびついた。

「洋二、洋二、会いたかった」

「長一郎兄さん、僕もだよ。ねぇ見て、僕この機関車を運転しているのだよ」

「うんうん、立派だよ、立派だ」

「これもね、あの子が線路を作ってくれたおかげなんだ」

 くるりと振り向いた大叔父改め長一郎少年は、やっとそこにいる都の存在に気付いたようだった。

「そうか、都ちゃん、ありがとう、ありがとう、私らの夢を叶えてくれて」

 深々とお辞儀する長一郎少年は年老いた大叔父の仕草そのままで、そのアンバランスさに都は思わずぷっと吹き出しそうになるのを必死でこらえてもじもじと足をくねらせた。

「いえ、私も初めて機関車に乗れてとても楽しかったです」

「そうか、これで機関車仲間が増えたな、洋二」

「うん兄さん、これから僕たちずっとずっとどこまでも一緒に旅をしようね。そうだ、お腹が減っていないかい?あの子、うん都ちゃんが兄さんの分のコッペパンを買ってくれたんだよ。コロッケにメンチカツの豪華版なんだ。とっても美味しいよ」

「もちろんだ。でも都ちゃんはそろそろおうちに帰らないとな、きっと敏郎が心配しているだろうから。さっき私に最後のお別れに来てな、肝心の私そっちのけで都に悪いことしただなんてぶつぶついっていたんだからな」

「そっかー、もうそんな時間なのだね」

「えっ、私もうちょっと」

 言い終わらないうちに都は機関車の外に放り出され、目の前には黄金色のレール、ではなくひまわりの道が広がるばかりだった。

 どこまでもまっすぐなその道、その先ではあの二人の兄弟が目を輝かせて先へ先へと進んでいるのだろう。

「お爺ちゃん、この話信じてくれるかなぁ」

 うーんと大きく伸びをして、ひまわりの先の茜雲を見つめる。

「とりあえず、明日一緒にここに来てみよう。あぁお腹空いたーお爺ちゃん美味しいお土産いっぱい買ってきてくれているかなぁ」

 センチメンタルな気分をかき消すようなきぎゅるぎゅると派手なお腹の音と共に、都はひまわりの道とは逆方向へと歩を進め家路へと急いだ。

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ひまわり鉄道 くーくー @mimimi0120

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