第5話

「あら、本当に何も聞かされてないの?」

 話に進展のない話し方をする九尾に苛立ちを覚えた俺は、大きなため息をついた。

「特に用がないなら俺は昼飯に行くからな」


 扉に手をかけると、バチっと大きな音を立て拒まれた。


「うわ!!」

 なんだこれ。なんなんだよ。静電気?って季節じゃねーし今5月だぞ。

 後ろを振り返ろうとすると、後ろにピッタリと九尾がいた。

 後ろから俺の体に手をはわせながら、あちこちゆったりと触るその手にゾクリとした。

 思わずその手の動かし方に体が固まって声すら出ない。

 九尾が俺の右耳に息がかかるところで話し始めた。

「ふふ、なんだお主まだか。生まれ月が今月だからもう既に…と思ったが、もう少し待つとするか。早くこちらに来ると良い」


 九尾の手が身体から離れた瞬間に後ろに振り返ると空いていた窓が全開されており、カーテンが大きく揺れていた。

「ここ2階だぞ…」

 思わず俺は言葉をこぼした。

 一体なんだったのか、さっぱり分からない。

 確かに俺の誕生月は今月だ。でも、なにがなんだかわからない。

 普段とは違う話し方をする九尾に気味の悪さと不気味さを感じたのに、手は震えてすらいない。

「俺って腹座ってんのか?」


 自分に対して少しの驚きと、九尾の気味の悪さだけを感じた。そして九尾から感じたのは独特の香り、名前が出てこないがふわりと感じた。


 ✱ ✱ ✱


 ため息をつきながら、食欲が無いため教室に戻り頭を伏せ寝たフリをする。

 戻っても九尾のカバンは無く、クラスにいた女子に聞くと早退したらしいとのこと。

 理由は不明。

 起きてることが何が何だか、戸惑って仕方がない。

 九尾が話しかけてきた理由も分からない、なによりも意図がわからない。

 聞かされてる聞かされてないとか、なんの事だ。でもさも知っていて当然かのような発言を考えると九尾はよく知っているのだろう。

 そもそも俺は九尾の顔をちゃんと見なかった。

 顔は知ってるはずなのに、あまり頭に残っていない。

 頭に残っているのは長いサラサラの髪の毛、そしてあの声のみ。



「蒼天〜なんだよ先に戻ってたのか?」

 寝てるふりをしてる俺の事など問答無用で、零士が声をかけ俺の体を揺さぶる。


「おい、俺寝てんだから邪魔すんなよ」

 不機嫌そうに答えても話し始める零士に呆れた声で言った。

「お前、飯食ったか?」

「話聞いてねえな本当に。食欲ねえから」

 適当に答え再びふて寝をしはじめた。

 誕生月。

 そう俺は今月が誕生日、正確に言えば明日が俺の誕生日だ。



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