第11話
第22章 ヴァンパイアウイルス
透明吸血鬼はウイスキーを少し飲むと続けた。「ヴァンパイアウイルスを発見したのは偶然だ。とある別のウイルスの研究を行っていた。その時、薬品とウイルスが間違えて化学反応を起こし、防護服に身を包んで解析した。そして、そのウイルスをマウスに投与すると、だんだんガラスのように透け始めた。」「なんということだ!」「その時の僕たちの驚きのほうがすさまじい。透明になるウイルスなんて。しかし、解析を続けた結果、このMC-12ウイルスについて以下のことが分かった。まず、このウイルス、正確には物質は、ウイルスと化学薬品が共存しているものだが、この物質を投与すると、透明になるばかりか、半分のウイルスの影響によって、血を欲する吸血鬼となる。ほかにも血を定期的に吸わないと死んでしまうなど、いろいろなことが分かった。」「それで?」「そのころ僕は威圧的な上司の言動やロシアという国の独裁制に嫌気がさしていた。その時に魔術師になれる薬を発見した。どうなるかわかるだろう!」「僕だったら逃げたくなるね。」ロナルド氏はベーコンをかじりながら言った。「そうだ!同じような考えを持つ二人の協力者と一緒に国外逃亡を決意した。それでうまく逃げだしたのだが、仲間の中に政府とつながっている内通者がいて、僕たちの居場所が知れた。僕はあたかも内通者に気づかれないふりをして、安全なところまで行った。そして、仲間のうち一人を殺した。」「なんと残酷な!」「仕方ない。このまま仲間といれば自分の命が危うかったからな。それで無事にウイルスのデータとウイルス本体をもって日本にやってきた。そこで一年間計画を練り、日本語も覚えた。しかし、1年たつと、警察の目が入ったらしい。このままではウイルスは没収され、僕は破滅だ。そこで警察の手が届く寸前で、国外に脱出したのだ。そのあとは金がなかったのでアメリカに行き、ビバリーヒルズのコック募集の掲示板を見て応募した。それで無事に収入は確保して、そこで6年間も研究した。まあ、主のジョナサンと執事のジャックが出かけているすきを狙い、主が趣味で使っている研究室を拝借し、研究したから、決していい方法とは言えない。でも僕にはそれしか方法がなかったんだ。そしてついに透明になりながら吸血鬼になれる物質を放射する光線銃を作ったのだが、その仕上げをやろうとしたときに、主たちが帰宅してきた。僕は夢中で光線銃を撃つと、自分に向けても撃った。そして透明になった執事と主を窓から池に投げ捨てると、透明になった体で外に飛び出した。だが、僕はヴァンパイアウイルスの性質のうち最も重要な二つを忘れていた。一つ目は、ウイルスは脳の神経と連携し、栄養が有り余っているときは好きな時に透明になったり不透明になったりできるということ。そして、二つ目が一番大事なのだが、皮膚を日光に当ててはいけないということだ。」「なぜだい?」「もし皮膚が太陽光に当たると、ウイルスが反応して体に有害な毒素を作り出すんだ。それが体に蓄積されると、泡になって消える。」「なんと不気味な!」「そうだ。僕もその点を考えたので、執事が趣味で集めている覆面をかぶり、黒いコートに黒いズボンに黒い帽子といういでたちで皮膚が日光に当たらないようにして外に出た。しかし、このままでは夜しか活動できないみじめなことになってしまう。そのため、どこかで新しく皮膚が日光に当たっても大丈夫なようになろうと決心した。しかし、今の風体は怪しすぎる。また、これ以上アメリカにいたらいろいろと問題が起こるだろうと思い、外国で研究することを決意した。行先は4つあった。フランス、カナダ、ナイジェリア、アルジェリアだ。」「なぜナイジェリアだ?」「僕のことを誰よりも理解してくれるクランリー博士がナイジェリアの大学にいたのさ。でも、現地は治安が悪いことを懸念して辞めた。フランスとカナダは近々出発する手ごろな飛行機がないのでやめた。一刻も早くアメリカからでないといけなかったからだ。」「それで、アルジェリアに?」「ああ、急いでアルジェリアに行こうと思った。あそこは暖かいし、イギリスから割とすぐに行けるからだ。アメリカからイギリス行きの飛行機に乗り、そこから船に乗って近くまで行けばいい。」「しかし、なぜアフリカに行こうと思ったんだ?」「目立たないと思ったからだ。おまけに暖かいから、裸で生活しても大丈夫だ。しかも、アフリカではアルジェリアは治安がいいほうだしね。」「ではなぜ日本に?」「アルジェリアにクランリー博士が移ったと報告を受けたのだが、アルジェリアに行くときに経由する国で内戦が勃発したからだ。これは危ないと行き先を変えた。しかしどうしようか!もう金がない!主と執事を投げ落としてからは収入がゼロになり、日光にもあたれない!だから僕は自分の体の利点をフル活用して金を集めた。僕は―」「ストップ!まさか人の家に忍び込んだとかいうんじゃないだろうな⁈」「正解だ。僕はビバリーヒルズの近くの裕福そうな商店に入り、金を盗んだ。夜に僕は透明な体で商店のドアが閉まる直前に店に侵入し、店員を一人殴って気絶させ、レジスターから1000ドルという大金を手に入れた。そしてきちんとした紳士服を買いそろえ、空港に行った。しかしそこでいかに僕がばかだったか思い知らされた。これからどこに行けばいいのかわからなかったからだ!それで僕は―」「ちょっと待った!商店に忍び込んだ?!人を殴った?!おい!君は学生時代はそんな残酷な人ではなかったはずだ!一体君はどういう―」「副作用さ。」「副作用?」ロナルド氏はおうむ返しに聞いた。「そうだ!ヴァンパイアウイルスの副作用だ。力が強くなり、透明になれる代わりに、だんだんと残酷になっていくんだ!今はまだいいほうだ!だが、もうしばらくすれば、目的のためには手段を選ばない、冷酷無比な怪人に代わってしまうんだ!君とゆっくり話ができるのもこれが最後だろう。」「なんという恐ろしいウイルスだ。」「話が脱線したが、とにかく僕は空港についてからどこに行けばいいか悩み始めた。そんな時、素晴らしい考えが頭にひらめいた。昔世話になった国、日本に行けばいいではないか!そういう考えが頭に浮かび、僕は持っているありったけの金を日本円に両替すると、日本行きの飛行機に乗り込んだ。それが3か月前のことだ。そこから先は言わなくてもわかるよな?」「雪町村に行き、そこで散々暴れたんだろ?」「暴れるとは人聞きの悪い!愚か者を蹴散らしただけだ。まったく!どうして放っておいてくれない?!」透明吸血鬼はほかにもいろいろなことを話した。気が付くと、もう夕方になっていた。ロナルド氏は窓の外を気にしながら言った。「それで、我々は、これからどうすればいいのか。」「最初は函館から新幹線に乗って、本州に行こうと思っていた。しかし、君に会って考えが変わったよ。ロナルド。僕は吸血鬼になり、新聞に悪く書き立てられ、おまけに日光に当たれずみじめな時間を過ごしていた。しかし、これからは違う!君には迷惑が掛からないように函館のどこかにアパートを見つけて、そこで研究しよう。そしてついに日光に平気な体を作った時、透明吸血鬼は恐怖による支配を行うのだ!」「恐怖による支配?!」「そうだ。今世間にも透明吸血鬼がいることがわかってしまった。であるからには、透明吸血鬼は恐怖政治を始めなくてはいけない。昔ならまだやり直せただろう。しかし、今になっては6人もの人を殺してしまった。もう後戻りはできない。恐怖政治の幕開けを宣言しなければならない!」透明吸血鬼は短い演説を終えた。「それには賛成できない。」ロナルド氏ははっきりといった。「君が嫌でも賛成しなければならないのだよ。」透明吸血鬼は聞くものを震え上がらせるような声で言った。ロナルド氏はぎょっとしていった。「お、おい!何をするつもりだ!」しかし、透明吸血鬼はその質問には答えず、じっと窓を見つめていた。ロナルド氏は言った。「どうした?」「ロナルド、まさか君、誰かを呼んだわけじゃないよな?」「い、い、いや、呼んでいないが?」ロナルド氏はうずわった声で言った。「そうか、ではなぜ、君のアパートの門に天才気取りの松本がいるのかな?出張か?」透明吸血鬼は怒りをにじませた声で言った。「僕は君を信じたのに…君を仲間だと思ってすべて打ち明けたのに……貴様は僕を裏切った!!どういうつもりだ!」ロナルド氏はそれには答えずもはや体が見えてきている透明吸血鬼、いや、かつての旧友ジャック・ドラキュ氏にとびかかった。透明吸血鬼は顔色を変えて「この裏切り者!」と叫んだかと思うと、ロナルド氏にとびかかり、首を締めあげた。しかし、完全に締め上げる前に、部屋の空きっぱなしのドアが開き、そこから松本博士と警察署長の乃木が飛び込んできた。「透明吸血鬼!」と乃木が叫ぶのと、「ドラキュ?」と松本博士が言うのが一致した。透明吸血鬼はすかさず松本博士にとびかかると、「今は殺さないでおこう!」と叫び、乃木を突き飛ばした。そして体を透明にしながらガウンを脱ぐと、玄関の前に仁王立ちしていった。「貴様ら!これからも貴様たちの仲間と一緒に僕の邪魔をする気なら、どうなるか思い知らせてやる!あばよ!」と叫ぶと、アパートから飛び出していった。
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