第10話

第19章 透明吸血鬼、眠りにつく

透明吸血鬼は疲れていたが、それでもロナルド氏に裏切られることを恐れ、なかなか眠りにつけなかった。「I will protect your freedom. I swear to God.」(君の自由は守るよ。神に誓う。)ロナルド氏はそう繰り返し言ったが、透明吸血鬼はなかなか信じなかった。透明吸血鬼は寝室の窓から自分が逃げることができ、近くにピストルも置いている、という条件でロナルド氏の寝室で寝ることを承諾した。「すまない。」透明吸血鬼は言った。「今日はこれまで起きた出来事をうまく話せないんだ。ひと眠りしてからはゆっくり話せるんだがね。」「まあいいや、僕が裏切らない代わりに明日は必ず何があったのか説明してくれるか?」「もちろんだ。」「ほかに欲しいものはあるか?」「お休みと言ってくれればいい。」「お休み。」「お休み。」透明吸血鬼はロナルド氏の寝室に入ると、鍵を閉めた。ロナルド氏はそれをじっと見つめながら、「ばかげている!」と叫んだ。「おかしくなったのは世界なのか、それとも自分なのか?自分の部屋から追い出されるなんて、ばかげている!」ロナルド氏はうろうろした後、廊下の端にある自分の部屋へ入った。しかし、気が高ぶってなかなか眠りにつくことができず、地上や海中の透明な生物について考えを深めていたが、いつしか悪夢を見ながら眠りについた。彼が翌日目覚めたのは8時過ぎだった。アラーム時計がうまく作動しなかったのが原因だが、ロナルド氏の寝室から聞こえる叫び声で、目が覚めたのである。

第20章 透明吸血鬼、目が覚める

ロナルド氏は叫び声を聞くと、すさまじい勢いで自分の寝室へ突進し、ガンガンとドアをノックした。内側から鍵が開く音がし、ドアが開かれた。「what's happening?!」(何が起きた!?)ロナルド氏は叫んだ。「Nothing.」(何でもない。)と冷静な声がガウンから出てきた。「何でもないことはないだろう!何があったらそんな奇声を上げるのか?!」ロナルド氏は日本語で言った。「I threw a tantrum」(かんしゃくをおこしたのさ)透明吸血鬼が答えた。「you are a short-tempered man」(君は短気な男だな)「That's certainly true」(たしかにそうだな)「それより、僕は今起きたばっかりだが、朝食はまだか?」透明吸血鬼は言った。「実は今家に材料がほとんどない。買ってきてもいいか?」透明吸血鬼は昨日誰も寝ている間自分に襲い掛からなかったことからすっかりロナルド氏を信じていた。そのため、「ああ、構わない。僕は朝食には目玉焼きが好きだ。頼んだよ。」と、透明吸血鬼が言ったので、ロナルド氏は外套をひっつかむと、外に出た。ロナルド氏はスーパーマーケットに向かいながら考えていた。「あいつはニュースを見た限り、すでに3人も人を殺している。そんな奴が僕の家に転がり込んできたと考えると、まことに厄介だ。いくら親友とはいえ―いや、それはできない!しかし―」そう言ってロナルド氏はしばらく迷っていたが、やがて意を決したようにスマホを取り出すと、松本博士の親友でありロナルド氏の親友でもある木村亜里沙宛のメールを探し、それを見つけると、注 必ず松本博士と、その友人たちにも伝えてください。命にかかわることです。 ロナルド・ダーン とメッセージに書き、透明吸血鬼が我が家に来てからのことを簡潔に書き始めた。

第21章 大学時代の理論

ロナルド氏はベーコンや目玉焼きの材料などをスーパーで購入し、家に帰ってきた。そのころ透明吸血鬼はかなり不機嫌な状態で、ぶつぶつ独り言をつぶやいていた。「今帰ったよ。」ロナルド氏が言うと、透明吸血鬼は「ありがとう」とだけつぶやいた。「どうした?機嫌が悪いのか?」ロナルド氏が聞くと、「もし僕のうっかりで仲間につかまったりしたら、いやな気持ちだからさ。」と予言めいたことを透明吸血鬼は言った。ロナルド氏はギクッとしたが、「まあまあ、座って、朝食を食べながら、どうしてこんなことになったのか聞かせてくれ。」「もしそんなに聞きたいのなら、簡易的な食料と飲み物を大量に用意しろ。僕の話は、1、2時間で終わるものではないぞ。」ロナルド氏は言われたものを出し、たくさんのウイスキー、水を用意した。「さあ、話してくれ。」そのころには朝食もテーブルに並び、2人も座っていた。「真相はものすごく単純だ。僕が薬を作って透明になった。それだけのことだ。実は、ビバリーヒルズで完成した薬がそのキーアイテムなんだ。」「ビバリーヒルズ!懐かしいい響きだな!」「ああ、ずいぶん前にそこで育っただろう。僕たちが親友になったのもそのころじゃないか。その後しばらく疎遠になったが、また大学で再開した。あの時僕たちが研究した物理学のテーマは何だったか、覚えているか?」「確か、光の研究だったかな?」「そうとも!密度の研究だ!興味深くてめり込んだのが最後、人生のすべてをこの研究にささげようと決心したんだ。若いと途方もないことを言い出すもんだ」「昔と今と、どれだけ違うかな?」「ああ、とにかく、大学時代に光の密度の研究をやり続けた、しかし、ある時、悪夢は訪れた。」「大学の経営方針に反対した結果、退学を命じられたんだな?」「そうだ。当時は腹が立ってならなかったが、今思えばそこで退学しなければ、透明吸血鬼にはなれなかったに違いない。」透明吸血鬼はそこでいったん言葉を切って窓を見た。「人間を吸血鬼にするウイルスなんて、大学で見つかればすぐに処分決定だろうさ。」「ウイルスか!」ロナルド氏は叫んだ。「人間を透明にする技術はともかく、どうやって人が吸血鬼になったかをずっと考えていたのだが!」「そうだ、ウイルスだ。あれはもう8年前のことだ。マサチューセッツ工科大学を離れた後、ロシアのモスクワ大学にて研究した。」「モスクワ大学で!僕はてっきり研究をやめた君がアメリカのどこかでひっそりと研究しているのかと思った!」「モスクワ大学で模範的な学生となり、政府に気に入られて―腐った政府だ!ロシアが開発を進める生物兵器の研究に携わることになった。もしかしたら生物兵器研究の一環として人類を透明にできるんじゃないかと希望を抱いて。」透明吸血鬼はそこでいったん言葉を切った。「それで?その続きは?」「そこで驚くべきウイルスを発見した。MC-12 通称ヴァンパイアウイルスだ。」「ヴァンパイアウイルス!」

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