第8話

第15章 透明吸血鬼、あばれる

巡査たちが気絶させられ、謎の客が酒場に飛び出してくると、田中夫妻や、野次馬たち(いつの間にか40人ほどが来ていた)は目を丸くした。それはそうだろう。先ほどまで巡査の叫び声が聞こえていた客室から、首無し男が飛び出してきたのだから。首無し男は酒場の真ん中で立ち止まると、冷徹な笑い声をあげながら、服を脱ぎ始めた。いつもながら冷静な後藤芳樹は、「奴が服を全部脱げば俺たちは奴を捕まえられないぞ!」と叫び、くねくねと動き回るズボンへとびかかった。屈強な男たち、安藤、後藤、田中氏などが客へとびかかった。しかし、その途端、3人は地面にたたきつけられた。客はすさまじい力で3人を同時に突き飛ばし、先ほど巡査から奪ったピストルでけん制した。田中夫人が悲鳴を上げ、その後ろに飛び出してきた4人のお手伝いも目を丸くした。客は笑い声をあげると、安藤へとびかかり、首を締めあげた。後藤がそこに突進した瞬間、2人は床に投げ飛ばされ、動き回るズボンがしばらくくねくね動いていたかと思うと、奇跡が来たように、ズボンがガタッと倒れた。「奴は透明になったぞ!」後藤が叫ぶなり、40の群衆が一斉に客がいると思われる方向へとびかかった、と思ったら、なんと松本博士が現れた!博士は顔を紫色に染めながら、必死で空中をつかんでいた。「ここだ!」博士は叫び、40人がとびかかった。その途端に、「うわ!」という叫び声が上がり、大きな音がした。男のうち一人が、胸を真っ赤に染めていた。

女たちは震え上がり逃げ惑ったが、安藤、後藤、田中氏はうなり声をあげて客に突進した。客は後藤を投げ飛ばすと、安藤の首を絞めにかかった。その時、勇ましい声がし、客に向かってパッと突進してきた人物がいた。巡査の新井であった。新井は安藤の上に客がいると予測し、とびかかったのだ。しかし、その途端、「ズダン!」という大きな音と、新井が床に倒れるタイミングが一致した。客は床にあった残り2発のピストルを取り、1発ぶっ放したのだ。客は立ち上がると、(ピストルが宙に浮いていた)松本博士に向けてピストルを撃ったかと思うと、走り出した。しかし、松本博士に弾は当たっておらず、博士は「待て!」と叫び走り出したが、撃たれた新井につまずき、その場に倒れた。松本博士はふと思い出したように、新井の手当てを始めたが、その時、宿の外から悲鳴と笑い声が聞こえてきた。後で分かったことだが、客は外に出ると、老人の帽子を投げ飛ばし、自転車を盗み、金を盗み、人を殴った。田中氏は耳をいため、後藤は前歯を折られていた。こうして、客は暴れまわり村中を恐怖のどん底に落とすと、どこかに逃げて行った。しかし、村に人通りができたのは、1日たってからの事だった。


第16章 村の反応

ようやく村に人通りができ、あの恐ろしい出来事から1日がたったころ、あれは本当に起きたことなのだろうかと、議論が始まった。しかし、そのような議論を始める間もなく、村の被害が明らかになるにつれ、雪町村は悪魔に荒らされたということが分かった。あれから安岡章太郎、安藤、後藤、そして田中夫妻は家に鍵をかけて絶対に外に出てこないし、気絶した松井巡査は友人と一緒に地下シェルターにこもり、撃たれた男(なんと菊池運送の菊池だった)と新井巡査は危篤状態のため、札幌市の病院に移送されているというありさまである。つまり、透明吸血鬼が雪町村に来てから与えた損害は、死亡2名、怪我多数、金銭的な損害合計1000万円以上というものである。これに反応したのが松本博士である。村の人々の恐怖心と怒りを代弁し、雪町村村長の前で必ず透明吸血鬼をとらえてみせると宣言した。

松本博士はさっそく行動を起こした。親友である加藤豪介博士と、その助手である木村亜里沙を誘い、雪町村での徹底した調査を開始した。新聞はこのことを大きく報道し、雪町村の珍事と一緒に日本全国に報道した。日本国民ほぼ全員がそのニュースを見て、震え上がった。警察はこの客の呼称を公式に、「透明吸血鬼」と定め、日本中に警戒を呼び掛けた。こうして、透明吸血鬼は日本中の敵になったが、松本博士は頭を抱えた。透明吸血鬼が血を好み、なぜか血を吸うと透明になるということ以外、情報が全くないのだ。しかし、透明吸血鬼が脱走して1か月後、松本博士の調査に転換点が訪れる。


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