第7話
第14章 謎の客の正体
謎の客が関係したとみられる怪事件が2件も起きたため、警察への客に対しての操作要求はますます激しくなり、ついに警察も黙っていることはできなくなったのか、田中夫妻と村人たちが待ち望んだ謎の客への尋問を行おうと、来る5月2日、警察は謎の客が泊まっている「ライオンの頭」亭へ松井巡査を派遣し、客に尋問を行うよう通知した。その命令を受けた松井巡査は、胸を張りながら「ライオンの頭」亭へ向かっていた。そしてついに、謎の客の正体があらわになったのである。田中夫妻は松井巡査がやってきたのを見ると大歓迎し、謎の客の部屋へ案内したが、巡査を面会希望の客人だといえば、3回目の面会客に客が激怒することも考えられるので、田中夫人が昼食のお盆をもってその後ろの巡査がつくという形で客の部屋へ突入した。「ご昼食でございます。」田中夫人が言うと、「かまわんよ。」と客の声がし、鍵を開ける音が聞こえた。田中夫人はお盆をもって部屋に素早く入ると、巡査に合図するまで部屋に入ってこないでほしいといい、お盆を置きながら合図をしようとしたのだが、「客人かい?」なんと客は巡査が廊下で待機していることを察して、先手を打ってきたのだ。田中夫人は答えに迷ったが、「かまわんよ。」と客が言ったので、夫人は意を決して巡査に入ってきてもいいと合図を送った。客は巡査の制服姿を見ると少し驚いたようだが、「何の用かね?」と落ち着いて言い、堂々と巡査の目の前で椅子に腰かけ、横柄な態度で言った。「私も暇人ではないのでね、要件があるならさっさと行ってくれたまえ。」松井巡査は客の横柄な態度にイラついたが、ここで感情を爆発させるのはいい選択ではないと思い、静かな口調で言った。「ここ最近起きている謎の怪事件について、村人たちが君を疑っている。また、昔には傷害騒ぎなどを起こしたそうだな。ちょっと聞きたいことがある。署までご同行願おう。」なんとなく理屈がおかしいが、要求を必死に叫んでいる村人たちに警察も必至だったので、このような屁理屈を議論する暇がなかったのだ。しかし、それを聞くと客の態度が一変した。覆面越しにも客が非常に怒っていることが確認できた。もし覆面がなければ、怒りに紫色になった顔を見ることができただろう。客は言った、「な、なんというひどい言いがかりだ!けしからん!私が何かやったという証拠があるのか?!」そのすさまじい勢いには巡査も思わず後ずさりしたが、突然こう叫んだ。「援軍を頼む!」その声に乗じてか、1階にいた「ライオンの頭」亭の客たち10人、そして巡査の制服を着た屈強な男5名が瞬く間に客室のドアをふさいだ。「投獄しろ!」「悪魔を滅ぼせ!」村人たちのヤジが飛び、総勢6名の巡査が両手を広げて客を捕まえようとした。「おとなしくついてくれば聞きたいことを聞いた後放してやる!しかし、ここで逆上して暴力をふるえば、公務執行妨害と暴力罪で現行犯逮捕だ!」松井巡査が叫ぶと、客に近づこうとしたが、突然客が、「待て、待て、待て!」と大声を上げ、「貴様らはそんなに俺の正体が知りたいのか?!なんて愚かなことをするのか!しかしどうしても正体が見たいというのなら仕方がない。よおし、いいとも!見せてやるよ!俺の正体が知りたいのだろう!ほら、これだ!」そういうと客は素早く自分の帽子を投げ捨て、自分の顔をいじっていたが、客の真意がわかるにつれ、村人の一人が叫んだ。「やめてくれ!」村人たちを恐怖が襲った。彼らが想像していたのは、覆面の下にある悪魔の醜い顔だった。しかし、覆面が取れると、村人たちは拍子抜けした。そこに現れたのは、怒りで顔を真っ赤にしている悪魔の顔ではなかった。そこに現れたのは、どこにでもいそうな中年の男の顔だった。どこか西洋風の顔立ちを持ちながら、日本人風の顔立ちを待つ、顔を見ただけでは何人かわからない顔つきだった。日本人といえばそう見え、中国人といえばそう見える、また、アメリカやヨーロッパの人だといえばそう見える。そういう不思議な顔立ちだった。しかし、彼の眼には村人たちも度肝を抜かれた。炎が燃えているような深い紅色だったのだ!一見表情を表さないような顔だったが、よく見るとその目は怒りに満ちていた。村人たちが客の予想していなかった顔にいろいろ議論を始める前に、客は驚きの行動に出た。なんと、突然、その場に棒立ちになっている女性にとびかかったのだ。屈強な男たちが行動するより早く、客は女性ののどにかみついた!松本稔博士が目撃した光景とまったく同じように、客は女性の血を吸い始めたのだ。村人たちは一瞬訳が分からなかったが、直ちに意味を理解すると、我先にと逃げ出そうとした。と、その時、「待て!」客のすさまじい怒鳴り声が聞こえた。見ると、先ほどまでしわがあった中年の顔が、若々しい青年の顔に変わったのだ!「吸血鬼だ!」「ドラキュラだ!」「悪魔だ!」皆は悲鳴を上げて逃げ出した。その後ろから客の馬鹿にしたような冷徹な笑い声。それを聞くと、松井巡査ら6名の巡査や、ほかの勇気ある屈強な男たちは我慢ができなくなった。皆はこれまでに感じたことのない怒りと勇気を胸に、トラのように客室へ直行した。しかし、客の様子を一目見た途端、ギャッと彼らは叫んだ。なんと!客の若々しい顔が、だんだん透き通ってきたかと思うと、ついには空気中に消えてしまったではないか!頭があるはずの部分に、何もなくなったのだ!巡査たちはひどいショックを受けたが、それでもピストルを握りしめ、我先にと首なし男の体へ飛びついた。客はこの突然の動きにもパッと反応し、巡査たちを床にたたきつけると、そのうちの一人に馬乗りになった。と、そこへ力に自信のある時計屋の安岡章太郎が部屋に飛び込み、謎の客にパンチを食らわせた。客はうなり声をあげると、一人の巡査の首を絞めて気絶させ、安岡章太郎に近づき、アッパーカットを食らわせた。松井巡査が後ろから組み付いてきたが、客は松井のみぞおちにひじで攻撃を食らわせ、松井巡査を気絶させると、残りの4人の巡査のうち一人の拳銃を奪うと、発砲した。2人の巡査に弾が当たり、巡査たちは倒れた。残りに2人の巡査はこの光景にアッと目を奪われているうちに、自らの体が宙に浮かぶのを感じた。そして、地面がだんだん近づいてくると、世界が渦巻く光に包まれ、あとは何もわからなくなった。
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