第2話

第3章 謎の客の注文

「うまくいかん!30万、40万、いや!100万だ!いや、短気を起こすな!この馬鹿な噓つきめ!」客は1階にも十分に聞こえるような大きな声で叫んでいた。そのころには村のうわさを話し合う雑談を楽しむためたくさんの客が「ライオンの頭」亭に入っていたが、この時点で、村の人口のうち5分の1がこの客の存在を知ったことになる。しかし、雪町村は小さな村なので、噂はあっという間に村に広がっているのだった。つまり、「ライオンの頭」亭の客たちが謎の客の声を聞いた瞬間、この男についてのうわさが村中に広がることが決まったのである。少し話が脱線したが、客の怒鳴り声が聞こえた時、沢田康生氏は、田中夫人に聞いた。「あれは何だね?」夫人は答えた。「そういえばはなしてなかったんだが、うちの宿屋にとある旅人を止めたんだけど、その旅人がひどく気味の悪い人でさ!そういえばさっきも客の部屋に朝食をもって行ったんだが、あの客が、部屋中の鏡を外していたのよ!」「へえ!奇妙なもんだね!」村の時計屋の安岡章太郎が言った。「おまけにそのお客、でっかいトランクを持ってきていたんだけど、その中身といったら!ガラス瓶なんかがいっぱい入っていたよ!」田中夫人はそこで話を中断した。2階の客室から、ルームサービスのコールが届いたのだ。田中夫人は、急いで階段を駆け上がると、客室のドアを開けた。と、途端に夫人は目を丸くした。客は初めて帽子をとっていた。そして、客の顔は、頭から顎まで、一切の顔を見せず、赤と黒の混じった覆面で顔を包んでいた!その客は夫人の驚いた顔には目もくれず、相変わらずガラス瓶をいじくりまわしながら、「おかみ。」と低い声で言った。「雪町駅に荷物が置いてあるんだ。どうすれば運んでもらえる?」「追加のお金を払えば、こちらから車を出すことができますよ。」田中夫人は言った。「いくらだ?」客は、指定されたお金を支払い、荷物をできるだけ早く運ぶように指示した。田中夫人はその注文を聞き、「かしこまりました。」と言って階段を下りた。そして客たちに出くわすなり、「顔を全部包んだ覆面で顔が見えないよ!」と言った。「本当かい!」沢田氏は言った。隣の客は田中氏に金を隠しておけといった。また、村で唯一の学習塾の先生方は、そんな奴は泊めないほうがいいと騒いだり、ピアノを弾いていた老人は「俺だったら泊めないな!」と繰り返し大声で言ったり、3丁目の雑貨屋の安藤は店に入ってきていろいろ知りたがるという始末だった。

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