第4話
俺は相撲が好きだった。
潔いのがいい。
ひと勝負、こんなにも短い時間で決着がつく競技は他にあまりない。
丸い土俵の上で、その一瞬のためだけに体を鍛え、心を備え、技を繰り出す。
俺のお気に入りの大関は、美しい顔をしていた。
人間には、怒ると赤くなる人間と白くなる人間がいる。
その大関は、土俵に上がり、相手の顔を見据えると、それまでの緊張した表情が抜け、すうっと顔色が透き通っていく。
派手さはない。堅実で、力強く、それでいて、ここぞと言う時に黒星をつける力士だった。
親父が亡くなって、諸々の用事を終えて、ようやく人心地ついたとき、上の息子が家に帰ってきた。
社会人になると同時に家を出て、もう二年目。
妻が台所で夕飯の支度をする音を聞きながら、好きな力士はいるかと息子に尋ねたところ、俺のお気に入りの大関に土をつけた力士の名前を挙げてきた。皮肉屋なところは俺にそっくりだ。
わかってるさ。
お前、俺のことが嫌いだろう。
二歳下の弟は俺によく懐いていたが、こいつは昔から俺に敵意を隠そうとしない。
息子なんてそんなものだと、周りに言われてきた。
今日だって妻に言われて親父の持ち物のいくつかを譲り受けるため、仕方なく帰ってきたのだ。
迷惑そうな顔で居間にあがった息子の顔は、疲れ切っていた。
仕事が忙しいのだろうか。
俺はたっぷり一時間は悩み、意を決して息子に話しかけた。
なあ。
次の休日、空いてるか。
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