最終話 一発必中

 休みたいのに休めない。在宅ワークとはいえ、長時間パソコンに向かいっぱなしというのは、中々疲れる。

 忙しくて目が回るとはまさにこのことだろうか。


「大変そーだねー」


 当然のように俺の部屋に入り浸り、ベッドの上で呑気に漫画を読みふける先輩。

 他人事みたいにいってるけど、アンタのせいだからな? アンタにタカられてるせいで、仕事量を増やさざるをえないんだよ。

 俺はワイフワークバランスを重視する性格なんだよ、本来は。なんで平均以上の年収を叩きだしてるのに、必死こいて業務に取り組まなきゃいけないんだ。


「おかげさまでね」


 皮肉で適当にあしらい、ブログのネタを必死に探す。

 今時アフィリエイトかよって思うかもしれないけど、俺クラスになるとかなりの収入を得られるんだよ。アフィリエイトは稼げないって話を良く聞くけど、そいつらはよほど才能がないのか、甘い考えで踏み込んだ怠け者なんだよ。

 楽に大金を稼げるって考えで始めたら、そりゃ稼げないって嘆くハメになるよ。仕事なんてえてしてそんなもんよ。


「男は大変だねぇ。広告で稼ぐのに血道を上げなきゃいけないんだから」

「女性は違うんですか?」


 話しかけないでくれよ、邪魔だから。タカる上に妨害とか、何考えてんだ? 人手足りないとか言いつつ、新人をいびるクソ職場と同じだぜ?

 寄生虫だって、宿主をむやみやたらに殺したりせんだろ? 最終的には殺すかもしれんけどさ。


「私もツブヤッキーで稼いでるんだけどさ、女ってだけで男が群がってくるから楽勝だよ?」


 ずるいなぁ、女性ボーナス。面白い男の配信者より、作り声でグダグダ喋る女性配信者の方が人集まるもんなぁ。多少ブスでも、顔出しすれば喜ばれるし。


「ツブヤッキーって、ただの文章でしょう? そんなんで性別の恩恵受けられるもんなんですか?」

「あまぁい!」


 うわ、急に大声出すなよ。下にオカンいるんだぞ。

 で、何が甘いんだよ? お前の将来の見通しか?


「絵師や個人ゲーム開発者が女ってだけで、男は喜ぶんだよ。ちょっとコスプレ写真上げるだけでチヤホヤされるの」


 それはまあ、あるかもしれん。クリエイターとしてどうなんだよと思わなくもないけど、一種の戦術よね。


「先輩もコスプレとかしてるんですか?」

「うん。マスクとかで顔は隠してるけど、ちょっと足出すだけでインプレッション稼ぎ放題だよ」


 腹が立つというか、悲しくなってくる。

 こういうのに群がる悲しい生き物と同じ性別っていうのが、情けなくなってくる。

 自己顕示欲と金銭欲を満たすのに利用されて、悔しくないのかよ。


「男って本当にチョロいよねぇ。女の子が〝チンチン〟って単語を使うだけで、イイネをくれるんだから」

「悲しい生き物ですねぇ。それを食い物にする生き物も含めて」


 何が恐ろしいって、この稼ぎ方が普通に思えてくるのが恐ろしい。

 イカサマだの、ブルセラだの、ノミ屋だの、まともじゃないシノギばっかりしてる女が、男を釣って稼いだところでなんとも思えん。

 むしろ健全な気がする。これに限っては犯罪ではないし。


「っていうか自分で稼げるならタカらないでくださいよ」

「えー? いつまでもこんな生活続けられると思えないしー、お金は貯めとかないといけないじゃん?」


 妙に理知的なんだよな。ケチなだけかもしれんけど、良い気になって無駄遣いしないっていう、最低限の知能は有してるんだもの。

 もしもの時のために金を貯めるって考えは全面的に同意だよ。かくいう俺も同じ考えだし。でもな? 方法に問題がないかね?


「将来のこと考えるなら仕事辞めないほうがよかったのでは?」

「大丈夫大丈夫。ちゃんと大金稼いでから辞めたから」

「……そんなに年収高かったんですか? 一年目で」


 一年目って夏のボーナス満額出ないし、実家暮らしでもそんなに貯まらなくない?


「なんと全額有馬記念にぶっぱしましたー!」

「……結果は?」

「三連単を一点賭けで大勝利!」


 へし折りてぇ。その時代遅れなVサインをへし折りてぇ。

 脱サラのためにギャンブルとか、本当にクズ野郎だな。その思い切りの良さはある意味尊敬するけど。


「外れてたらどうするつもりだったんです? むしろ外れる確率の方が高いでしょ」

「そん時はもう一年我慢してたよ」


 なるほどなぁ。アリと言えばアリなのか? でも一回大勝したぐらいじゃ脱サラは厳しいような……。ああ、だからタカってるのか。


「ちゃんと将来のこと考えてるんだよ? 雀荘で稼いだ小銭をWIN5とか宝くじにぶっぱしてるし」


 二度と言わないほうがいいよ。将来のこと考えてるって。

 そりゃまあ、小さいギャンブルで一喜一憂するよりかは、ゼロか百の勝負をしたほうが良いってのはわかるよ? 数十万稼いだところで、一生食っていくのは無理なわけだしさ。


「当たる前に捕まっても知りませんよ?」

「チンコロされないように良い思いさせてるから大丈夫」


 チンコロって……カタギが使う言葉じゃないぞ。一瞬下ネタかと思ったわ。

 ふーん、良い思いねぇ。


「俺にも良い思いさせてくださいよぉ」

「お尻叩いたじゃん」


 叩いたけど、だからなんだろうか。割に合わないんだが? 風俗行けるぐらいの金額をタカられてるんだが?


「トビー君がミツグ君として頑張ってくれたら、生で叩かせてあげるよ」

「ミツグ君って……いつの時代の人ですか、貴女は」

「そこ? 反応するところ、そこ? 生尻だよ? 大好きな先輩の生尻だよ?」


 あえて無視したのに、こいつときたら……。

 ……そりゃ叩きたいよ。そういう趣味はないけど、生で叩きたい。いや、叩かなくてもいい。生で見れるだけでも嬉しいし、触らせてくれたらそれでいい。叩く必要なんてない。

 なーんて考える辺り、男ってバカなんだよな。相手の腐った人間性に辟易してるくせに、性の対象として見ちまうんだもの。

 いや、男に限らんわ。女だって、性欲に負けてクズ男の餌食になるじゃん。


「気持ち悪いって言われる覚悟で言いますけどねぇ……俺は生娘が好きなんです」

「生娘だよ?」

「嘘おっしゃい。先輩は何人の男と寝てきたんですか?」

「ゼロだよ。もうすぐ一になるけど」


 女とはまことに恐ろしい生き物じゃのう。こんな平然と嘘をぶっこけるのだから。

 そんな爛れた生活送ってるくせに処女? あるか、んな話。まともな女性でも処女喪失する世界なのに、こんな明らかなビッチが処女なわけない。


「キスさえしたことないよ? そりゃ食べかけとか飲みかけの物を、人にあげたりぐらいはするけど、それ止まりだよ?」


 それを〝ぐらい〟で済ませられる辺り、ビッチなんだよ。信用ならねえ。

 小銭のためにそんな下品なことをするようなヤツは生娘じゃない。


「顔出ししてないとはいえ、写真をネットに上げてるんでしょう?」

「大事なところは見せてないって」

「それは規約違反だからでしょう?」

「それもあるけど、それ抜きにしたって見せないって。生足とか谷間が限界」


 生娘は生足と谷間でアウトなんだよ。恋人以外には見せないんだよ。


「下着だって見せパンしか見せないし」

「もういいですって。仕事の邪魔なんで、せめて静かに漫画を読んでてください」


 さてと……駄弁ってる間にブログの予約投稿済ませたし……久々に音声動画でも作ろうかな。音声合成ソフトによるゲーム実況って、一度伸びたら中々の収入に……。


「面白くなーい!」

「うおっ!?」


 な、なんやねん? 急に背後から抱き着かないでくれよ。

 ……椅子の背もたれさえなければ、胸の感触を楽しめたというのに。


「面白いですよ。自分で言うのもなんですけど」

「いや、動画じゃなくてさ、私をビッチだと勘違いしてるのが面白くないの」


 ああ、そっちね。見てもないくせに動画を批判されたかと思って、尻を叩きそうになったよ。


「悪魔の証明ってヤツですよ。ビッチだの違うだの所詮は水掛け論です」

「……処女膜は復活しないよ?」

「……まあ、鼓膜じゃあるまいし……そりゃそうでしょ」

「試してみる?」




 ……まさか一発目で当たるとはなぁ。

 ただ単に太っただけだと思ったんだけど、出来ちまうとはなぁ。

 タバコとか酒を一切タカってこないから、おかしいとは思ったんだよ。

 クズのくせに、胎児に悪影響を与えない生活を心がけるなんて、良いところもあるんだな、この人。


「言ったでしょ? 宝くじとかWIN5みたいな一発勝負が好きだって」

「……卒業してくださいね?」

「うん。そんなことしなくてもいいぐらい、頑張って養ってね」


 ……俺が後何年生きるか知らんけど、目が回り続けそうだなぁ。

 ライフワークバランスが見事に崩れたけど、先輩もオカンも幸せそうだし、まあいいか。孫を見せるっていう最大の親孝行もできそうだし。

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学生時代に好きだった先輩がタカってくるんだが? シゲノゴローZZ @no56zz

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