第17話港




久し振りに海に来たら、すっかり変わってたよ。


立派で大きな入り江には、防波堤が出来ていた。

波が入り江の奥までいかない地形改造(工事)らしい。

それに、街が出来ていて人も多いぞ。


海のモンスターは・・・


「あ!あれって巨大タコを切って日干しにしてるぞ」


海に向けている大砲が倒したに違いない。

あいつは、軟体の生き物だから熱で焼き殺すの1番だ。


近づくとカラカラになって美味しそうな匂いまでするぞ。

焼いたら美味いに決まってる。


あ!こっちには、魚を開いて干してあった。

まさに旨みが熟成している感じだぞ。


あっちには、魚をさばく工場だ。

セッセと働いているのは、若くて綺麗な女性が多い。


もう、魚をさばく包丁は、神技だな・・・




あ!あれは、俺が建てろと言った造船所だ。

その造船所に作りかけの船が2つも・・・


「いつの間に・・・・・・」


ベンジャミン「私が設計して建てました。閣下の魔道クレーンもあります」


「ああ、本当だ。あれって大型帆船か!」


「王都でリウス帝国の帆船を見てるので、それに騙して設計図も手に入れてます」


俺も見た事もない帆船を知ってるようだ。


「だけど航海には、魔道六分儀ろくぶんぎが必要だったハズだ」


「その魔道六分儀の設計図も手に入れてます。方位磁針、クロノメーター、海図もすでに用意してるので、完成すれば出航出来ます」


「嫌々無理だって、帆を上手く使える人なんて居ないぞ」


「閣下は知らないハズです。病気で寝込んでいたスラムの人間が実は、リウス帝国の軍船の船長の密航者だとは・・・何やら身に覚えのない罪を着せられて逃げてきたらしいです。なので喜んで協力すると申してます」


凄い話を聞いてしまったよ。

まあ、軍船の船長なら航海術に長けてるから任せたらいいだろう。


「あ!だったら帆船に大砲を載せるよう改造出来ないかな」


「それはいい考えです。リウス帝国では、火魔法か氷魔法での攻撃が主流でしたから・・・私の知る限りでは、大砲の方が長距離からの攻撃で優ってます。リウス帝国が相手なら絶対に勝てますよ」


リウス帝国を知り尽くしている、ベンジャミンが言うから間違いないだろう。

大砲なら100発100中だからな・・・めちゃ自信が湧いてきたぞ。


「それでは、作業をしてる大工に言ってまいります」


ああ、ベンジャミンは、言ったことを必ず実行するタイプのようだぞ。

言って考えて中々動かないタイプより断然にいい。


ならば・・・スライムペンキで塗りまくるのもありかも・・・

魔法攻撃なら50%は、防いでくれるハズだよ。


船と船がぶつかっても壊れないハズだ。

聞いた話だと船の先をぶつけて壊す方法があるらしい。


それに横づけして乗り込む方法もある。





1ヶ月もすると帆船は完成。


前方に向いた大砲が1門

300度まで向きを変更可能

サイドには4門×2=8門

後方にも1門

全ての方位をカバー



帆に風を当てて進むように大型魔道旋風もつけた。

無風でも進む画期的なアイデアだ。



「出航!」


今は無風だ。

それでも大型魔道旋風が回りだすと帆船は、徐々に動き出す。


入り江を抜けて大海原に向けて、旋風は更に回転を上げる。

それによって帆船のスピードが増してゆく。


「船長!右舷に大きな魚が・・・なんて大きいんだ」


「バカ野郎!あれはクジラだ。正確に言えば哺乳類だ」


「あれが牛と同じ哺乳類ですか・・・足もないのに」


「大昔には、あったらしいぞ。あのヒレも解体すれば、5本指の骨がハッキリあるハズだ」


素人の船員は驚く。

俺も双眼鏡で見ながら驚くしかない。

あれが動物なんて、モンスターだよ。


モンスターは、魔力の魔石で生きてる。

それに対して動物を解体しても魔石はでない。


人間の体にも魔石はないが、血に魔力を循環させることで魔法が発動できる。

その魔力量をいかに上手く循環させれかで、魔法の威力も違ってくる。

まさに神のみ知る能力だ。



そのクジラに何かが巻きついた。


「あれは、大タコだ!いつでも大砲を撃てる準備だ!」


船員は、慌しく動き回る。


大砲に砲弾を込める者。


操作して大タコを狙う者。


「3番!いつでも撃てます」


「まだ撃つな!どっちが勝つか見極めてからだ」


大タコは、巻きついた足をなかなか外さない。

クジラは、苦しそうに「クゥーー、クーー」と鳴きだす。

更に巻きつく足が増える。


その時だ。

海が浮上して大きなクジラが現れたぞ。

そして大タコの頭を「ガブッ」と引き千切る。


あ、あっちにもクジラだ。

その数を増やして大タコを襲いだす。


なんと襲った大タコが呆気なく負けていた。

クジラの鳴き声で駆けつけたクジラによって食い殺されていた。

10本もあった足が引き千切られて食われる。


最後は、黒い墨を吐いて海に消えた。


そんな黒い墨が帆船の側面に少しだけ掛かる。

「ジュウーー」と音が・・・


その側面を急いで見る。

スライムペンキで損傷はない。

普通なら一瞬で溶かしていたハズだ。

大タコが吐く墨は、猛毒だからだ。


それにしても戦いがあった海が静かだ。

クジラも潜ったまま浮上してこない。



やがて遠くでクジラの潮吹きが、あっちこっちに見られる。

結構な距離を海中で泳いだようだ。


そんな時だ。

海にプカプカ浮かぶものが・・・


俺の鑑定が大タコの卵だと知らせてきたぞ。

俺は、急に閃いた。


これは使えるぞ。



「あの大タコの卵を回収するぞ」


「あれが大タコの卵ですか」


ああ、船長もビックリしてるぞ。


網で回収して海に沈めた状態で曳航した。


あの大タコは、卵を守るためにクジラと戦ったハズだ。

鑑定して分かったことは、生まれるまで新鮮な海水を送り続けるらしい。

卵が孵化するまで餌も取らない。


だから弱っていたに違いない。


生んだ数は、1万。

クジラに食われて生き残った数は、21と少ない。

後はテイマーのボブに任せよう。


ダメな場合は仕方ないと諦めるしかない。



「今日は、ここまでだ!面舵一杯、港へ帰るぞ」


「領主様、それは船長の役目です」


「ああ、悪かった。これから気をつけるよ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る