第16話磁器




物を作って売るには、色々なハードルがあるだ。

いくら良い物でも高ければ誰も買わない。

その良い物に付加価値をつけるのが「ブランド」だ。


ブランドは時間や対価を払ってでも得たい価値(強み)であり、その価値を活かしてファンを作ることだ。


1つのコップが銅貨1枚。

コップにブランドマークがつくだけで金貨1枚。


商品を常に選んでもらうためには「商品価値」以外の「差」を消費者に感じてもらうことが必要だ。


リウス帝国が輸出する陶器類がまさに「ブランド商品」だ。

鮮やかな色で彩色された陶器。


陶器に使う粘土は、有機物を含む土ゆえに有色なんだ。

微量な鉄分や炭化した植物の根や木片など、いろんな不純物ありの色合いと肌触り。

リウス帝国の陶器が出るまでは、素焼きの陶器で実用的なものだった。

ザラザラした肌触りで色も赤みがかった色だ。


リウス帝国が選んだのが彩色を施して、釉薬うわぐすりつややかな肌触りを再現した陶器。

誰もが高い金で買う「ブランド商品」を作ったのだ。




そんな説明をしていた俺は、机を「バン」と叩いた。


磁器工場立ち上げに向けての講義なのに・・・


本当に聞いているかと工場で働く人々を見渡す。

ああ、ボーとした奴も居るよ。


鑑定でも半分は、理解してない。

俺の講義は何だったんだ。


この工場は、マリアの手腕に掛かってるぞ。


「お任せください」


ああ、いい返事だ。





磁器工場


石膏泥漿せっこうでいしょう流し込み】


マリアは、優しく話しだす。


「あんたは、石膏型に泥漿を流し込む係りね」


「こんな感じですか・・・」


「手を止めちゃダメよ。石膏は吸水性があるから時間が経過したらひっくり返す」


「はい、できました」


「これで石膏型の中に一定の厚みで固まるから、仮止めしたゴムを外して「パカッ」と2つにすれば、花瓶が出来上がるでしょ」


「あ!できました」


「できたら干すために板に置いてゆくのよ。きていに並べるのよ」


※泥漿とは流し込みが可能な流動性のある粘土



【仕上げ】


「あなたは、乾燥した花瓶のバリ処理ね」


女性は言われるまま削り取る。



【素焼き】


びっしりと並ぶ花瓶を魔道窯へ入れて10時間かけて920度で焼き続ける。


ああ、魔道窯も熱に耐えるレンガを作るのも大変だった。

だから火山で絶滅しかかったホノオ草を地熱を使って栽培。

このホノオ草1000度以上でも育つ草だ。

しかし、休眠した火山では、絶滅のうき目にあっていた。

だから苦労して育てたよ。


ホノオ草を混ぜた粘土で焼き上げたら、耐熱レンガの出来上がりだ。



【手書き】


「あなたは、花瓶に線を入れよ。手本を見ながら入れなさい」


「これにですか・・・」


「そうよ・・・最初の失敗ならゆるすから心配しないで」


あ、緊張して線が少し歪んでいるわ。


「失敗したようね・・・いいわ。線を太くして誤魔化しましょう」


「そんなことをしても、いいのですか」


「少しぐらい味があって良いわよ。それに領内に安く売る商品で・・・領主様からも許しをもらってるのよ」



【釉薬】


「あなたは、チャポンと釉薬を施すのよ。こうやれば簡単だから」


「はい」



【本焼】


魔道窯で14時間かけて1300度で焼き続ける。



【上絵】


「あなたは、絵が上手いって聞いているわ。手本を見て練習して、描けると思ったら描きなさい」


赤、青、緑、金、などの多様な上絵具で絵を描く。



【上絵本焼】


魔道窯で低温の800度前後で焼く。



出来た磁器は、品質的にまだまだな気がする。

だから領内で使って消費してもらう積もりだ。


良い品質になったら他の領に売ればいい。

ブランド力をつけるのも大変だ。





アンブラ店の中では、様々な磁器の食器や置物が飾られていた。



「このデザインって斬新よね」


「え!そんなの絵じゃないよ」


「なによ、この心に訴えるタッチがいいのよ」


「そうかな・・・」


「お客様、お目が高いですよ。こちらは、現代アートの先駆けになります」


「そうなの・・・1セット買うわ」



領内に売れに売れてるのが、俺の磁器人形だった。


どこから、どう見ても俺だ。

なんで勝手な事をするかね・・・・・・


1万も売れてるよ。

それでも懲りない面々は、公園の中心地に等身大の磁器の俺を作りやがった。

普通作るなら銅像だ。

あれだど石を投げられたら壊れるぞ。


壊されたくない俺は、スライムの粉を魔力水で煉ってコーティングしたよ。

物理攻撃無効はダテじゃないよ。

ハンマーで叩いても壊れなかった。


え!これって使えるかも。

落としても割れない器って、めちゃ欲しがるよ。



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