転生おじさん出待ちが出来る?
パンは王子にも好評だった。リヒト・王子お墨付きのパン、これは受ける。
ちなみに昼休みが終わった後は、王宮騎士の皆様が教室まで送ってくれたのです。
騎士の皆様には、カツサンドが好評でした。
『肉を食べたって満足感が良いですね。濃い目の味付けで、午後の仕事への活力が湧いてきました』
なんでも普段の昼飯は。バケットにジャムを塗った物が多いとの事……騎士って結構な重労働だぞ、
しかも毎日ジャムって。元になる果物を変えても絶対に飽きる。おじさん、米を食えないだけでも辛いのに。
「ト―ル、あの冷える容器、俺に預けてくれへんか?」
五時間目の授業が終わると同時にリベルが駆け寄ってきた。クレオより先に話し掛ける為にダッシュしたようだ。
「パクらないなら良いぞ」
この世界には特許の概念がない。キャナリー商会で大量生産されたら、泣き寝入りするしかないのだ。
「人聞きの悪い事、言うなや。魔文字の日用品への利用はお前のアイディアやて、知れ渡っておる。それに抜け目のないお前の事や。ルベール伯爵を通じて、王家に献上してるやろ」
魔文字風呂は王様も気に入ってくれた。イルクージョンに風呂文化が根付けば、温泉リゾートで一儲け出来る。
「良いけど、温度の調整が難しいぞ。一定の温度を保てれば、食糧の長期保存が出来るんだけどな」
そうしたら王都でも魚が食えるのに。刺身は無理でも焼き魚が食べたいのです。
「マジか!それなら、うちの職人に話してみるわ。やっぱり、持つものは友やな」
現金な奴だな。それでもリベルは笑っている。何も新しい恋だけが傷を癒す訳じゃない。
友情、仕事、趣味、スポーツ……それを一番知っているのは、失恋経験の多いおじさんだって言うのに。
「それなら俺も相談があるんだけど、良いか?」
前世で彼女に振られた時、上司が大きい仕事を任せてくれた。その忙しさで失恋の傷を癒せた訳で……。
おじさんも定期的に儲け話をリベルに振ってやろうと思う。
◇
問題の放課後を迎えた。とりあえず生徒会室に避難すれば、一時的にはしのげる。問題は校舎を出る時だ。
当たり前だけど、馬車乗り場までは歩いていかなきゃいけない。そうなると玄関は鬼門になってしまう訳で。
「お昼のパン美味しかったわね。新しいパンが出来たらまた持ってきてね」
ヴィオレ先輩はクリームパンが気にいったそうだ。ちなみに、王子はホットドッグがお気に入り。
「あまり褒めないで。この子直ぐに調子に乗って、暴走するんだから」
そして、姉ちゃんは直ぐに駄目だしをしてきます。そろそろ弟を信用して、手綱を離しても良いと思う。中身は立派な成人男性なんだぞ。
「姉ちゃん、今日はクレオと帰ってもらっても良い?ちょっと面倒な事になっているんだ」
姉ちゃんも巻き込まれない様にザントの事を伝えておく。
(もう婚約者の事を解放しても良い頃なんだけどな。ザントには年上の矜持って物がないのかね?)
年下の婚約者に依存するなんて、大人として情けないとか思わないんだろうか?
振られた時や相手の将来にマイナスになると思ったら、自分から身を引くのが大人の矜持だ……俺は
正直、自信がないです。なんだかんだ言ってクレオみたいな美少女に好かれるのは、嬉しいのだ。
「話は王子様やヴィオレから聞いたわ。もう手配しているから安心しなさい」
流石はお姉様。もう悪役令嬢じゃなくキャリアウーマン令嬢になっていると思う。
……確かに、これなら見つからないで帰れるけど。
「ト―ル、バイクになりなさい。クレオは後ろに乗ってね」
お姉様、
でも勝手に喋って師匠から怒られないだろうか?ヴィオレ先輩の時は役目の為だったから、見逃してもらえたんだと思う。
「お師匠様から聞いて楽しみにしていたんです。トールは、バイクって言う魔道具に変身出来るんだよね」
そう言えば、バイクに乗る練習してたもんね。師匠、自らネタバレしてたのか。
「分かったよ。あまり飛ばさないでね」
ちなみに空の馬車は時間を置いてから出発するとの事。ザントは待ちぼうけか。
◇
持って行ったパンはかなり好評だった……問題はうちで抱えているパン職人の人数では対応しきれないって事。
(新事業として新しく雇うか。でも、伝手がないんだよな)
この世界には職安も求人サイトもない。
でも、この後クラック帝国と戦争になる事を考えると、食糧の安定供給は必須だ。
「爺ちゃん、パン職人を増やしたいんだけど、何か良い方法ないかな?」
新しいパンを爺ちゃんに提出。同時に新規事業の提案をする。
軌道に乗ったら、乾パンとかも作っておきたい。
「料理長に相談しておく。これが副食を乗せたパンか……手軽の食べられるし、美味いな。これも前世の知識なのか?」
これもって言うか、全部そうです。俺のオリジナルアイディアなんて無いに等しい。
「うん。野菜の収穫量も上がってきたからね。加工すれば、形の悪さなんて関係ないし」
傷のついた野菜は傷みが早い。でも、加工に回せば問題なし。
がっつり系のパンは騎士や肉体労働者に。お菓子系のパンは貴族の女性をターゲットにしようと考えている。
「しかし、キャナリー商会との関係は大丈夫なのか?」
リベルとは、すでに相談済みだ。爺ちゃんのオッケーが出て、ある程度の目途がついたらリベルが話を伝えてくれる手筈になっている。しかし、肝心の職人がいなきゃ絵に描いた餅だ。
パンだけど餅とは、これいかに……若い婚約者に嫌われない様に、親父ギャグは控えます。
「うちが店を出すのは、ルベール領と王都の南部。他はキャナリー商会に任せようと思っている。条件は年契約でレシピの使用料を払う事さ。それと果物はルベール産の物を使ってもらうんだ」
キャナリー領は農業が盛んだから、全部ルベール産の農作物を使えなんて言えない。俺の目的は儲けではなく、他領との繋がりを太くする事だ。WIWWINの関係を築ききたいのです。
◇
基本、俺は歩いて通学している。クレオが来てからは馬車で一緒に登校する日も増えた。
今日はニコラさんに御者をしてもらい、うちの馬車で姉ちゃんと三人で来てるんだけど……。
「今日もザントがいる……ニコラさん、ここで停めて下さい。俺は裏口から入ります」
俺は馬車通学の方が珍しいから、歩いて学校に来ても不自然ではない。
問題はザントだ。和解させたい気持ちは分かる。でも、こうもしつこいとウンザリします。
仮にもうちは伯爵家だ。学校に苦情を言う事はたやすい。
(生徒の安全確保、服装チェック。いくらでも言い訳は出来るか)
まだ情報が少なすぎる。どうせなら根っこ事断ち切りたい。
「分かりました。伯爵には私からきちんと報告しておきますね」
二コラさんの目の色が変わった。きちんとって事は、ザントの事を調べ尽くして報告するって事だと思う。
「お願いします。姉ちゃん、クレオ。何か聞かれたら『今日は歩いて行った』って言っておいて」
こっそり馬車を降りて裏口にダッシュ。う
うちの中学には、貴族や騎士の子供が多く通っている。その中でも家格の高い家の生徒は注目を集め、取り巻きもいる。
姉ちゃん達メインキャラが歩いていると、自然に人が寄って来るのだ。
でも、俺は庶民伯爵なんて陰口を叩かれる不人気貴族。一人で歩いていてもスルーされます。
「ト―ル様じゃないですか?今日も歩いて通学ですか?」
話し掛けてきたのは、昨日も話をした王宮騎士のお一人。多分、王子が乗ってきた馬車を停めた帰りだと思う。
「今日は馬車で来たんですが、またザント先生が立ち番をしていまして」
この人は俺と王子の話を聞いていた。何より王子の護衛という言う役割上、俺とジェイド家のいざこざを知っている筈。
まあ、リベルやクラスメイトも知っている位だから、知らない方が不自然なんだけども。
「随分としつこいですね。王子には私が報告しておきます」
騎士さん、爽やかな笑顔で笑っているけど、目が笑っていません。
(生徒会繋がり……いや、姉ちゃんの弟だからか)
爺ちゃんの話では、姉ちゃんと王子の婚約が内定しつつあるそうだ。
ゲームだと爺ちゃんが強引に推し進めたってなっているが、今は王家も乗り気らしい。
……多分、クレオの存在が大きいんだと思う。クレオは公爵家の娘で、現ポリッシュ共和国国王の孫。つまり上手く行けば、王子とクレオは義兄妹って事になる。
しかも、クレオは自分の意志でイルクージョンに来た訳で……。
あれ?俺、婚約破棄されたらヤバくね?
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