最後は……
おじさん、頑張った。超、頑張った。しかも、脇腹がじんじんと痛いのだ。
サラリーマンなら、後は上司に任せて休憩に入っても許されると思う。スポーツ選手でも、一旦ベンチに引っ込んでも許される筈。
しかし、因果な事に俺は貴族である。きちんと始末をつけて置かないと、後々面倒な事になる。
「さて、どういう事か聞かせてもらえますか?」
件の貴族に低い声で話し掛ける。貴族を睨みつつ、フレイム家の執事にも視線を送っておく。
ここで何がと具体的な事を言わないのがミソ。情報を出来るだけ引き出しておきたいのです。
(お貴族様も現金なものだな)
今飼い主貴族の近くにいるのは、背後にいるニコラさんのみ……ちなみにニコラさんの殺気がえげつないです。俺には向けていなけど、おしっこちびりそうになる迫力だ。
その所為かさっきまで談笑していた貴族は飼い主から距離をおいている。さっきまであんなに仲良さそうにお茶を飲んでいた癖に。
それだけ飼い主貴族のやらかしが大きいのだ……後、クレオがガチ睨みしているのがも大きいと思う。
「スノウとドロップは、私の大事な家族なんだ。森で楽しく暮らしていただけなのに……それをお前は!」
……反省の色なしと。おじさん、遠慮なくつめちゃうぞ。
年は二十代後半くらいだろうか?御多分に漏れず、イケメン。優し気な顔をしており、癒し系イケメンって感じだ。
今回も見た目では完敗です。でも、口の達者さなら勝つ自信がある。
「ニコラ、こちらの方のお名前を教えてくれ」
今はまだ敬語で接しておく。俺より身分が高い人だとまずいし。
「ペボー子爵、年は三十五才、ペボー家はジュエイド家の縁戚に当たります。昨年、当主の座を引き継いだばかりのお方です」
三十五か。この世界って年齢が分かりにくいんだよな。でも、三十五にもなって頭がお花畑過ぎないか?
「分かった。を……フレイム家の人間で馬に乗れる者はいるか? いたら至急、お爺様に連絡をいれてくれ。ペボー子爵は、王家に叛意ありとな」
フレイム家はうちの分家だ。本家である俺が命令するのは筋違いではない。後、命令出来る人がいないのです。
そして、ここから難癖タイムの始まりだ。
「トール、ここは僕に任せて。誰か、この事をルベール伯爵に伝えて下さい」
クレオの指示を聞いてエメラルド家の騎士が動く。悲しいかな、フレイム家の人間より信頼できる。
「私が王家に叛意だと?言い掛かりは止してもらおうか?」
ペボー子爵、激おこ。多分、本当に叛意は無いと思う。ただ、考えが浅いだけだ。
だから、
「今回、私が誰の命令で牧場に来たと思っている? 中等部の生徒会長でもあらせられるリヒト王子の指示なんだぞ。しかも、ここの牧場は国の管轄。そこにいる牛は国の財産。働く従業員は国に仕えている方々だ」
だからと言って俺にペボーを断罪する権限はない。
でも、効果はてき面な様で、見物していた貴族が更にペボーから距離をとった。
「し、知らなかったんだ。私はスノウとドロップを助ける為に……」
ペボーの顔が青ざめている。子爵を継いでいるって事は、ペボーはジュエルエンブレム持ち。尊敬される事はあっても、厳しく責められる事はなかったと思う。
「それだけではない。ここにはエメラルド公爵の配下の方々もおられる。彼等の役割は、私やイルクージョンの実情を把握し報告する事。仲間を背後から攻撃する様な貴族がいる国と同盟を続ける国があると思うか? 国交断絶とまでいかなくても、王家の顔に泥を塗ったのとか変わらないんだぞ」
うん、バックが大きいと責める時って楽だよね。なんか会社の名前を笠にきて怒って来る上司を思い出してしまう。
「わ、私はどうしたら……どうしたら許されるのでしょうか?」
いや、許すも許さないも法律が決めるんですが。
「普通、トールに謝るのが先じゃないですか? 魔文字道着を着ていたから良かったけど、下手すりゃ命も危なかったと思いますよ」
フォルテが呆れ顔で突っ込む。中一に駄目出しを喰らうのは、かなりきついと思う。
「トール君、済まなかった。許してくれないか?」
ペボーは、苦笑いで俺に話し掛けてきた。それで許す人間がいるとでも?
「謝るのは私じゃありません。今回の一番の被害者はヘルハウンドです。元々ヘルハウンドはイルクージョンにはいない魔物。それを無理矢理……しかも、子犬のうちに両親から引き離し、飼えなくなったら捨てる。貴方がいなかったら、二匹とも故郷で幸せに暮らしていた筈。恥を知りなさい」
まあ、倒したのは俺なんだけどね。でも、それを突っ込む人間はなし。
なんかクレオの御つきのメイドさんが“トール様えげつない”って書いていたけど、気にしない。
だって、多分婚約破棄されるもん。だったら、警戒させておいた方が得である。
「違う……私は商人から買っただけだ。珍しい魔犬の子供がいるから買いませんか? と言われて」
野生生物なんてプロの飼育員でも、飼育するの大変なんだぞ。しかも、ヘルハウンドは魔物。飼育法は確立していない。
(飼えないなら買うなよ。でも、もう一押しだ)
「誰から買ったんですか? まさかキャナリー商会とか言いませんよね? 私はリベル様とも懇意にさせてもらっています。嘘をついても、直ぐにバレますよ」
当たり前だけど、キャナリー商会では魔物は扱っていない。
今回の事を調査する時にリベルに聞いたら『魔物は、ティマ―にしか需要があらへん。売れるまで飼育していたら大赤字なる。しかも、逃げられでもしたら、賠償金も発生する。んな危ない橋渡れるかい』って言っていた。
……あいつ、本当に中一なんだろうか?
「た、旅の商人から……」
……何でも初見の商人だったらしい。そんな奴から魔物買うなよ。
「トール、大丈夫? 今、ヒールを掛けるね」
一息ついたのを見計らって、クレオが近づいてきた。目に涙を浮かべており、罪悪感が凄いです。
「ありがとう。でも、まだ待って。爺ちゃんの使いか国の使者に確認してもらってからにしてもらえる?」
痛いけど、この傷は動かぬ証拠だ。治療費をふんだくってやる。
何とか大きな山を乗り越える事が出来た。でも、問題はまだ残っている。
そう、フレイム家の執事だ。こいつはペボーがヘルハウンドの飼い主と知って、声を掛けている。
あの肉が動かぬ証拠だ。どうしようか悩んでいたら、ニコラと目が合った。
「トール様、この者の始末は私にお任せ下さい。さて……同じ執事として言う。小僧、覚悟は出来ているだろうな」
ニコ
「わ。私はフレイム家の事を思って」
ニコラさんで睨まれた眼鏡執事はガクブル状態。近くにいる俺まで震え上がる様な濃密な殺気だ。
「ああ、執事は仕えている家の為に動く。だから、俺の怒りも分かるよな?」
ネチネチした俺の詰め方とは違い、ストレートな脅し文句。ニコラさんを止められるのは、俺だけなんだけど、怖くて無理です。
「サ、サングエ様は将来イルクージョンに国益をもたらす才を持っています。その為なら私は悪にでもなる」
おっと、ここで眼鏡執事は必殺“国の為を想って仕方なく”カードを切った。でも、それに巻き込まれたの俺なんですけど。
「トール様は、既に多大な国益をあげているんだよ。しかも、見世物にするとは良い度胸じゃねえか。なんだったら、大事なサングエ様の為に、ここで俺とお前で死合をするか?」
ニコラさん、発音が試合じゃなく死合になってます。ここまでいったら、後には引きにくい筈。
勇気を出すんだ、俺。
「ニコラ、そこまでだ。この者の沙汰は、ルベール家当主であるお爺様が決める。こんな者の為に、お前が罰を負う事の方が我が家にとっては損失だ。しかし、俺の事も思って怒ってくれた事は嬉しく思うぞ」
勇気を出して初めてのため口。正直、めちゃくちゃビビってました。
ニコラと眼鏡執事は、同じ役職。私闘には国の法律が適用されてしまう。
「……分かりました。丁度、馬車がついた様ですね……お嬢様も来られた様です」
うそんと思って見ると、そこにいたのは、怒り心頭のお姉様。背後に鬼が見えるんですけどもっ!!
「分家の執事の分際で、私の弟に舐めた真似してくれたじゃない……これはルベール家の人間としての仕置きよ」
そう言うと姉ちゃんは眼鏡執事をぶん殴った。その威力は凄まじく、眼鏡執事は数メートル吹っ飛んだ。
お姉様は、悪役令嬢から破壊神令嬢に進化された様です。
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