反省?

 転生して分かった事……馬車って結構揺れるんだよね。

(き、傷に響く……もう少し静かに運転してくれないかな?)

 うちの馬車は俺の魔改造で振動が少なく快適である。

 でも、俺が今乗っているのはエメラルド家の馬車。造りは豪華だけど、振動対策はゼロ。

 そんな馬車になんで乗っているかと言うと……。


「トール、大丈夫?痛むよね。でも、うちの馬車なら直ぐに着くから安心して」

 顔をしかめると、クレオが心配そうにのぞき込んできた。

 そう、クレオが『トールは僕が送って行きます。貴方達に僕の大事なトールは任せられません』と言って俺を馬車に押し込めたのだ。

 俺の事を思っての行動だけに断れませんでした。


「これ位、平気だよ。でも、ありがとう」

 師匠の鍛錬に比べたら、軽傷と言っても良い。あっちは毎回死の苦しみを味わっているんだし。


「トールは強いね……でも、同じ国の人を背後から攻撃するなんて信じられない」

 クレオさん、激おこです。まあ、俺も同意見だ。しかも、止める奴いなかったし。

(イルクージョンの評価激落ちだよな)

 住民としては挽回したいんだけど、流石にフォローは難しい。


「俺も良い勉強になったよ。やっぱり背中を預けれる相手は必要なんだな」

 普通の貴族には子飼いの部下がいるんだけど、途中から貴族になった俺にはいないのだ……いても忠義には期待出来ないと思う。

(戦力的には姉ちゃんだけど、いつまでも頼る訳にいかないし……ってなるとフォルテかリベルか)

 二人共、メインキャラだから強くなれる筈。信頼はされていると思うから、二人の戦力強化も考えていこう。

 まずは今回ゲット出来る座布団で、俺自身を強くしよう。


「お話中すみません。トール様は今回の件で、いくら位の賠償金を請求されるのですか?」

 クレオのお付きのメイドが質問をしてきた。

(こんな時までテストか……挽回のチャンスって言えば、チャンスだけど)

 でも、あまり良い解答をすると怪しまれる。大事なお嬢様クレオの婚約者の正体が異世界のおじさんなんてバレたら、汚名返上どころか汚名倍増だ。

 そして肝心のクレオは何やら考え込み中……ばれて元々か。

 むしろ、伏線を貼って置いた方が得策だと思う。


「何もって言うか決めるのは国ですよ。私情で動けば、私情で返される。この場合は私怨の方が合っていると思いますが」

 飼い犬を殺しただけでも、充分恨まれている。それに加えてペポーは貴族の資格を失う筈。

 確実に逆恨みされてしまう。


「そんな……トール様は被害者ですよ?」

 メイドさんは二十代前半位、真面目な人だと思う。公爵家令嬢のお付きだから、それなりの家格の出な筈。


「人って身勝手な生き物で、恨みやすい奴を恨むんですよ。恨んでいれば、罪悪感から逃げれますし」

 例えば王様が罪を決めても、ペポーは俺を恨むと思う。もし、王様への恨み言を口にすれば、さらに罪が増えてしまう。

 そして反省もしない筈。

 昔、知り合いの爺さんが言っていた。人間は自分が悪いって言う時は、具合が悪い時だけ。心のどこかで言い訳をしているって。


「……それでよろしいのですか?少しお人がよろし過ぎかと」

 メイドさんは納得していない様だ。そりゃ、そうだ。中一に人を説かれて納得出来る訳がない。


「ペポーは、確実に貴族の資格を失います。残りは眼鏡執事……あいつは、姉ちゃんにぶん殴られましたから」

 中二の女の子にワンパンでのされたとあっては、男のプライドはズタボロだと思う。

 ……何より姉ちゃんのパンチの強力さは、俺が良く分かっている。あれはヘビー級のボクサー並みの威力があると思う。


 結果、今回の事は国と爺ちゃんに丸投げしました。

 いくら被害者とは言え、法律には口出し出来ません。

 (ヘルハウンドを二匹倒した。これなら確実に座布団をもらえる筈)

 今度こそ味噌汁をゲットするんだ。

 ワクワクしながら、修行場へ。

 

「トール、今日もしっかり修行するわよ」

 お姉様、それ以上強くなれると弟の立場が、更に弱くなるんですが。


「トール君、見事にヘルハウンドを倒しましたね。それでは今回のMVPを発表します」

 MVP?いや、ヘルハウンドを倒したのは、俺なんですけど。


「あの師匠、MVPとは?」

 いや、確かに姉ちゃんもいたけど、俺が一番活躍したと思う。


「誰が一番私を楽しませてくれたかですよ。つまり、今回のMVPはレイラさんです。レイラさんには虹の座布団をあげちゃいます」

 どや顔で宣告する師匠……忘れていた。座布団は師匠基準で決まるんだ。

その前に虹の座布団って何?


「あの師匠、虹の座布団って何ですか?」

 俺は金の座布団も手に入れてないのに、いきなり虹って。確定演出じゃないんだから。


「何でもお願いを叶えられる座布団ですよ。さあ、レイラさん何が良いです?」

 何でもって、反則過ぎませんか?……例えば日本に帰りたいとかでも、良いんだろうか?


「……それならもう一人、修行場ここに連れて来るのは駄目でしょうか?クレオが強くなりたいと願っているのです」

 何でも前からクレオは『どうすれば、お姉様みたく強くなれるのですか?』と姉ちゃんに相談していたらしい。

 いや、クレオは公爵令嬢だぞ。流石に仮死体験はアウトでしょ?


「流石はレイラさん。素晴らしいお考えです。彼女の願いは私にも届いていました。トール君、うかうかしていたら、可愛い婚約者に越されちゃいますよ」

 クレオの願い……まさか、背中を預けられる相手ってのを聞いて。

(反省しろ……強くなったつもりで、気を抜き過ぎだっての)

 クレオにとって俺の怪我はトラウマだ。あんな無神経な願いを呟いたら、クレオは俺に頼りにされていないと思ってしまう筈。


「ありがとうございます。早速、呼んできますね」

 姉ちゃんは師匠に深々と頭を下げると、修行場から出て行く。

 その言葉からは俺の何倍もクレオの事を考えている事が伝わってきた。

 ……中学生の女の子に負けてどうするんだ?良い大人が情けない。それでも男か?


「師匠、もっと厳しい修行はありませんか?」

 俺が強くならないと駄目なんだ。


「君は馬鹿ですか?自分が一人で何でも出来る天才だとでも……頼れる者をなんでも頼りなさい。お姉さんもクレオさんもゲームのキャラじゃなく、一人の人間です。きちんと向き合うのです」

 正論だ。頭のどこかで大人だと思い上がっていたのかも知れない。


「そうですよね。俺一人で出る事なんてたかが知れています。姉ちゃんやクレオと一緒に強くなります」

 姉ちゃんやクレオだけじゃない。フォルテにヴィオレ先輩。爺ちゃんに二コラさん。城の騎士にツガールの皆。俺が頼るべき人は大勢いる。


「そうです。良く気付きましたね。褒美に修行をベリーハードモードに上げて差し上げます」

 ……うそん!流れ的に違くない?小説だと赤字チェック入れるぞ。

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