誰か緑の窓口に連れて行ってもらえませんか?

 正直、嫌な予感しかしない。俺の予想だと王子達は、ヘルハウンドに関する話をしていた。

 そこに俺がサングエ君の実戦の話を持ってきたと……まじで飛んで火にいる夏の虫じゃねえか。

 だって、ヘルハウンドも火を吐くし。


「こ、高等部か護衛騎士が討伐に動くんですか?」

 当たり前だけど高等部の方が実力者も揃っている。中等部、しかも一年坊の出る幕じゃない。

 間違っても『サングエ君を連れてヘルハウンド討伐!?やってやろうじゃないか』なんて言わないぞ。俺一人でも勝てる気はしないのに、実戦経験のないサングエ君を同伴なんて無理です。


「それがな……高等部の先輩方は牧場に行くのを嫌がっているらしいんだ。色々と理由をつけて、中等部に話が回ってきたって訳さ」

 王子は、そういうと呆れたよって感じで溜息を漏らした。中学生なのに、妙に渋いです。

 溜息をついただけで絵になるんだから、ゲームのメインキャラって凄いよね。

(良く考えたら、生徒会室ここにメインキャラが大勢揃っているんだよな)

 攻略キャラの王子・ヴィオレ先輩・リベル。親友枠のクレオ。そして悪役令嬢である姉ちゃん。

 写真を撮れば広告イラストに、そのまま使えると思う。俺は空気を読んでカメラマンになります。


「な、何故でしょうか?」

 家畜に被害が出いるんだし、即動く案件だと思う。


「ほら、牧場ってお世辞にも綺麗な場所じゃないでしょ?うんちの匂いもするし、蠅もいるじゃない。それが嫌なんだって」

 ヴィオレ先輩も溜息を漏らす。こっちはアンニュイな感じで、男の色気を感じさせる。

 俺の溜息なんて哀愁しか感じさせないのに。


「国はどうなんですか?護衛騎士の皆様にお願いしてみては、いかがでしょうか?」

 うちの学校には王族や貴族の子弟が通っている。その護衛の為に国から騎士が派遣されているのだ。

 当然、実力者が多い。学園の護衛騎士をしていると、高確率で貴族にスカウトされるからだ。

 貴族の婿になった護衛騎士も少なくないと言う。


「生徒が行かへんと、護衛騎士も行きたがらないんや。アピール出来へんしな。国は『うち等の頃は、それ位自分で解決出来たで』ってスタンスらしいで」

 リベルの話では、学園内で起きた事は、学園内で解決しなさいって言うスタンスとの事。

 まあ、ジュエルエンブレム持ちが大勢いるっいうてのもあると思う。

 でも前世の『俺達の頃は、印刷に間に合わせる為に、夜中でもチェックしたんだぞ。これだから若いやつは』と同じじゃねえか。

 ジェエルエンブレムハラスメント、ジュエハラだ。


「つまり牧場が平気で、実戦経験がある。それでいて討伐の名誉をサングエ先輩に譲れる人物が……適任と。そ、そんな都合が良い人いないですよね?」

 言いながら背中を冷汗が伝っていく。だって皆の視線が俺に集まっているんだもん。


「もう、分ってたみたいね。トール君、頼めるかしら?」

 ヴィオレ先輩が笑顔で俺の肩を掴んできた。細身からは信じられない怪力だ。

 言外に断ったら『しばくからね』って意思が伝わってくる。


「トール、ヘルハウンドの毛皮と牙は貴重なんやで。倒したらうちに売ってくれ」

 リベルも外堀を埋めにきた。こんな時頼りになるのは親愛なるお姉様だ。

 横目で姉ちゃんに目線を送る……助けて、お姉様。


「フレイム家は、うちにとって大事な配下なのよ。トール、分っているわよね」

 甘かった。姉ちゃんはルベール家の家名を大事にしている。

 何故ならルベール家がある限り、家族は安泰なのだから。加えて今回は王子の願いも含まれている。

(そうだ。クレオなら俺の身を案じてくれる筈)

 一回り以上年下の婚約者に頼るのは格好悪いけど、背に腹は代えられない。

 クレオに視線を送ろうとした瞬間……。


「僕も一緒に行きたい!トールの戦う姿見たいもん。邪魔しないから良いでしょ?」

 クレオからの『トールならヘルハウンドに勝てるよね』って信頼が伝わってくる。

 皆、魔物と戦うって命懸けなんだよ。でも、ここにいる人にとって戦いは身近なものだ。

 やっぱり、ここは異世界だ。価値観が違い過ぎる。


 ◇

 なし崩し的にヘルハウンド討伐が決まってしまった。

 逃げるにしろ、戦うにしろ必要なのは情報。

 魔物辞典にアクセスする。


 魔物辞典 監修 トール君の巻き込まれ体質に腹を抱えているロッキさん

 ヘルハウンド

 早い話が火を吐く野犬ですね。犬と言っても大型犬なので、牙は鋭く力も強いです。

 火を吐けるボルゾイを想像してみて下さい。

 なんで犬が火を吐けるのかって疑問に思うでしょうが、正確に言うと体内で作った可燃性ガスを吐いているんですよ。それに牙を打ち合わせて火をつけているんです。

 いわば天然の火炎放射器。遠距離で火炎放射、近距離で牙。

 逃げても犬だから人間よりも速い。

 さあ、どうしますか?

 PS・犬だから人間に懐くなんて甘い考えは捨てて下さい。ヘルハウンドの毛皮や牙は、高値で取引先されています。彼等にとって人間は天敵。

 今回の報酬 銀の座布団一枚を予定。


 ……つまりクレオとサングエ君を守りながら敵意全開の野犬と戦えと……無理です!

 乙女ゲーなのに、俺だけハードなバトルゲームじゃん。

 日本行きのチケット、どこか売っていないかな。

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