展開が急すぎて追いつけません
この世界には基本的人権もとい基本的弟権はないんでしょうか?
「トール、ルベール領に帰るわよ」
笑顔で近づいてくるお姉様。その脇にはヘルメットを抱えていらっしゃる。
「帰るんなら馬車で帰ろうよ。バイクモード、凄い疲れるんだって」
この間なんて三日間筋肉痛が治らなかったんだぞ。トイレまでハイハイで行く羽目になったし。
「時間の短縮になるし、鍛錬にもなるでしょ。何よりバイクモードに慣れておかないと、いざって時困るわ」
お姉様、正論過ぎて反論出来ませぬ。バイクモードなら三十分位で城に戻れる。戻れるけど、最近爺ちゃんもバイクに興味を持ちだしているんだよな。
「分かったよ。そう言えばヴィオレ先輩は元気?」
あの後レイジ君は犯人捜しをしたらしい。これでブリーゼさんは死を免れたので、ヴィオレ先輩が心に傷を負う事もない。
(待てよ。もしかして、主人公はヴィオレ先輩を攻略出来なくなったって事か)
ゲームでの主人公はヴィオレ先輩の心の傷を癒す事で、恋に発展していく。サブ攻略キャラのレイジ君もブリーゼさんが生きていれば、主人公に恋する訳がない。
だってあの二人、物凄いラブラブだったし。
「元気過ぎる位よ。でもお陰で王子様に褒められちゃった」
姉ちゃんは凄く嬉しそうだ。社交界では、姉ちゃんがお妃候補の筆頭に挙げられている。
家柄、能力、美貌、性格……どれをとっても、お妃として申し分ないと思う。でも、あと一押しあれば、確実なんだよな。
姉ちゃんの弱みは外国との繋がりが薄い事だ。何しろ社交界にデビューしたのは、つい最近なんだし。
「それは良かったね。恋愛か……まあ、俺には縁がない話か」
立場的に結婚しなきゃいけないんだろうけど、相手がいない。何しろ、この世界での貴族の恋愛や結婚では、容姿が重要視されている。
伯爵家の権力で無理矢理結婚しても冷めた家庭が出来るだけだと思う。
「安心しなさい。もう少しで、その悩みは解決するから」
姉ちゃん、買い被り過ぎ。貴方の弟は前世で三十五歳まで独身だったんだぞ。
転生先が乙女ゲーで、見た目が前世と一緒なんて嫌がらせにしか思えない。
◇
前世では仕事漬けで婚期を逃した。そして今世では中学生にして仕事漬けの週末を送っています。
「作物は順調に育っているし、養蜂も問題なし……果物を植えてドライフルーツでも作るか」
貴族はスイーツを食べられるけど。庶民に高嶺の花だ。ドライフルーツなら、長持ちするし、栄養豊富だ。
領民の皆様が元気で仕事をしてくれているから、俺達貴族はおまんまが食えている。元気で長生きしてもらわなきゃ、困るのだ。
「ト―ル様、伯爵がお呼びです」
書類と格闘していると、二コラが声を掛けてきた。爺ちゃんが俺を呼び出すのは、珍しくない。だってもう実務作業に組み込まれているし。
「お爺様、及びでしょうか?」
俺は形式と礼儀に重きを置く日本人だ。公務中はお爺様と呼んでいる。
ゲームやラノベで勇者や冒険者が、貴族にため口を使うシーンがあるけど、今なら確実に赤線を引くと思う。
飲食店の従業員にため口を使うより、アウトな行為だぞ。
「ト―ル、クレオ様を覚えているか?」
クレオ・エメラルド。エメラルド公爵の息子。襲われた時にゴブリンから守った縁もあり、今も文通している。
「はい、お陰でエメラルド公爵の知己も得る事が出来ました」
公爵と繋がりが出来たお陰で作物や生活魔道具を輸出出来ている。命懸けで戦った甲斐があったってもんだ。
「クレオ様が我が国に留学される事になった。サポート役はお前とレイラが任命された。よろしく頼むぞ」
頼むぞって、家格で言えば王族や公爵家の任務だと思う。確かにクレオ君とは仲が良いけど。
「王様や王子様……他の貴族の皆様は納得されるでしょうか?」
ハイスペック令嬢の姉ちゃんなら、ともかく俺は貴族に必要な芸術系の才能がまるでないんだぞ。
「エメラルド公爵からのご指名だ。まあ、一番の理由はクレオ様に会えば分かると思うぞ」
理由?初めての友達だから?それとも竹刀を送ったからだろうか?
「分かりました。それでクレオ様はいつ我が国にいらっしゃるのですか?」
蜂蜜をたっぷり掛けたパンケーキでも、作ってやろう。
「来週の土曜日だ。住居は、王都にある我が家の屋敷に住んで頂く」
つまり公爵家のご子息が常駐すると……従業員の皆ストレスを溜めるだろうな。
◇
迎えた土曜日。爺ちゃん、母さん、父さん、姉ちゃん、俺。一族総出でクレオを待っていた。
(しかし、凄い数の馬車だな。まあ、公爵家の息子が越してくるんだし、当たり前か)
十台近い豪華な馬車が続々とやって来る。
やがて一際立派な馬車が俺達の前で停まった。
「ようこそエメラルド公爵。心よりお待ちしておりました」
最初に降りてきたのはエメラルド公爵。爺ちゃんが深々と頭を下げて出迎える。
「ルベール伯爵、止めて下さい。うちの娘が世話になるんのですよ。何より時期に、私達は親戚となるのです」
娘?親戚?頭の中がクエスチョンマークで一杯になる。
「ライラ様、お久しぶりですね。本当は高校生になってから、留学する予定だったのですが、クレオがどうしてもと聞かなくて……でも、昔の仲良くしてもらったライラ様のお家なら安心ですわ」
エメラルド公爵夫人が母さんと談笑を始める。どうやら、母さんはエメラルド公爵夫人と友達だったらしい。だから、クレオが村に来たのか。
「トール、久しぶり!会いたかったよ」
馬車からポニーテールの美少女が飛び出て来たかと思うと、俺に抱き着いてきた。
「クレオ、やめなさい。いくらトール君が婚約者と言えはしたないぞ」
この美少女がクレオ?……確かに誰もクレオの事を男とは言ってなかった。でも、婚約者って……まじ?
クレオ・エメラルド 年齢:13
ジョブ:エメラルド公爵家令嬢
髪の色:エメラルドグリーン
武器:剣
趣味:剣の鍛錬
好きなデートスポット:スイーツ店
好感度の上がる贈り物:スイーツ
ジュエルエンブレム:エメラルド ランクR オリジナルネーム・
ポリッシュ共和国からやってきた公爵家令嬢。貴女とは身分の超えた友達になります。婚約者はクラック帝国の皇子様。国と愛で揺れ動く彼女を友達として支えてあげてね。
(注)今は君の婚約者ですよ。これで独身にピリオドを打てますね。
もう一度言わせて下さい……まじ?
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