やれるだけやりましょう
……思い出すんだ、俺。ライラ・ルベールの資料には、それなりに目を通していた筈。
「さあ、こっちへ来なさい。残念ながらクレオは首都の学校に行っているが、自分の家だと思ってくつろいでくれ」
俺と姉ちゃんが案内されたのは、豪華な部屋。多分ゲストをもてなす部屋だと思う。
エメラルド城では、まさかのVIP待遇で迎えられました。確かに俺達は同盟国の貴族だ……でも、突然押し掛けたのに、なんでこんなにウエルカムなんだ?
(待遇的には身内に対するそれだ。父さんがエメラルド公爵の親戚だったとか?……それはないな)
もし公爵と親戚なら母さんと結婚しても問題は発生しなかった筈。何よりレイラ・ルベールは、全てに見放され死んでいく。もし、エメラルド公爵とうちが親戚ならポリッシュ共和国に逃げていた筈。
……となると、俺が原因?確かに
「お気遣い頂きありがとうございます。それでファング伯爵家に手紙を届けて頂く事は出来るのでしょうか?」
姉ちゃんがエメラルド公爵に質問した。確かにファング伯爵に手紙が届かないと、ブリーゼさんに会う事は不可能。
「領地が隣り合っているから、それなりに交流があるので大丈夫だよ。私もブリーゼさんの事を心配していたから丁度いい」
心配か……隣領で付き合いがある。つまりエメラルド公爵は、ブリーゼさんに関する何らかの情報も持っているんだと思う。
「それを聞いて安心しました。ヴィオレ様もブリーゼ様の顔を見れば安心されると思います」
果たしてそうだろうか?手紙が届かなくなった事、エメラルド公爵の心配……嫌な予感しかしません。
「今、お茶でも持って来させるので、レイラさんはゆっくり休んでいなさい……トール君、一緒に来てもらえるかい?」
公爵様、俺が一番疲れているんですが……でも、公爵様の目はマジだ。
「分かりました。少しお伺いしたい事もありますので」
中一の振りをして、ブリーゼさんの情報を聞き出そう……俺の心配が杞憂で終われば良いんだけど。
◇
ヘイ、ツリ。俺の今の状況を教えてくれないか?……なんで公爵家の執務室に連れてこられたんでしょうか?
「トール君……いや、トール殿。ルベール伯爵から君の事を良く聞いている。既に政務に携わっているそうじゃないか……ブリーゼさんの件どう思う?」
公爵が試す様な目で問い掛けてきた……爺ちゃん、前世の件は書いてないよね?
「一つお伺いしてもよろしいでしょうか?公爵が心配なされているという事は、ここ最近ブリーゼ様は公務に顔を出されていないんでしょうか?」
伯爵の妻ともなれば、公務に忙しい。活動していたら、公爵の耳に入っている筈。
「ああ、ここ数か月公務に出たと言う話を聞いていない」
ブリーゼさんは、公務に出ていないのか?それとも出られないんだろうか?
「もう一つお伺いしてもよろしいでしょうか?ブリーゼ様はファング伯爵家で孤立されておりませんか?」
遠く離れた国に嫁入り。姿が見えないのに、情報は出てこない。小説とかだと最悪のパターンだ。
良くあるのは、第二婦人や他の女に夢中になっているパターン。でも、伯爵は浮気が出来ない。そうなると問題は第三者にあるって事になる。
「……伯爵はブリーゼ様を大事にされているよ。なんで、そう思ったんだい?」
伯爵は……か。公爵いわくファング伯爵は妾の類がいないそうだ。浮気が出来ないから、そう見えるんだろうか?
「ブリーゼ様が嫁いで四年になります。しかし、ご懐妊の話は聞こえてこない。周囲の目が厳しくないか心配でして」
日本だと大荒れになりそうだけど、ここは異世界でファング家は貴族。いくら建前で美しくって言っても、裏は違う。
ましてやクラック帝国は、他国で罪を犯している。それを正当化するには、イルクージョンやポリッシュ共和国を悪者にする事。いわゆるプロパガンダってやつだ。
「本当に君はクレオと同い年なのかい?……君の想像通り、伯爵はブリーゼ様を愛しているけど、家中の者は違うそうだ」
……伯爵は離縁が出来ない。でも、家中の人間はブリーゼさんを敵対視している……やばい情報しか出てこないんですが。
「もしブリーゼ様とヴィオレ様が会うとなると、どこになりますか?」
今の政情から大っぴらに会える可能性は少ない。それにブリーゼさんの体調がすぐれないなら、遠出は出来ないと思う。
「我が領とファング家の領と隣り合っている場所に砦がある。そこで会う手筈を整える」
うん、事前に準備をしておいて良かった。
◇
寝た。久し振りにぐっすり寝ました……なんか魔力が増えている気がするんですが。
(バイク魔法で限界まで、魔力を使ったから増えたんだろうか?)
魔力にも超回復があるんだろうか?
「トール、おはよう。ブリーゼさんと会う日が決まったわよ。明日の昼だって」
エメラルド公爵から願いを伯爵家でも無下に出来なかった上に、ファング伯爵も乗る気だそうだ。
(まさかブリーゼさんの容態が、深刻で最後に一目だけでもって奴じゃなないよな)
「分かった。姉ちゃんって髪結える?」
俺はイルクージョンでも少ない短髪派なので、結える気がしない。
「安心しなさい。ヴィオレをファング伯爵家も認める様な、少年騎士に仕立ててみせるわ」
クラック帝国は質実剛健を尊ぶ軍事国家だ。男の長髪は受けが悪い。
「後はヴィオレ先輩に話を通しておけば、突っ込まれる心配はないか……」
他に買っておく様な物は……待てよ、ここならあれを買っておいても怪しまれない筈。
◇
やばい、やばい、やーばーい。予想は当たっていたけど、がちでやばいぞ。
「ヴィオレ、こんなに立派になって……お姉ちゃん嬉しいな」
そう言って微笑むブリーゼさん。でも、その笑顔は痛々しい。前に会った時は優しい美少女だったのに、今は見る影もない位やつれていた。しかも、かなり顔色が悪いです。
無事にヴィオレ先輩とブリーゼさんは面会出来たし、男装?ヴィオレ先輩も受けがいい。
事前に買っておいた地味な服も似合っているし、姉ちゃんが結った髪も良い感じだ。
問題は……
ブリーゼ・ファング 年齢:20
ジョブ:ファング伯爵家夫人
髪の色:くすんだ紫
武器:使用不可
状態:衰弱(毒)
故人……ヴィオレ・アデールの姉にしてファング伯爵夫人。敵国から嫁いできた嫁として、ファング伯爵家ではぞんざいな扱いを受けていた。彼女の死は、ヴィオレの心に大きな傷を残します。彼の心を癒せるのは貴女だけ。
そんな爽やかな文章で語られる状況じゃないぞ。どう見ても毒を盛られているじゃん!
「話が終わったら呼べ。俺は、外にいる」
そして無愛想の塊の様なイケメン。冷徹な武人って感じです。
レイジ・ファング 年齢:21
ジョブ:ファング伯爵家当主
髪の色:白
武器:長剣
氷の武人の異名を持つクラック帝国の軍人。ストイックさと、たまに見せる笑顔が魅力。
ヴィオレ・アデールの義兄。愛した妻を亡くし、悲しんでいる。貴方の温かさで、彼の氷を溶かしてあげて。
……チェックしいていた時はスルーしていたけど、中々ドロドロした文だよね。
(毒か……何の毒か特定しないと……待てよ)
この為に師匠が教えてくれたのか。
「ヴィオレ先輩、ブリーゼ様の体調が優れない様なので、回復魔法を掛けておきますね」
全魔力を総動員して消毒魔法を掛ける。かなり毒が回っているけど、魔力が増えた今なら大丈夫な……筈。
「トール、私もやるわよ……本当にこの子は、直ぐ無茶するんだから」
気を失いそうになった時、姉ちゃんも消毒魔法を掛けてくれた。
「凄い……何も苦しくなくなった……レイラさん、トール君ありがとう」
無事、毒は消せた。でも、これで終わりじゃない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます