狐につままれているのでしょうか?
行き先がエメラルド領だと聞き唖然としているヴィオレ先輩。ちなみに俺は行き先が確定して絶望しています。
「行くって、どうやってよ?馬車でも四日は掛かるのよ」
馬車の場合は野を超え山を越え、さらに大きな川を渡らなきゃ行けないので最低でも四日は掛かる。
「大丈夫よ。一日で着く方法があるから、ト―ル変身しなさい」
でも、俺のバイク魔法は殆んど直進で進む。何より馬より確実に早い……問題は二人を乗せて長距離は確実にきついって事だ。
「良いけどさ、先輩にも予定があると思うんだ」
でも、行けば先輩のポイントを稼ぐ絶好のチャンスだ。何かあったら、ヴィオレ先輩は俺達の味方になってくれる筈。
人目がないのを確認してバイクに変身する。
「ト―ル君が鉄の塊に変わった?何がどうなっているんだよ」
驚きのあまり、男口調になるヴィオレ先輩。確かゲームでも、怒ると男口調になる設定だった。
「バイクっていう魔道具よ。馬より早いし、専用の道を走れるから時間を短縮出来るわ……ブリーゼさんが心配なんでしょ?さあ、乗りなさい」
そう言うと姉様は、俺に華麗にまたがった。爽やかで格好良いけど、弟はテンションが上がりません。
「分かった……お願いするわ」
ヴィオレ先輩は何かを決心した様に頷くと、俺に乗ってきた。もう、走るしかないよね
◇
……元校正として、心配になってきた。姉ちゃんスペック高くなりすぎて、物語りが破綻しまくるんじゃないでしょうか?
(車体に負担を掛けない滑らかなコーナリング。まだバイクに乗って数日だよね)
自分自身がバイクになったからだろうか。姉ちゃんの運転技術の高さが分かる。
剣技は騎士を凌駕し、魔法は全属性使える。マナーは完璧で、成績優秀。
性格は面倒見が良くて、友達も多い。
転落する要素、皆無だよね。今の姉ちゃんなら主人公に意地悪しないと思うし。
「一回、停まるわよ。ヴィオレ、大丈夫?」
想定より早く停まったと思ったら、ヴィオレ先輩の体調を心配したらしい。ヴィオレ先輩はバイクどころか車にも乗った事がない。このスピードは初体験だと思う。
「……前から非常識な姉弟だと思っていたけど、ここまでとはね」
姉、万能伯爵令嬢。弟、転生者……確かに非常識だと思う。
「そう?でも、この事は秘密にしておいてね」
それは俺からもお願いしたい。バイク魔法がばれたら、国に軟禁されかねない。
「あれを見たら、そんな事出来ないわよ……本当に大丈夫なの?」
ヴィオレ先輩の視線の先にいるのは、多分俺だと思う。自分でもひく位、呼吸が荒い。
酸欠で頭の中が真っ白になっている。
「息が整ったら、ヒールを掛けるから大丈夫よ……ト―ル、水を飲みなさい」
姉ちゃんが水筒を手渡してくれた。なんとか息は落ちついたけど、まだ半分も行っていないと思う。
「きっつ……とりあえずポリッシュ共和国には入ったみたいだね」
スマホで現在位置を確認する。今はポリッシュ共和国の国境付近だと思う。これから国を横断しなくてはいけない訳で……ヴィオレ先輩には言えないけど、目の前が真っ暗になる。
「もう?私の所からだとニ日以上かかるのよ……それにしても不思議な空間ね。本当に亜空間なの?第一、こんな大規模な亜空間なんて聞いた事もないわよ」
目の前に広がっているのは平坦な道と果てのない草原。そして清んだ青空。
師匠は、バイク魔法の為にこの空間を創ったって事になる……まじで、あの人は何者なんだ?
「そこは秘密。ト―ル、動けるでしょ?」
うん、ちゃんと回復したよ。でも、なんで分かるの?
◇
頑張った。おじさん、超頑張った。現在夜の八時、なんとかエメラルド公爵領に到着。
(きちんと夜空になってら。現実世界の時間と連動しているか?)
もの凄いとんでも仕様なんですが。
「なんとか着いたね。ト―ル、ご苦労様」
絶対明日は筋肉痛だと思う。滞在期間伸ばせないかな。
「それでこれから、どうするの?」
こんな夜中に城を訪ねたら、良い迷惑だ。
「とりあえず野営をして、朝一で書状を届けてもらうわ。ト―ル、準備するから物をだして」
いやいや、伯爵家の書状だよ?授業中に回す手紙じゃないんだから。悪用されたら大問題だぞ。
「分かったけど、どこに届けてもらうのさ?」
きちんと手続きを踏まないと、途中で破棄されてしまう。身分を証明できる物なんて持ってないんだし。
「どこって……お城よ」
ないわって、無理でしょ。ここはヴィオレ先輩も味方に引き入れよう。
「確かにエメラルド公爵のお城なら問題ないわね」
先輩まで、どうしたんですか?身内でもない限り無理ですよ?
なんでも姉ちゃんは爺ちゃん達に
『最近ヴィオレ様が元気を無くされております。原因は、ファング伯爵に嫁いだブリーゼ様の事だと思われます。丁度、ト―ルが新しい移動魔法を覚えました。ですのでエメラルド公爵のお力をお借りし、ブリーゼ様に連絡を取ってみようと思います』
そう言ったらしい。普通信じないと思う。俺もこの展開が上がってきたら、赤字で訂正する。でも、この世界の人間は魔法を絶対視する。それに加えて、俺が色々やらかしたので、ト―ルなら覚えてもおかしくないって許可したらしい。
「誰に届けてもらうのさ?こっちに伝手なんてないでしょ!」
抗議をしながら、野営の準備をしていく。姉ちゃんはともかくヴィオレ先輩は、がちのお坊ちゃまだ。野営の経験何てない筈。
「クレオちゃ……君に毎月手紙を出しているでしょ?エメラルド公爵領には我が家の配達人が常駐しているのよ。貴方も訳の分からない物を色々送っているじゃない」
この世界には宅配業者どころか郵便制度すらない。だから懇意にしている貴族間で連絡役を置く事は珍しくない……けど、うちとエメラルド公爵家って、そんなに仲が良かったっけ?
ちなみに、この間は我が家で作った薬と蜂蜜を送りました。
夜、星空を見ながらヴィオレ先輩と色々な話をした……そういう事だったのか。
◇
朝一で城門に到着。名前を告げると、あっさり入れてもらえたました。配達人に伝言を頼むと快く了承してもらえたし……なんでだ?
(へー、銭湯を導入してくれたんだ……ト―ル様考案って、まじかよ?)
銭湯の看板にト―ル・ルベール様考案とデカデカと書かれていたのだ。
「お嬢様に坊ちゃま……伯爵からの手紙を読みました。どうぞ、こちらへ」
配達人さんは俺達の顔を知っているらしい。おかしい、なんでこんなにあっさり進むんだ?俺はクレオ君の友人兼命の恩人だけど、スムーズ過ぎる。
(喫茶店とか、どこかで待機。それから城の騎士と面会して、連絡を取ってもらうって流れだろうな……嘘だろ?)
「ト―ル君、良く来たね。活躍は聞いているよ。嬉しく思う。まさかのその年で、移動魔法まで覚えるとは……クレオも喜ぶに違いない」
案内されたのは、お城。出迎えてくれたのは、エメラルド公爵でした。
誰か何がどうなっているのか、教えて下さい。俺、狐につままれているんでしょうか?
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