新人騎士も救え?

 カヤブールの乙女、舞台になるのはイルクージョン王国。

 平民生まれの主人公は、ジュエルエンブレムが顕現した事により、王族や貴族の子供が通う王立高校に進学。

 そこで王子を始めとする様々なイケメンと出会い、恋に冒険に大活躍していく。カヤブールの乙女は、乙女ゲーだけあり、男女共に美形しか出てこない。舞台になるのは、貴族の世界なので美麗で華やか……。

(今の俺だけ見たら、誰もカヤブールの乙女の世界に転生したなんて思わないだろうな)

 ただ今ぼろい野良着を着て、畑仕事をしています。


「貴族様が来るって聞いたけど、随分と畑仕事が上手いな。見た目もあれだし、坊主、お前身代わりかなんかだろ?」

 農夫のおじさん……いや、映画俳優ばりに渋くておじ様と言いたくなる人が笑いながら話し掛けてきた。


「そこは秘密って事でお願いします」

 俺は前世で日本人だった。名前は赤石徹三十五歳独身。今の名前はト―ル・ルベール十三歳、身分は伯爵の孫。まごうとなく貴族様です。


「坊主、それは無理があるぞ。はー、領主様は俺達を見捨てたんだな」

 農夫のおじ様が深い溜息を漏らす。ここの農地はオークの被害に遭っている。そこで俺に白羽の矢がたったのだ。

 でも、おじ様は信じてくれないと思う。この世界は乙女ゲーだけあり、住人の七割近くが美形なのだ。王侯貴族となると、美形率99%と言っても過言ではない。


「オークが出てきたら、騎士様が守ってくれる手筈になっていますので安心して下さい」

 鍬を振いながら、土を耕す。王侯貴族の中でも美と愛の女神アムールの加護を受けた者にだけジュエルエンブレムが発現する……つまり見た目モブな俺が貴族でジュエルエンブレム持ちだと言っても信じてはもらえないのだ。


「それを身代わりって言うんだよ。でも、飯ありがとうな。久しぶりにまともな飯を、子供達に食べさせる事が出来たよ」

 心配性な母さんが三食分位持たせてくれたのが、功を奏して子供達はお腹いっぱいになれたらしい。

(でも村にはまだお腹を空かせている子がいるんだよな……為政者失格ってレベルじゃねえぞ)

 現代人の感覚で言えば、教会より住民が優先だろと思うんだけど、この世界では違うらしい。


「オークは鼻が良いですからね。フルアーマーを着ていたら、警戒して近づいて来ないんですよ……離れて下さい」

 人間の物とは思えない大きな足音が近づいてきた。良く聞くとスキップしていやがる……お気に入りのカフェに行くOLかよっ!


「今日は芋食おうぜ。昨日オールしたけど、まだいけるっしょ」

「この間食ったキャベツ美味しかったよねー。キャベツって美容にも良いんだって」

「玉ねぎも食べごろだぞ……ここの畑星3はあるよな。今度、女子連れて来ようぜ」

 見た目はオークなんだけど、会話内容がチャラい。パリピな大学生かと思ったぞ。

 オークは全部で三体。

 オーク1 馬鹿でかい剣を持っている。

 オーク2 馬鹿でかい棍棒を持っている。

 オーク3 一番でかくて、ごつい。自信があるのか素手だ。


「はい、ストップ。お前等、もう出禁だぞ」

 アイテムボックスに武器は入っているけど、無手でオークの前に立つのって、かなりビビります。


「おい、足が震えてるじゃん。だせー」

 オーク1が笑うと、2と3も笑い出した。


「おいおい、可哀そうだって。泣いたらどうすんだよー。ねー、僕ちゃん」

「俺等に楯突いたんだ。餓鬼だからって、容赦しねえぞ!」

 ……この世界のオークって煽りスキル高過ぎない?なんか、居酒屋でDQNに絡まれた時思い出すんですけど。


「醜いオークめ。お前等の相手は俺達だ……ジュエルエンブレム顕現!」

 騎士の兄ちゃん達が馬車から飛び出してきて、俺とオークに前に割って入って来た。

(あれがジュエルエンブレム?米粒位の大きさしかないよね?)

 色も濁っており、高く見積もってもDランクだと思う。


「くらえ、正義の一撃……俺の剣が効いていない?」

 うん、だって君が斬ったのは分厚い毛に覆われた腕だもん。分厚い毛+丸太みたいに太い腕を斬るのって至難の業だぞ。


「おい、痛いじぇねーかっ!」

 オーク3が騎士Aをぶん殴る。そして騎士Aは、あっさり気絶。


「おのれ、卑怯な……でも、俺は負けない。喰らえ、友情の……ぶへぇ」

 騎士Bも、オーク2にあっさり倒された。どこが卑怯だったんでしょうか?

(卑怯って、こういう事を言うんだけどな。最初に倒すのは、あいつだ)

 無言でオーク1の体毛に乾燥魔法を掛ける。


「今度は俺が相手だ。まさか、俺みたいな餓鬼相手に三人掛かりなんて言わないよな」

 オーク1の前に立って、挑発する。今の流れで三対一はない筈。


「俺達が食い物を選んでいるから、お前も餓鬼を殺して直ぐ来いよ」

 そう言うと、オーク2と3は畑に向かって行った……これでなんとかなる。


「そんじゃお言葉に甘えて……ストーンバレット!」

 もちろん俺のストーンバレットじゃ、オークにダメージを与えれない。


「うざっ!こんなの効かねーよ……おい、もう魔力切れかよ。ただの石が俺に効く訳ねーだろ」

 オーク1は剣で石を防いでいる。今がチャンスだ。アイテムボックスから油入りの竹筒を取り出し、オーク1に投げつける。


「こんな物、斬れば問題ないっての……油?」

 狙い通り、オークは油まみれに。


「それでもって着火と……体毛が多いから、良く燃えるねー」

 ついでに、その辺にあった可燃物に乾燥魔法を掛けてなげつてやる。息はあっても、あそこまで燃えれば、しばらく動けまい。


「小僧、次は俺が相手だ!」

 向かってきたのは、オーク2。アイテムボックスから鉄の剣を取り出す。


「出でよ、ジュエルエンブレム!人工ルビー、顕現!」

 別に言わなくてもジュエルエンブレムを出せる。でも、少しでもオークに警戒させられる様に厨二チックな良い方にしました……昔なら出でよと顕現は同じ意味ですって、赤線を引いていたと思う。


「……さっきの奴等よりはましだな」

 オークが棍棒を構える……棍棒っていうより、殆んど丸太だ。

(身体全体を魔力で覆って……今だ)

 身体を屈めなら、オークの懐に飛び込む。


「くらえっ……やっぱり、分厚い筋肉だな」

 毛並み沿いながら、オークの胸を斬りつける。感触からしたら体毛と皮膚しか切れていないと思う。


「そんなじゃ、生き物は殺せないぜっ」

 オーク2が俺目掛けて丸太を振り下ろしてきた……反射的に剣で受けてしまう。

(潰れていない?……てか、姉ちゃんの剣より軽いぞっ)

 そのまま弾き返して、剣を収納。電流符を張り付けた銅の槍を取り出す。


「いくら分厚い筋肉があっても、心臓近くで電流が流れたらただじゃ済まないよなっ!」

 銅の槍をさっきつけた傷に突き刺す。そのまま電流を流していく。微弱な電流だけど、心臓の側に流れれば、無事で済む筈がない。

 オーク2が、無言のまま倒れる……頼む、3は逃げてくれ。

 電流作戦は、もう通じない。槍をしまって、剣を取り出す。


「おい、こっちを見な。こいつ等はお前の仲間なんだろ?」

 オーク3の声がしたので、見てみると騎士を人質に取っていた。

(見捨てて逃げるか……でも、師匠はイケメンも救えてって言っていたしな)

 それにあいつ等は、ある意味ジュエルエンブレムや貴族社会の被害者だ。見捨てたら、心が痛む。


「いや、今朝会ったばかり……ついでに言うと、俺を小馬鹿にしてきたムカつく餓鬼って印象しかないけど」

 ついでに、この領地も俺とは無縁。無茶振りで来たクエストなんだし……二体も倒せば義理がたつと思う。


「……くっ、このまま帰ったら、群れに入れてもらえない。お前等、皆殺しだっ!」

 群れで生活していたら、仲間を見捨てて帰り辛いか。今回の問題の根幹は人間側なんだし。


「こうなりゃ、一か八かだっ……あれ?」

 破れかぶれでオークに斬りつけたら、あっさり両断してしまった……もしかして、俺思った以上に強くなっているのでは?

 それとも、あのオークは弱い個体だったとか?

 良かった。とりあえず、死なないで済んだ。怪我もしていないから、姉ちゃんに怒られる事もないと思う。


「あの……厚かましいお願いなのは、分っています。一体で良いので、オーク討伐の手柄を譲ってもらえませんか?」

 気絶から目を覚ました騎士が懇願してきた。彼もオーク同様、帰属する集団に戻る為には手柄が必要なんだろう。


「お願いだっ。このままじゃ、騎士の資格を剥奪されてしまう」

 もう一人の騎士も泣きながら、頼んできた……普通の中学生なら情に流されているかもしれない。


「やめておけ。それをやったら、お前等は上にオークを倒せる人材だって認識されるんだぞ。見栄の為に、死ぬ年じゃないだろ」

 おっさんモードで二人に話し掛ける。いや、これはおじさんの心からの願いだ。若い子には人生を棒に振って欲しくない。


「だったら、どうしたら……神殿建設にも関わられず、このままなら、カビパン食いになってしまいます」

 この世界には資格がないから転職はかなり難しいと思う。騎士として育てられた彼等は、他の生き方を知らないんだと思う。


「上には“俺がオークと戦っている間,領民を守っていました”って言っておけ。後は自分で何が出来るか考えろ。スキルや作戦を組み合わせて勝つ方法を模索すれば良いんだよ……とりあえず、火傷オークにとどめをさしてみな。経験値が入ると思うぞ」

 新人に仕事を教えていた時を思い出す。


 ◇

 オーク討伐を報告して、その日の内に王都にトンボ帰り


「ト―ル、お帰りっ。怪我とかしていないよね?」

 姉ちゃんが屋敷の前で待っていてくれた。


「姉ちゃん……オークよりチュウノウさん達の方が強いよ。僕達、自分思っているより強くなっているかも」

 少なくとも、姉ちゃんの方がオークより腕力があると思う……口には出さないでおこう。


 屋敷に入ると同時に脳内にクエスト達成の声が響き渡る。


 クエスト オークを倒せ 報酬銅の座布団 九枚

 隠しクエスト 達成 騎士を救え 報酬 銀の座布団二枚 追加アプリ実装

 まじ?

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