巻き込まれてクエスト
……ここって乙女ゲーの世界だよね。なんかエロ漫画が混じってきたんですけど。
「ニコラさん、これマジですか?」
例の魔法研究会の件をニコラさんに調べてもらったら、とんでもない報告が上がってきました。
「ええ、魔法研究会の顧問と部長は男女の関係にあります」
顧問は魔法学の先生でもある。ザント・シュタイン、年は二十二歳……いくらなんでも中学生はアウトだろ。しかも相手はジェイド伯爵の姪っ子だぞ。
「二人は親同士が決めた婚約者。でも顧問はジュエルエンブレムが出現せず、婚約は解消」
焼け木杭に火がついたら、周囲を巻き込む大火になってしまったと……王子様まだ中学生なんだぞ。こんな昼ドラみたいな話を伝えられるか!
「ザントは外務大臣の息子です。母はクラック帝国の出身。その縁もあり、高校卒業後クラック帝都大に留学しております」
経費ちょろまかしから、国際問題に発展しました。
「クラック帝国ですか。なんか嫌な予感がしますね。ザントが何に金を使っているか調べて下さい。後、爺ちゃんにも報告をお願いします」
流石にクラック帝国の名前が出てきたら、俺一人では無理だ。
「ここ数年大人しかったんですけどね。トール様、どう思われますか?」
俺が持っている異世界の知識や価値観は、かなり重宝されているらしい。なにしろこの世界には記録媒体や情報が少ない。自然と同じ着眼点になってしまうそうだ。
「前回の襲撃はデータ集めだったのかも知れませんね。だから使い捨てに出来る人材を使った。あんな研究国民には言えませんし、ここ数年は密かに実験を進めていた、そんな所だと思いますよ」
クラック帝国は独裁国家だ。でも臭い物には蓋をしきれない。帝国の威信を保つ為、地下で研究を進めていたんだろう。
「分かりました。それで書類の方は、どうされますか?」
問題はどこまで王子に報告するか。そして何を以って解決とするかだ。
◇
ネットが欲しい。アマ〇ンや楽〇があれば値段比較も楽に出来たのに。
今回は必要とされていた備品がいかに高く安い代用品があるかを伝える為、実際に店に行き値段を調べ一筆書いてもらった。
部費として使える予算、各部の人数と実績を資料として添付。そして年度毎の部費を折れ線グラフにして完成。
これなら一目で魔法研究会が高額な部費を請求しているかが分かる。数字相手にまやかしは通じないのだ。
「会長、書類に目を通してもらえますか?」
今回のみそは全否定するのではなく、安い物で我慢しろっていう事。そしてあえてクラック帝国には触れないでおく。
「……流石だね。限りある予算だ。各部に公平に配分されるのが正しい。誰かこれを職員室に持って行って」
会長は王子様だけあって自分で持って行くっていう考えがない。でも、これはチャンスだ。
「俺が行きます」
この書類は結構やばめの物だ。中学生に持たせる訳にいかない。なによりザントが、どんな奴か見てみたいし。
「トール様、ご同行します」
生徒会室を出るとニコラが声を掛けてきた。普段、俺は執事を連れず一人で行動する。
「ニコラは心配性だな。ここから職員室まで直ぐなのに」
でも今回は相手が相手だけに、ニコラが護衛としてついてきている。
「伯爵からのご指示ですので、我慢して下さい……トール様、面白い事が分かりました。ザントは私費でメイドを雇っております」
ザントは実家を出て、一人暮らしをしている。教師の給料じゃメイドは雇えない。
「そのメイドの出自は不明なんだよね。勤務形態は通いか……そしてザントの生活は慎ましいと」
そうなると流用している金を何に使っているのかが、問題になる。
「そのグラフを見れば分かると思うけど、ザントが魔法研究会の顧問になってから予算が急激に上がっています。あまり下手に藪をつつくと蛇じゃなく、ドラゴンが出て来そうですね」
俺が囮になるのが手っ取り早いんだけど、許可下りるかな。
「元婚約者の為に、国を裏切る。まるで恋愛小説ですね。トール様は小説に関わる仕事をされていたと聞きましたが、どう思われますか?」
これは難しい質問だ。校正はストーリーの矛盾は指摘出来るけど、展開には口出しを出来ない。それは編集さんの領分だし。
「現実もそうですけど、物語は誰の視点で見てもらうかで変わるんですよ。後は購買層が、どの年代かにもよりますし……悲恋の物ならオッケーなんですけどね」
為政者サイドとしては、かなり厄介なストーリー展開だ。この話の肝はイルクージョン王国のジュエルエンブレム偏重政策にある。
悲恋物なら主人公になれるけど、内政物なら迷惑なお坊ちゃまでしかない。
「トール様は、ご自分の婚約者を大切にして下さいね」
婚約者が出来たら、そうするけど相手の年齢によっては犯罪臭しかしないぞ。
「俺より姉ちゃんが先ですよ。ジュエルエンブレムが、出現してから申し込みが殺到しているんですよね?」
ジュエルエンブレム持ちなら平民でも貴族と結婚出来る。姉ちゃんは家柄良し、見た目も良し、才能も良し、性格も良し、な完璧超人状態だ。
「伯爵もお断りするのに、苦労しているみたいですよ」
爺ちゃんに命令出来るのは、王族しかない。その筆頭は王様つまり王子のパパだ。
「失礼いたします。トール・ルベールです。会長から書類を預かってきました」
……そう来たか。ザントは眼鏡をかけた真面目そうな優男だった。あの手は追い詰めると暴走しかねない。しばらく泳がす方が吉だ。
◇
ここは乙女ゲーな世界の筈。俺だけハードモードなRPGに放り込まれていませんか?
「トールさんはジュエルエンブレムをお持ちなんですよね。同じ生徒会のよしみでオークを退治してもらえませんか?」
俺に無茶振りをしてきたのは神官長の娘。なんでも領地である農村にオークが出て困っているのだとか。
「流石にそれは無理じゃない。第一筋が通らないわよ」
ヴィオレ先輩がかばってくれるけど、いくえらでも詭弁は通じる……だって、どう考えても俺への嫌がらせなんだし。
「分かりました。お受けします」
断る事も出来るけど、そうもいかない……だって頭の中でクエストを受託しましたって響いたんだもん。
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