悪い話には縁があります
生徒会に入って四日経った。そして分かった事がある。
「会長、魔法研究会が部費の増額を要請してきてますが……」
副会長が王子に嘆願書を手渡す。
生徒会の主な仕事は三つ。学校行事の運営・生徒の意見の取りまとめ・学校生活のルール作り。
行事の運営は、各委員会や学校側と話し合って行う。
規則作りは問題が見えた時、学校側と話し合い落としどころを見つける。そして新しいルールを発表。あくまでルールだから罰則はない。
校舎が汚くなっているから、清掃に努めて下さい。ゴミはごみ箱に捨てましょうってポスターを貼る位だ。
「頑張っているみたいだし、良いんじゃないかな」
問題は生徒の意見の取りまとめ……
あそこだべりながら、お茶飲んでるだけだぞ。
◇
中学生になっても変わらない事がある。週末は領地に帰り、仕事の進捗をチェック。あがってきた書類をチェックして、必要なら現場に顔を出す。
(もう少し馬車を改良して、平日でも帰って来られる様に出来ないかな)
このままだと、新規事業を立ち上げるのが難しい。
「お爺様、ただ今戻りました」
城に戻ってきたら、直ぐに執務室へ行き王都で見聞した事を報告している。
「お帰り……レイラと共に生徒会に入ったそうじゃないか。
ゲームのメイン攻略キャラだけあり、才色兼備のパーフェクト人間だ。象徴としては、非の打ち所がない。
「個人の才能は万能ですね。しかし、少しお人が良すぎるかと」
今は政治的に安定しているから良いけど、数年後にはクラック帝国と戦争になる。今の王子様だと少し不安だ。
「お前もそう思うか。王子様は、文武共に秀でた才能を持っておられる。そして誰にでもお優しい性格で、何も手が掛からなかったのさ。その所為で叱られる事もなかった……トール、お前に頼みがある」
国が滅びる原因は色々ある。天災に戦争。
王が残忍で、謀反が起きるパターン。逆に人が良すぎて佞臣に好き勝手されて滅びるパターンもある。
王子は人格者で、才能も凄い。しかし良過ぎる環境で育てられた所為か、人を疑う事を知らない様だ。
「王子様に人を疑う事を教えろと?」
いや、その役危険過ぎるぞ。『武士道は殿に讒言して死を賜るのが、最高の誉れ』なんて言葉があったけど、俺にはそこまでの義理はないし。
「話が早くて助かる。あの方は英傑だ。一つの事でも違う見方を示せば、自ずと成長なさって下さる」
(ゲームでは、今のまま高校生になったのか……あんなのだから、婚約破棄が出来たのか)
貴族になってから色々と勉強した。そして分かった事。貴族の婚約は家と家との契約。
だから、個人が勝手に破棄する事は出来ない。
ましてや『庶民の娘と結婚したいから、結婚はなしね。その子に色々意地悪したお前が悪いんだじょ』は完璧にアウトなのだ。
そんな事をしたら他国からの信頼を失ってしまう。
ふと思った。俺にも婚約者が出来るのだろうか?顔で婚約破棄ってないよね……貴族になっても独身でしたなんて笑えないぞ。
「しかし周囲の取り巻きがうるさいですよ」
讒言されて数週間で生徒会を首なんて笑えない……待てよ。
姉ちゃんが悪役令嬢になる危険性はなくなった。プラス王子様も育成すれば、滅亡エンドを防げるのではないだろうか?
まず婚約者のいる王子に近づく事自体がアウトだ。そんな奴に妃を任せられない。色々提言して物の裏を見る力を養ってもらえば良いんじゃないか?
「心配するな。アデール伯爵とも話はつけてある」
だからヴィオレ先輩がスカウトに来たのね。
「でしたら、お願いがあります」
元リーマンの書類作成スキル&根回し術を見るがいい。
◇
嘘だろ。あいつ等、どんだけ面の皮が厚いんだ?
「魔法研究会から備品が破損したとの事で、購入伺いが届いています」
王都に戻ったら、お代わりが届いていました。
「王子、後学の為トール君に書類を作らせみてはいかがでしょうか?」
頭を抱えながら溜息をもらしていると、ヴィオレ先輩が助け舟を出してくれた。
ヴィオレ先輩と王子は同い年なので仲が良い。流石に王子と話す時は、男性口調で話す様だ。
ちなみに書類作成云々は俺が爺ちゃんにお願いしたのだ。王子の様な人間には、言葉じゃなく文字や数字にした方が伝わりやすい。
「それは良いアイディアだ。トール君、頼めるかい?」
アイドル顔負けの爽やかな笑顔で頼んでくる王子様。これは姉ちゃんが惚れるのも分かるわ。
王子から離れた所へ移動。書類の隅から隅までチェックする。言っても相手は中学生だ。元校正の目を欺ける訳ない。
「お任せ下さい……おーい、リベル、この値段合ってるか?」
添付された請求額が不自然なほどに高い。幸いな事に購入先はリベルの店だ。
「ちょと見せてみい……随分と高い実験器具を選んどるな……なんや、これ?菓子と茶葉が実験材料で上がっとるやないか。しかも、こんな高いお茶、貴族でもよう飲まんで」
流石は商人。値段をきちんと把握している。
添付されている領収書にも改ざんの後が見られたので、メモでチェックを入れておく。
「姉ちゃん、魔法研究会って、どんな人がいるの?」
貴族社会は人間関係が複雑。下手に藪をつついて蛇を出したくないのです。
「あそこの会長はジェイド伯爵の姪っこよ。お洒落と噂話にしか興味のない人だから、無視しても良いわよ」
そのジェイド領から人材を引き抜きしまくって、ひんしゅくを買っているんですが。
(その割には改ざんのレベルが高いんだよな……うん?顧問のサインがあるじゃないか)
不自然な事に一枚の書類にしかサインされていない。
「王子、少し調べたい事が出来ましたので提出を待って頂けますか?」
お爺様、何気なく入った生徒会ですが、とんでもない闇にぶち当たったかもしれません。
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