そんな縁いりません

 今日で小学校最後の修練となる……八歳から通って約四年修行した事になる。ぶっちゃけ、どれ位強くなれたか分からない。

 言える事はただ一つ。あの日見たジュエルエンブレム持ちの騎士達には、到底敵わないという事。


「さて、トール君。春から中学生……正確に言うと二回目の中学生ですね。中身は中年の中学生……授業中に外見が元に戻ったら、大騒ぎでしょうね……絶対に面白いでしょ。今度、やってみませんか?」

 大騒ぎなんて話じゃない。中学生がいきなりメタボなおじさんになるんだから……てか、そんな事出来るのか?


「確認の為に聞いておきますけど、そんな事が出来るんですか?」

 これは本気の確認だ。この人ならやりかねないから本気で怖い。


「出来ますよ。なにしろ私はスーパーでスペシャルな魔導士ですから。今なら漫画みたく服が破ける特典がつきますよ」

 おっさんのセクシーシーンなんて需要ないぞ。突然真っ裸のおっさんが現れたら、騎士が飛んできてしまう。


「……任意で使える様にしてもらえますか?」

 王様の前や戦闘中に真っ裸になるのは避けたい。


「良いですよ。呪文は“トール・ルーベル”“おはようございます”“トール、マジカルチェンジ。セクシートール華麗に爆誕”の三つから選んで下さい」

 ……実質、一択じゃないか。挨拶の度に裸になっていたら、ただの変態だ。俺そっちの趣味ないし。


「最後のやつでお願いします」

 日常会話でマジカルチェンジなんて言わないし、大丈夫だろ。師匠の性格からして『冗談はこれ位にして』とか言いそうだし。


「新スキルの説明は、これ位にして……トール君、中学生になったら、実戦が始まりすよ。覚悟は出来ていますか?」

 冗談じゃなかったんだ。

 師匠の言う通り、中学生になったら魔物の討伐をしなくてはいけない。治安維持は貴族の責務なのだ。特に我が家が貴族に成りたて。他の貴族は子飼いの部下が功績を譲ってくれるらしいが、俺は自分で強さを証明しなくてはいけない。


「……正直、不安はあります。実戦だから何が起きるか分かりませんし」

 不意打ちをくらう事もあるだろうし、連戦もあると思う。旗色が悪くなって逃げたら、周囲の信頼がガタ落ちする。


「それで当たり前です。これから貴方は魔物だけじゃなく、世間の理不尽とも戦わなくてはいけません。ジュエルエンブレムを持っている貴族だから、魔物に勝って当たり前。いつどこで魔物の被害が起きるか分からないので、気が休まらない。大事な用事より、討伐を優先しないと責められる。何もしない人間程、好き勝手言うのは、異世界ここも一緒なんですよ」

 そう、だから低ランクのジュエルエンブレムを持った人は死亡率が高い。俺のジュエルエンブレムはランクこそ高いけど、実戦向きのスキルは皆無である。

 俺、ゲーム開始まで生き残れるのか?


 ◇

 今日は中学校の入学式だ。前世では近所の友人と一緒に通学していたけど、今世では姉に拘束されています。


「あの姉ちゃん、俺一人で学校行けるんだけど」

 歩いて通学しようとしたら、姉ちゃんに捕まって馬車に乗せられました。


「そうね。行けるわね。でも、その後の問題を考えていないでしょ?」

 通学した後の問題?ヤンキーな先輩に絡まれるとか?


「怖い先輩にいびられるとか?」

 喧嘩で負ける気はしないけど、子供相手に本気になる訳にはいかない。でも、丸め込む自信はあるぞ。


「やっぱり、分かってなかったわね……多分、貴方が一番苦手な事よ」

 俺が苦手な事?ダンスに歌、お洒落……どれも入学式には関係ないと思うけど。


 ◇

 マジか?これは異世界転生でお約束のハーレム展開なのでは?

 中学校に着くと、女子生徒に取り囲まれたのだ。


「トール様ですね。良かったら仲良くしてくれますか?」

「今度のお休みなにかご予定はありますか?」

「君。格好いいね。僕と遊ぼ」

 相手は中学生だから、俺のストライクゾーンから大きく外れている。でも、かなり嬉しいです。


「トールから離れなさい。トールはルーベル家の跡取り、貴女達と釣り合う訳ないでしょ」

 姉ちゃんらしからぬ高慢さと迫力だ。これぞ悪役令嬢といった感じである。

 重苦しい空気が辺りを包む。物凄く気まずいです。


「凄い声が聞こえたと思ったら……親に言われたんでしょうけど、自分達のやっている事分かっているのかしら?」

 重苦しい空気を吹き飛ばしてくれたのは凛とした声である。


「ヴィオレ先輩」

 声を掛けてきたのはアデール伯爵の嫡男ヴィオレ・アデール先輩だ。流石にスカートではなくパンツを履いているけど、妖艶な色気を感じる。

(姉ちゃんを怒りに来たのか?でもヴィオレ先輩は自分達って言ったよな)

 姉ちゃんが相手なら複数形はおかしい。

 伯爵令嬢と伯爵家の嫡男に怒られた女子生徒達は渋々離れて行った……ああ、俺のハーレムが。


「助かったわ。この子、モテないから、ああいう展開に不慣れなの」

 姉ちゃん、いくらなんでもストレート過ぎない?確かにモテないけどさ。


「私もお父様からお願いされていたの。だから気にしないで……でも入学式当日に誘惑してくるなんて思わなかったわ」

 ……アデール伯爵がお願い?確かにマジックスパイダーの糸の関係でアデール伯爵とは繋がりが深くなった。


「その顔は気付いてないわね。あいつ等は親に命令されて、貴方を誘惑しにきたの。目当ては、ジュエルエンブレムとうちの税収アップの秘密。鼻の下伸ばしていたら、痛い目みるわよ」

 姉ちゃんはそう言うと、俺の頭を軽く小突いた。マジか?中学生の娘を美人局兼産業スパイにしたっていうのかよ。


「ここ数年で麦の収穫量はうなぎ登り。魔文字を使ったマジックアイテムにマジックスパイダーの養殖。どこの領地でも喉から手が出る程、知りたい物ばかりなの」

 つまり俺個人がモテていた訳じゃないと……金が目当てだったのね。


「教室に行っても気を抜かない様に。金目当ての連中がたかってくる筈よ」

 マジか……気を付けよう。


 ◇

 ……どうも、ボッチ貴族トールです。姉ちゃん、弟の周囲には人っ子一人いません。


「フォルテ様、同じクラスになれて光栄です。よろしかったら放課後お茶でも」

「フォルテ、お前強いんだってな。今度勝負しようぜ」

「流石は名門フレイム家のご次男だけあり、オーラが違いますわね」

 原因その一、なぜかフォルテと同じクラスでした。ちなみにうちが本家です。

(しかし、こうも早く接点が出来るとはね)


「リベル様、この間買わせて頂いた香水、素敵な香りでした。放課後にもう一瓶買いに行きます」

「リベル、お前の家で売っている剣は品質が良いな。人柄同様、信用が置ける」

「家柄だけでなく商才もおありなんて、キャナリー家は安泰ですわね」

 リベル・キャナリー、黒髪で狐目の少年……はい、こいつも主要攻略キャラです。

 まさか主要攻略キャラ二人とクラスメイトになるとは。

(フォルテはともかくリベルとは、無理に関わる必要はないな)


「それはおおきに……でも商才ならあいつも負けてないと思うで。トール・ルーベルやな。これからよろしゅう頼むで」

 距離を置こうと思っていたら、向こうから近づいてきました。


 リベル・キャナリー 年齢:13 

 ジョブ:キャナリー伯爵家嫡男(魔法使い) 

 髪の色:黒 

 武器:杖 

 趣味:人を笑わせる事・新商品を見つける事・鍛錬 

 好きなデートスポット:劇場・たこ焼き屋 

 好感度の上がる贈り物:ジョークグッズ・ 

 ジュエルエンブレム:翡翠 ランクR オリジナルネーム・千変万化

 キャナリー家の嫡男。いつも周囲を笑顔にしてているムードメーカー。お笑いと商売が大好きな彼。でも、時折見せる影のある表情が気になる。彼の隠された過去とは?

 ……他人の過去を詮索するのは、マナー違反です。

 攻略の下準備が出来てないんですが。なぜ、野郎おとことばかり縁があるんだ!

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