二人目の主要キャラ?

 うん、自画自賛になるけど、魔文字クッション最高だわ。足回りとかにも使ったら、移動が断然快適になると思う。

(これは上手くいると、シャワートイレを再現で出来るんじゃないか?)

 車窓から外を眺めながら、色々考える……現実逃避終了。


「凄い馬車の揺れが殆んどない……トール、これはどういう事かしら?」

 俺は今アデール領に向かっているんだけど、なぜかお姉様も付いて来ています。


「どういう事って?何の事かな?」

 姉ちゃんは俺が魔文字を書き込める様になった事を知らない。前世の事とか知られると面倒臭いし。


「とぼけても無駄よ。貴方最近工房に出入りしているでしょ?」

 確かに試作品のチェックで、工房に行く機会が増えている。でも話をしているのは、工房長だけだし。

(これはカマを掛けられているのか?……よし、知らないふりをしておこう)


「職人さんの仕事に興味があるんだよ。工芸品は、うちの領の財源になると思うし」

 実際電流壁や乾燥倉庫は引く手あまたで、初期投資分を回収出来ている。


「最近、商家のお友達から、うちの領で作った商品を売って欲しいって頼まれる事が増えたのよ。でも、誰に聞いても詳しい事を知らないの。分かった事一つだけ、どの商品にも、貴方の影が見え隠れしているの」

 姉ちゃん、成長が早過ぎないか?人の影響には、周囲の影響が大きい。姉ちゃんと一番親しい人間は家族だ。姉ちゃんはある意味大人に囲まれて育った様な物。

 その中でも一番身近にいたのは、弟である俺……悪役令嬢ルート回避したくて、考え方や物の捉え方を英才教育したんだよな。


「師匠に魔法を使える様にしてもらえたのが、嬉しくてつい……でも、爺ちゃんには、黙っている様に言われていて」

 嘘はついていない。前世の事を隠しながら、説明するのはこれがベストだと思う。


「今から行くアデール領は、美を重んじている地域なの。主な産業は、服とアクセサリー。当然、魔文字商品にも興味を持っているわ。このクッションを隠しておきなさい」

 美を重んじるか。そんなとこの領主が俺に何の用だ?不細工はうちの服を着るなとか、釘をさしてくるんだろうか?


「随分詳しいね」

 小学校女子なのに、情報も凄すぎないか?話を聞いてみると。商家の友達からの情報らしい。つまり親御さんからの伝言と同等だと思っても大丈夫と。


「ヴィオレ・アデールは、私と同じクラスなの。かなり嫌味な男で、根掘り葉掘り聞いて来るから気を付けなさい」

 どうやら姉ちゃんは俺が心配で付いてきてくれたようだ……いくつになっても幼児扱いです。俺が元成人男性だって言って信じてもらえるんでしょうか?


 ◇

 俺の聞いた話ではアデール伯爵の子供は二人だけの筈。姉のブリーゼさんと弟のヴィオレ君。

(こういう場合はゲストと年の近い人間が迎えるって聞いたんだけど……)


「いらっしゃい。レイラと一緒に来たって事は、貴方がトール君ね。私はヴィオレ・アデールよろしくね」

 そこにいたのは派手な服を着た長髪の少女。この髪型はどこかで……。

(確かポリッシュ共和国の歓迎会で見た記憶が……)

 (思ったより目立ってないな……向こうで、女の子同士で踊っているし、同性と踊るのは珍しい事じゃないのかもな)

 紫色の髪をした少女を、数人の女の子が取り囲んでいた。

 この世界では美しさが重要視される。似合えば男が女の物の服を着ても良いし、逆もオッケーだ。


「トール・ルベールです。本日はお招きいただき、ありがとうございましす」

 ヴィオレ君と目が合った瞬間、脳内にメッセージが流れてきた。

 ヴィオレ・アデール 年齢:九歳

 ジョブ:アデール家長男(魔法騎士・跡取り)

 髪の色:紫

 武器:レイピア

 趣味:美容・ショッピング

 好きなデートスポット:服屋・アクセサリーショップ

 好感度の上がる贈り物:香水・アクセサリー

 ジュエルエンブレム:アメジスト ランクR オリジナルネーム・紫色パープルオブ朝露モーニング・デュウ

 一見、女性に見えるけど立派な騎士道を持った先輩。誰でも優しいけど、きっと貴女にしか見せない顔を見せてくれる筈。王子様と仲良しみたい。

 

 男だ。しかも、こいつはメインキャラな筈……確か何のか理由で姉ちゃんを恨んでいた筈。


「あら?服はださいけど、姉と違って礼儀はちゃんとしてるわね」

 あのヴィオレ君、お姉様から怒りのオーラがでまくっているんですけど。

 アデール家の家格は伯爵。うちと同じ、しかも姉ちゃんと同い年だから、無礼にはならない。


「そうね。うちの弟はどこかの女男と違って、しっかり者なの。成績も優秀だし、もうジュエルエンブレム持ちなのよ」

 そして姉ちゃんも負けていない。深窓の令嬢でないし、何しろ姉ちゃんは

 気が強いのだ。


「私が女男なら、あんたは男女よ!トール君、聞いて。この子ったら、素手で虫を掴むのよ」

 まあ、姉ちゃんは農作業を手伝っていたし、昔の家は山間にあった。虫を怖がっていたら、生活が出来ない。

(そういや城に入ってから、蝶以外の虫を見ていないな)

 薄紫色をした城の周りには、色とりどりの花が咲いている。そこを色んな種類の蝶が飛び交っていた。

 でも他の虫は一切いない。これだけ蝶がいたら、蜘蛛とかいそうなんだけど。


「そ、それで今日はどの様なご用件なんでしょうか?」

 これ以上二人を放っておいたら、話が進まない。


「そうそう、貴方達の所で作った電流壁をうちでも導入したの。凄く便利で助かっているわ。でもね、ねずみの死骸もなんとかして欲しいのよ」

 そこまで面倒を見られません。自分達でなんとかして下さい。

(他のところから、こんな苦情は来た事ないよな……そして蝶しかいない庭、なんか気になるな)


「そんな事でわざわざ呼んだの?城の兵士や庭師に任せなさいよ。ネズミなんて猫を放っておけば、食べてくれるじゃない」

 確かに、そんな事だ。なんでわざわざ俺を呼んだんだ?


「うちのニャンちゃん達は、ネズミなんて汚い物は食べないの!それに猫だけじゃ食べ切れる数じゃないのよ」

 いや、一日どれだけのネズミが取れるんだよ。


「その辺の事情に詳しい人とお話出来ませんか?」

 こういうのは現場同士で話した方が早い。

 結果、城の周囲には虫やネズミ除けの結界が貼ってあるらしいしかも、かなりの広範囲との事。

 結界をはるのはティマースキルを持つ庭師達の仕事だそうだ。

(そういやネズミ男もティマ―だったよな……もしかして、また稼げるかも!)

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