遭遇イベントが起きません

 …入学はしてみたものの、一度も王子と会話出来ていない。当たり前と言えば当たり前だけど、王子の護衛に阻まれて近づけないのだ。

 王子が誰かと話す時は、相手に興味を持った時だけ。その他大勢である俺に興味を持つ訳もなく、ただ待つだけの日々。

(シンデレラって柄じゃねえんだろ……ガラスの靴がないから、俺は舞踏会のその他大勢モブなんだよな)

 通学の成果は図書館で魔導書を読めた位だ。小学校に置いてあるだけあって、弱い呪文しか書かれていない。

 図書館に通い詰めた所為か、王子だけじゃなく攻略キャラとも話せていない。

 ちなみに、こちらも王子同様取り巻きが凄い。

 取り巻きは部下の子弟が主との事。幼少の頃から仕え、いざという時盾にもなる。常に傍にいて、細々と世話を焼く。そして有事には盾ともなる。

 その代わり代替わりしたら、出世は約束されたも同然との事。多少弱くても、主が庇ってくれると……ちなみに俺には取り巻きがいません。

(お陰で、こうして一人でブラブラ出来るんだけどね)

 俺は学校帰り王都をぶらついてから帰っている。自分で見た方が、色んな事が分る。お坊ちゃまだけど、買い食いも慣れっこです。


「麦の値段が上がってるな。すいません、何かあったんですか?」

 食品市場に来たら、小麦の値段だけが三割近く上がっていたのだ。


「坊主、元気そうだな。キャナリー領で、ネズミが大発生したんだよ。他領まで出向いて、やっと集めたんだぞ。これでも儲けは殆んどないんだぜ」

 正体を隠しているというのもあるが、なぜか俺は年上の男性に可愛がられている。


「キャナリー領って、小麦や野菜が沢山獲れる所ですよね」

 国内でとれる小麦の三分の一はキャナリー領で作られていると聞く。キャナリー領は農業も盛んだけど、商売も盛んだ。作物の卸業は、領地の商人が独占しているらしい。

(麦の値だけ上がるか……なんか気になるな)

 明日は休みだ。試したい事もあるし、領地に帰るとしよう。


 ◇

 城に着くと、制服のまま執務室へ報告に向かう。


「キャナリー領で鼠が大量発生だと?……トールはどう見る?」

 爺ちゃんは俺が王都で見聞きしてきた事を報告させ、色々質問してくる。情報収集と俺の政治の勉強を兼ねているそうだ。


「麦の値段だけ上がっているのが気になるよね。ネズミが選んで食べる訳ないし……とりあえず言える事はキャナリー領産の麦は領内で流通しない様にしたいな」

 あの後、ニコラさんの部下に調べてもらったら、面白い事が分かったのだ。

 二店舗だけキャナリー領産の麦を売っている店があったのだ。

 一つはキャナリー領の商人の店。ここでは普段の倍近い値で売っていた。


「貧民街で売っていた麦がこれか……普段の半値らしいが、何か問題があるのか?」

 麦は見た目だけは、普通である。そう、見た目だけは……そして持ってよかった植物基礎知識。

 鑑定結果は、鼠の糞尿で汚染された麦と出たのだ。


「それ鼠の糞尿で汚染されていたんだよ。多分、ダニとかも付いていたし。俺が前にいた世界じゃ、鼠の持っている病原菌でかなりやばい病気が蔓延したんだ。同じ菌がある保証はないけど、口に入れて良い代物じゃない」

 爺ちゃんに提出する為、神官に解毒魔法を何度も掛けてもらった。もし、これが市場に出回ったら、かなりやばい事になる。


「我が領は農地改革が上手くいったお陰で、無理に買わなくても済むな……分かった。詳しく調べさせよう」

 地質改善のお陰で見事に麦が実ったのだ。それに以前買っておいた小麦粉も大量にあるらしいので、慌てて手を出す必要はない。


「それと試したい事があるから、雷魔法を使える人を紹介してもらえる?雷魔法は、使っているところを見れれば良い」

 これが上手くいけば王子と接点が出来るかもしれない。


 ◇

 自室に戻って、試作品造りに取り掛かる。用意したのは木の板二枚と紙。板に乾燥魔法を掛けて、解析していく。

(これは凄いな。見ただけで、呪文が文字化出来る)

 文字化した乾燥魔法を紙に書いていく。それを板に張り付けて様子を見る。


「坊ちゃま、なにかご用ですか?」

 どうも上手くいかないので、ニコラさんに相談してみる事にしたのだ。


「符を作ってみたんですが、どうも上手くいなかくて……なにか分かりますか?」

 何回試しても生乾きにしかならないのだ……やはり小学校の図書館では限界があるのか。

 俺の魔法解析は見た物しか分からない。想像で作り上げるにはピースが足りな過ぎる。


「これでは篭められる魔力が足りません……少しお待ち下さい」

 そう言ってニコラさんが持って来てくれたのは一冊の魔導書……これなら上手くいく。


「これで……よし、上手くいった。そうしたら、次は……」

 今度は板に乾燥魔法を書いていく。呪文わざと途中で終わらせて、もう一枚の板に続きを書いていく。

(魔力が流れていない……ただくっつけるだけじゃ駄目なのか)


「面白い事を考えますね。坊ちゃま、一緒に工房に来てもらえますか。専門家に話を聞いた方がよろしいかと思います」

 ニコラさんを交えて、職人さんと協議。やっぱり専門家って凄い。


 ◇

 翌週、試作品が出来たので爺ちゃんの所に提出に向かう。


「爺ちゃん、試作品が出来たんで見てもらえる?それを応用して乾燥小屋を作ろうと思うんだ」

 俺が作ってもらったのは、木製の箱。上部に蓋が付いていて、閉めれば密閉出来る。蓋には魔力を通す素材が付いており、閉めると乾燥魔法が発動する。小屋にした際には、ドアを閉めれば発動。


「これは色々応用が利きそうだな……例の件面白い事が分かったぞ。鼠の被害が出ているのは麦だけらしいぞ。しかも鼠は意志を持っているかの様に、集団で動いているそうだ」

 つまり誰かが鼠を操っていると。そして他の領地でも鼠の害が出ているらしい。これは開発を早くしなきゃ。

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